第4話「有栖星那」

 家に帰った俺はたたぼんやりと流れるテレビ番組を眺めていた。


 そこに映っていたのは今絶賛売り出し中の若手声優。


 いまや声優でもYouTuberでもなんでもテレビに進出してくる時代になったのか…としみじみとしていた。


 その声優の名前は有栖星那ありすせいな


 俺はこの声優を知っている。


 好きな食べ物も、好きなスポーツも、お気に入りだった洋服も、天真爛漫な真っ直ぐな性格で売り出しているが本当は泣き虫なところも、全部知っている。



 だって星那は俺の、幼なじみだから。



 昔は虫にすら怖がって俺に泣きついてきたことだってあった。


 そんな星那がいまや立派な売れっ子声優として日本に彩りを与えている。


 そんな星那を幼なじみとして誇りに思う気持ちと、もう会えないのか、という寂しい思いが心の中で交錯している。


「はぁ…もうみんな俺の手には決して届かないところに行っているんだな…」


 誰もいない空虚な空間に俺の呟きが溶ける。


 俺の見つめる先には荒野に咲く一輪の花のように輝く星那の姿があった。


「俺には、星那の活躍を見守る資格もないな」


 そう思ってテレビを消そうとした時だった。



 ピンポーン、ピンポーン



 沈んでいた俺の心を嫌でも強制的に現実に引き戻すかのようにチャイムが鳴った。


「誰だろ…?」


 この時間に…いや、そもそも俺の家に尋ねてくる人なんていないからおおよそ宅急便だろうなと思い、通話で「いまいきまーす」とだけ言って印鑑を持ち玄関に向かった。


 そして扉を開いた。


 だが、そこに居たのは宅配員ではなかった。


「……え、あ、何…で…?」

「渚沙、久しぶり!」

「星那…」


 そこに居たのは、さっきまでテレビで見ていたはずの有栖星那だった——


♢♢♢♢


 今俺の向かいには超がつくほど可愛い売れっ子声優がいる。


 それもここは俺の家、そんな状況で胸が高まらない男なんていないだろう。


 だけど俺は違う。


 いや、胸の鼓動が早くなっている点では同じだろう。


 だが、目の前にいるのは幼なじみ。それも俺は嫌われている。


 何を言われるか分からないという怖さから鼓動が早くなっている。


 星那は、出された麦茶をゴクリとひとくち飲んで俺の方をじっと見つめてきた。


 なんだ、なんなんだこの時間は!ものすごく怖い…2年越しに家に押しかけてこれから何を言われるか検討もつかない……


 緊張の空気がその場を支配し俺は固まる。


 そんな空気に耐えかねて俺は口を開く。


「仕事とかは…大丈夫なの?」


 緊張のせいか少し声が震えていた。


「うん」


 それだけ答えるとまた星那は麦茶をひとくち飲んだ。


 コップを机にコツ、と置くと星那はふぅ、と一息ついてからこう続けた。


「渚沙勘違いしてそうだから先にこれだけ言っておく」


 そこで言葉に一区切りをつけて少し俯きながら星那は俺に告げる。


「星那はさ、渚沙の事好きだから…」


 うんう…ん?……えっ?なんて??

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