第15話「黄昏時に上を向く。」

「え…なんで、なんで鳳玖の制服着てるの…」


 驚きで動揺が隠せなかった。


「え?なんでってそりゃ」


 正直この先の言葉を聞きたくなかった。


 こんな危ない学校に星那が来て欲しくなかった。


 今は俺が守ってやることさえできない。


「鳳玖に転入したからね!」


 …だから、こんな学校鳳玖に来たと言って欲しくなかった。


「そっ…か、」


 俺はどうすれば星那を魔の手から逃れさせられるかを考えるのに必死だった。


「ん?もしかして嬉しくない??」


 すると星那が覗き込んで尋ねてきた。


「ん、いや、嬉しいけどさ、なんて言うか…」


 どうすればこの学校が危ないということを伝えられるのか考えしどろもどろになっていると星那が疑問を口にした。


「この前初めて行った日も今日も渚沙いなかったけどどうしたの?」

「あ、いや……」


 俺はその質問にどう答えればいいのか分からなかった。


 自分の頭の中で様々な考えが交差してぐちゃぐちゃに絡まっていくのが自分自身でも分かった。


 あぁ、どうすりゃいいんだこれ……


 自分自身に混乱して1人困っていると、星那の後ろからひょっこり小さな影が出てきた。


「なぎくん久しぶりなの」


 そこに居たのは幼なじみの中でも2番目に年上で、俺のひとつ上の結城陽華ゆうきひかげだった。


「…え?…ひ…かげ……?」

「そうなの、陽華なの」


 陽華は相変わらずな話し方をしており、年上とは思えないほどの愛らしい見た目をしていた。


 髪もポニーテールに結っており、より子供らしさが際立っていた。


「久しぶりだな…元気だったか?」


 俺はそうやって話しかけた。


 それは実に約2年ぶりの会話だった。


「うん。なぎくん急にいなくなるから寂しかったの」


 きゅるん、とした瞳をうるうると揺らし俺を下から見つめるその姿にギュッと心臓を鷲掴みにされたような錯覚を覚えた。


「寂しくさせてごめん…」


 そこで俺はそう一言謝った。


 それでもなお陽華の俺を見つめる目はうるうると揺れていた。


「あのさ、ひとつ聞きたいんだけど…」

「うん」


 陽華に聞きたいことがあり、質問をしようとした。


 でも俺は直前で本当にこれは聞いていいのか、俺がまたただ傷つくだけなのでは無いか、などさまざまな思考が横切り一瞬言葉を止めてしまった。


 でも…


「……陽華は俺のこと嫌い?」


 勇気を振り絞って言った一言だった。


 でも陽華は、そんな勇気を振り絞った俺の一言にそんなことかと言わんばかりに微笑した。


 でもその微笑が今の俺には嬉しかった。


「陽華がなぎくんのこと嫌いなことなんてないの。昔からずっと変わらず好きなの」


 赤く染まる夕日差し込む玄関口で微笑みながらそう告げる陽華は、さながら天使のように思えた。


「あぁ、そっか…そうだよな」


 星那と再開した時も、透織と2年ぶりに会った時も、そして今さっき陽華と話した時も、みんな寂しかった日々と区切りをつけるような表情をしていた。


 つまり、少なからず俺が彼女たちの生活に影響を与えてたということだ。


「ごめんな…本当にごめん」


 そう言って俺は二人のことをギュッと抱き寄せた。


「え…?ちょ…ちょっと渚沙!?」

「なぎくん、ちょっと恥ずかしいなの……」


 二人は思い思い困惑の言葉を口にしていた。


 それでも、それでも今はこうしていたかった。


 自分の心に寂しく無いと言い聞かせていたが、結局一番寂しがっていたのは俺だったのかもしれない。


 黄昏時、俺は二人を抱きしめながら溢れ出る感情を堪えきれずに上を向く。


 そして俺は告げる。


「今まで寂しくさせてごめんなぁ……俺の元に戻ってきてくれてほんとにありがとう」


 あぁ、俺は本当に最低なやつだ。


 人の気持ちもわからず勝手に勘違いして空回って……


 でもそんな俺の元に戻ってきてくれる何より大切な幼なじみがいる。


 そんな幼なじみを俺は死んでも守らなければいけないと思った。


 夕陽が地平線から顔を隠す頃、俺は密かに誓ったのだった———

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