第12話「2年分の笑い」

「星那〜、おーい星那ー?星那ーー!」

「…へっ?」

「大丈夫か?」


 少しぼんやりとしていた星那をなんとか現実世界に引き戻すことができた。


「服屋入る前からずっと上の空だったけど、考え事か?」

「うん、まぁそんなとこ」


 俺らはあの後服屋に来ていたんだが、どうも星那が上の空だったから心配していた。


「それよりさ、どう?これ」


 俺は透織セレクトのコーディネートを見せた。


「ん〜…悪くは無いけどちょっと中学生っぽいと言うか…」

「あー!せなねぇ遠回しに私の事子供っぽいってでディスってるでしょ!」


 星那の言葉に透織が怒ったように反応した。


「いや…そんなつもりは…ねぇ?」

「ねぇ、と俺に言われてもな」


 俺に同意を求めてきた星那だったがそこで同意しても透織に責められるし同意しなくても星那に責められるしで困った俺ははぐらかす事にした。


「せなねぇ酷い…」

「星那だってそんなにつもり無かったし…」


 こいつら仲良いのか悪いのか分からんな…


「まぁまぁ、星那はわざとじゃなかったとしてもちゃんと謝って、透織もわざとじゃないって言ってるし許して、2人ともそれ以上この話を深堀りしないこと!」


 俺は最後に「わかった?」と付け足して2人に告げた。


「うん…透織ごめんね?」

「うん、いいよ。私こそ突っかかっちゃってごめん」


 なんだかんだ2人とも優しくていい子なんだよなぁ


「よし、2人ともえらいぞー!」


 そう言って俺は2人の頭を髪が崩れない程度にわしゃわしゃと撫でた。


「ち…ちょっと渚沙ぁ、恥ずかしいって…」

「……なぎにぃなんかお父さんみたい」


 ん?そんな老けて見える?俺。結構ショックなんだけど。


「お父さんって……ぷっ…たしかに…くく」


 すると2人して俺の事を笑い始める。


「ちょ、2人とも酷くない!?俺そんな老けて見えるかな…」


 なお一向に笑いが収まらない様子。


 え、なに?これ俺新手のいじめにあってるの??


 でも、心地悪くは無い。


 この瞬間瞬間1秒1秒が幸せだ。


 目の前で笑っている2人の姿が、昔と重なる。


 記憶の扉を開けて情景とともに懐かしさを運んできた。


 あぁ、懐かしいなこの感じ。


 心がふわふわするような高揚感に包み込まれる。


「ありがとな、2人とも」


 気付かぬうちにそう口にしてしまった。


「え?なに?自分が笑われてるのに感謝って…」

「もしかして…ドM??」


 そこで2人はまた笑い始めた。


「ちょ…ドMじゃねぇし。それは星那だろ?」

「なんで星那なのさぁ!」


 でも今度は、俺もその輪に加わって2年分の笑いを共にしたのだった————

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