第29話「ごめんね」
♦︎♦︎♦︎♦︎
だんだんと視界が明るくなる。
あぁ、俺気絶してたんだ。
目の前には警官が何人かいて俺が目が覚めたことに気づいたらだんだんと近づいてきた。
「久王皇成さん、署までご同行願えますか?」
そう言って警官は俺に手を差し出した。
俺はその手を取って「はい」とだけ言いおとなしくついていった。
急に目に涙が溢れてきた。
自分自身に嫌気がさしたのかもしれない、自分に呆れたのかもしれない。
でもこの涙は決して忘れてはいけないものだと思った。
「あぁ…何やってんだ俺……」
廃ビルを出て青い空を仰ぎながら呟く。
「ごめんなぁ…母さん、詩織……」
そんな情けない男の声は空気中に溶けて消えて無くなってしまった。
いつか守りたいと誓った幼なじみの姿はもうそこにはなく、ただただ闇に堕ちていく悪役Aの小さな後ろ姿だけがそこにはあった。
償っても償いきれない罪をその情けない小さな背中にたくさん乗せて警察車両に乗り込む。
中から見た外の景色の端に七瀬渚沙の姿を見つけた。
七瀬はこっちをじっと見つめてきた。
絶対に許されないことは分かっている。
窓越しだから伝わらないこともわかっている。
でも、口にしたかった。
『ごめんな、お前は後悔するなよ』
そう口にした。
その時後ろに詩織の姿が見えたような気がした。
詩織はいつも通り屈託のない笑顔で微笑んでいた。
そして詩織は俺に向かって何かを口にした。
————ごめんね、こーちゃん
俺はその言葉の意味がしっかりと分かった。
俺自身の情けなさがかつて守りたいと思った幼なじみに謝罪の言葉を口にさせてしまった。
それは全部俺が招いたことだ。俺の全ての行動のせいだ。
ごめん、ごめん、ごめん…
謝っても謝りきれないことは分かっている。
そんな自分の情けなさにまた涙が溢れそうになって俺は上を向いた————
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます