第19話「黒い気持ち」
中3の冬にある男が私に接触してきた。
その男は名を
見た目はメガネをかけており、どちらかというと陰キャっぽい人だった。
久王はどうやら同学年の人らしいがいまいち覚えていない。
久王は私にこう問いかけた。
「七瀬渚沙はきらいか?」
その質問の真意は分からなかったが、質問に答えることは出来た。
「ううん、嫌いじゃないよ」
そう言うと久王はニヤリと気味の悪い笑みを浮かべこう続ける。
「そうか…やっぱりそうだよな」
私は久王の纏う独特の雰囲気に逃げ出したくなる気持ちで溢れた。
「七瀬渚沙と付き合いたいか?」
私はその質問に心が揺れ動いた。
なぎさに抱いていた感情がそういうものだということには薄々気づいていた。
「でもそれはあの幼なじみ達がいれば叶わないよなあ」
叶わない恋だっていうことは自分でも気づいてた。
「そう…だね……」
でも、改めて他人から言われると心にくるものがある。
「でも、その恋叶うかもしれないよ」
先程とは一転、明るい声で久王は言った。
その言葉にはついつい私も反応してしまった。
「えっ……?なんで…?」
久王は「知りたい?」と言ってまたニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべた。
「実はね、彼は幼なじみ達みんなに嫌われてるんだよ」
「……え?」
その言葉に私は一瞬理解が追いつかなかった。
でもゆっくりとその意味を噛み締めると、だんだん久王が接触してきた本当の意味が分かってきたように感じた。
「今はしょうがなく関わっているだけの幼なじみ達もこの噂を聞いたらもう関わるのを辞めるんじゃないかな…?」
だから、と言って久王は続ける。
「俺は七瀬渚沙に叶わぬ恋をしてる人を救いたいと思ってこの話をして回ってるんだ」
「…あなたは、なぎさのことをどうおもってるんですか……?」
すると久王はキョトンとした顔を浮かべて言った。
「俺が七瀬渚沙のことをどう思ってるかって?もちろん、大っ嫌いだよ」
久王の反応を見るに余程なぎさのことが嫌いらしい。
正直大体は予想していたが、ここまでとは思っていなかった。
「まぁ俺にも色々あるんだよ」
そう言って久王は手をひらひらと振った。
「あなたにとってのメリットが分からないし結局私に何を言いたかったの?」
「メリットは沢山あるさ、わざわざは言わないけどね。君に言いたかったことは叶わぬはずの恋が動き始めるかもねってこと」
ただそれだけ、と久王は付け足した。
「そう…」
恐らく久王は嘘を言ってるということは分かっていた。
なぎさのためにも、なぎさの幼なじみ達のためにも久王を止めなきゃ行けないことくらい分かってた。
でも…でも、私の口は何故か動かなかった。
自分の中に巣食う黒い気持ちと、なぎさを思う気持ちと、久王への恐怖によって感情がごっちゃになっていたからだ。
そんな私の感情など知るはずもなく、久王は会話が終わると直ぐに去っていった———
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