第23話「"やっと"来たか」

「着いた…」


 俺が今いるのは使い古されて無人になったビル、いわゆる廃ビルというやつだ。


 俺がここにいるのには理由がある。


 ここは、やつら…皇成たちが拠点としている場所だったからだ。


 今日俺は奴らを潰しに来た。


 恐らく少なくても10人くらいはいるだろうと見積もっている。


 正直ただの喧嘩バカが10人かかってこようが問題は無い。


 この前見かけた感じだと格闘技をかじってるやつは少ないだろう。


 強いて言うなら皇成だ。


 あいつからは何か独特の雰囲気が伝わってきた。


 やはりあいつが1番の強敵になるだろう。


「じゃあ行くか」


 そう思い奴らの拠点へ足を踏み入れた。


 コツコツとやけに静かな廊下に足音が響く。


 奴らの拠点は2階の事務室だ。


 階段をあがり、2回の事務室の扉の前で1度深呼吸をする。


 中からは数人の話し声がする。


 俺は意を決してその扉を開いた。


「よぉ、"やっと"来たか渚沙」


 中には10数名の不良がおり、その奥に鎮座していたのはいつしかのコンビニの前で見た皇成だった。


「来るってわかってたのか?」

「あぁ、まぁいい。座れよ」


 そう言って皇成は迎えのソファーを指さした。


 俺はそれに従いソファーに座った。


「で?何しに来たんだよ」


 不気味な笑みを浮かべた皇成は俺に尋ねる。


「ちょっと野暮用でな」

「ははっ、そうかそうか」


 すると皇成は内ポケットからタバコを取りだし火をつけた。


「たまたま俺も話したいことがあってなぁ、聞いてくれるか?」

「あぁ」


 ふーっ、と煙を吐き出しながら皇成は話し始めた。


「実はな、俺らがお前を停学まで陥れたのはこいつらが襲ってるところを邪魔されたからじゃないんだ」


 そう言って指で挟んたタバコを周りにいたやつにに向ける。


 そいつはいつしか旧校舎近くで出会った時田拳聖だった。


「じゃあなんで…」

「もともとな、お前は俺らに潰される運命だったんだよ」

「は……?」


 驚く俺を他所に皇成は淡々と続ける。


「お前、久王って知ってるか?」

「っ!!……」


 そこで俺は大体のことを察し、こくりと頷いた。


「そいつなぁ、実は俺なんだわ」


 やはり先程察した通り、皇成は菜乃華が昔接触したという久王だった。


 俺は今まで分からなかった事が分かり、やっと歯車が噛み合ったような感覚に陥った。


「俺はお前のことが死ぬほど嫌いだ、殺してやりたいほどにな」


 でもなぁ、と言って続ける。


「殺すのだけじゃつまんねぇ、だから俺は内側から苦しめてやるんだよ」


 そこで皇成はまた気味の悪い笑みを浮かべた。


「こうやってな」


 その瞬間、俺の後ろのドアが開かれた。


 外から入ってきたのは、手をロープで縛られた俺の1番年下の幼なじみ、雪宮陽菜ゆきみやひなだった——

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