第9話「5年前の記憶」

「ちょっと助けに行ってくるわ」


 俺はその光景を見てすぐにそう言った。


「うん、気をつけてね」


 心配そうに見送る透織を背に星那の方へ歩いていった。


 だが、星那とあと数メートルというところで1度立ち止まってしまった。


 星那に握手をせがんでたやつは、同じクラスの陽キャ2人だった。


 だが俺はまたあの日のように悪者にされいじめられるのではないかという恐怖の気持ちを抑えこみ3人の間に割り込んだ。


「おい、俺の彼女になんか用か?」


 俺は星那に向かって手を伸ばしていたやつの腕を強く掴んだ。


「あ?なんだてめ」

「彼女なわけねぇだろ、こいつは有栖星那だぞ?でしゃばんなクソ野郎が」


 案の定罵声を浴びせられた。が、痩せていたおかげか俺が俺だということはバレていなかった。


「でしゃばってんのはどっちだよ、たまにいるんだよな、せ…透織は有栖星那に似てるから声掛けてくるやつ」


 そこで1度区切り、改めて語気を強めて言う。


「それで透織に迷惑かかってんのわかんねぇのかな?あんま調子乗んなよ」


 その言葉に少し怯んだ様子を見せたが、ここで引くのはプライドが許さないのか強行策に出た。


「おい、聞いてりゃ好き勝手言いやがって…調子乗ってんのはお前だろうがぁああ!!」


 そう言うと2人組の片方が俺に向かって殴りかかってきた。


 やれ、どうしてこうもうちの学校には気性の荒いヤンキーが多いのだろうか。一応進学校だよな?


 でも…


「かかったな」


 俺はそのままそいつに殴られその衝撃で少しよろける。


 もう片方がよろけた俺に向かって膝蹴りを腹に食らわせてきた。


「なんだなんだ?大口叩いた割にクソほど弱ぇじゃねぇか」

「今なら謝れば許してやるよ」


 甚だ疑問なんだがこういう輩はなんで謝罪を強制させるんだろう。


「謝って何になるんだ?」


 後ろで心配そうな目をしている星那を横目に俺は余裕を装ってる弱者を演じた。


「何強がってんだよお前」

「弱いやつが強がってんのが1番痛いぞ」

「そうだな、お前ら今から痛い目見るもんな」

「は?」


 刹那、俺は2人の足元をすり抜け後ろに回り込み、2人の頭を掴みそれぞれをぶつけ合った。


「ぐっ…」

「あ…あ…」

「お…前…ぜった…い、皇成さんに…言ってやる…」


 少し目が虚ろになっている片方をもう1人が抱えて逃げていった。


 そこで俺は何となく察していた。


 あの進学校でヤンキーが沢山いるのは、大元がいるということを。


 そしてそいつをどうにかしない限り俺の冤罪は晴れないのではないかと言うことを。


「はぁ…」


 あまりの世の中の理不尽さ、闇の深さについため息がこぼれてしまった。


「渚沙!大丈夫…?」

「なぎにぃっ!!」


 そうしていると星那とスマホを持った透織が駆け寄ってきた。


「あぁ、俺は大丈夫。星那、怪我は?」

「ううん、ないよ」

「そっか、良かった。それと、透織も動画ありがとな」

「うん…」


 心配そうにする2人に俺は笑顔を向けて言った。


「だいじょぶだって!俺を脱陰キャさせるんだろ?ほら、行こ?」

「うん…あのさ、いつも迷惑かけてほんとにごめんね」


 すると星那は申し訳なさそうに俯いた。


 あぁそうだ、あの時もこんな風に助けたんだっけな。


 そう思うと5年前の記憶が俺の脳内を駆け巡った。


 5年前の記憶を思い出していたのは俺だけではなく、星那も同じだった——



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



 秋の高い空、雲ひとつない晴天、心地よく吹く秋風、まさに秋晴れを代名詞とするような清々しい天気だった。


 だか、そこにはそんな清々しい日には似つかない声が高々と響いていた。


「あんま調子乗んなよブスが」

「勘違いすんなよ!」


 私は、溢れ出る涙を必死にこらえただただ俯くことしか出来なかった———

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