第20話「待ってろよ」

「ってことが昔あってね…」


 全てを話終えると先輩…いや、菜乃華は申し訳なさそうな眼差しで俺を見つめた。


「私があの時止めていれば噂もたたなかったかもしれなかったのに……!」


 菜乃華は自らの唇を噛み締めた。


「だから、本当にごめん」


 そう言って菜乃華は頭を下げた。


「いやいや、菜乃華が悪いわけじゃないしさ頭上げてよ」


 いつかの時のようにあえて俺はタメ口で話す。


「…でも、今回の件もあの人たちに脅されて口止めされて、それに抗えなかったし……」


 するとまた申し訳なさそうに菜乃華は目を伏せた。


「悪いのは全部あいつらだから!ね?菜乃華は何も悪くないからさ」


 だから、と言って俺は続ける。


「そんな悲しい顔しないでよ…」

「うん…ごめんね」


 そう言ってまた謝る菜乃華の両頬を片手で掴む。


「む…どひたの……?」


 両頬を掴まれた菜乃華は情けない声を出す。


 そして俺は無理やり菜乃華の口角を上げる。


「やっぱり菜乃華は笑顔が似合うよ」


 俺の拘束から解かれようと悶えている菜乃華を見てもういいかな、と思い手を離す。


「なぎさ……そういうところだよ」


 すると菜乃華は上目遣いで俺をじとっ、と見つめてきた。


 そういうところって…俺なんか悪いことしたかな…?


 少しいじらしい菜乃華の姿を見てると少しからかいたくなった。


「にしても菜乃華先輩にも可愛いとこあるじゃないすか」


 すると菜乃華はプクーと頬を膨らませ怒る。


「もう!今更先輩とか敬語とかいらないからっ!からかってるでしょ?」

「あはは、バレた?」


 相変わらず菜乃華はぷりぷりと怒ってる。


 良かった、菜乃華元気出てきたな。


「そんなに謝るなら俺のお願い1個聞いて欲しいなぁ……?」


 菜乃華の纏う空気が軽くなってきたところで俺は切り出す。


「うん、全然いいよ。なんでも言って」

「わかった。じゃあ————」


♢♢♢♢


「やってみる」


 俺がお願いを伝え終わった後に菜乃華は言った。


「うん。ごめんなこんなことお願いしちゃって」

「ううん、全然いいの。任せて」


 俺の要望に菜乃華は笑顔で答えた。


 菜乃華にはできるだけ安全でいて欲しかったがこれは避けては通れないリスクだ。


 勝負は今週一週間、俺には守らなければならないものがたくさんある。


 でも、守るべき存在がある人ほど強いというように自分の心の内に熱いものが宿る。


「じゃあ今日はこれで」


 一通り菜乃華と話し終わった後今日は解散にした。


 帰り道、夕焼け照らす街並みを歩きながら俺は1人呟く。


「待ってろよ皇成……」


 外堀は埋めた。あとは奴に直接攻撃するだけ…


 家に足を運びながら全てが無事に終わることを祈った。

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