【第32話】最悪最強の魔王
赤いゴブリン?は?
ラナとハローィの頭には疑問詞が浮かんだ。
何かの比喩か冗談か。
そんな二人の様子を見て男はガハガハ笑った。
「そうであろう。意味が分からんよな!ガハハ!」
ザバァー。屈強な身体をした男は裸のままプールから上がった。
「つまりワシはそういうモンだ」
ハローィは剣を抜いて身構えた。
「ラナ、下がってるんだ」
「はい…!」
ボッボッボッ!!
男の足裏からの火が吹かれ出した。
その勢いで男は宙に浮く。
「ぬぅ?お主がラナであるか…、そうか…。そうか…、仕方ない」
事故死として報告すればよいか。
そう言って火は激しさを増し、頭から男は二人の元へ飛来した。
───ハローィの持つ剣は魔剣である。
とっさに振られた聖魔剣パールはカウンター気味に帽子の脱げた男の頭を捉えた。
しかし砕けてしまったのは刃の方。
ボン!爆発した。
◆
「ガハハ!今ので死んでないのか!見事!」
爆心地で裸の男は楽しそうに笑った。
防御力をアップ補助させるスキル【織天使の恩寵】によってハローィたちは先の爆発を耐えることができていた。
爆発はもしスキルを発動させてなければ軽く死んでいた威力だ。
「ぐぐ…、お前は」
死にはしなかったもののダメージは甚大。
吹き飛んだ際に頭を打って気絶したラナは後方でピクリとも動かない。
「頑丈な奴は大好きだぞ。ワシは全身火器火器人間…。いいや、兵器人間だ」
肘から火が放たれ、加速されたパンチがハローィの顔をぶん殴った。
頭蓋を粉砕されたと錯覚するほどの一撃だった。
ハローィの身体は宙を舞ってプールの縁に落ちて転がってしまう。
最初に行ったのは自分の頭部が残っているどうかの手触りによる確認だった。
これで意識が飛ばなかったのは、多くの部下を失い覚悟した次期王としての自覚のおかけである。
「んふ〜、やはり自前の細胞は馴染む。培養された疑似魔王細胞とは違うな」
こいつは獣だとハローィは思った。
会って早々に一方的ここまでボコボコにされた。
言葉は通ずるのに会話が通じない。
クマと出逢ってしまった気分だ。
「わ、私は王子だっ…!」
ハローィは聖魔剣パールの柄を投げ捨てた。
「ぬ?それがどうした。ワシはまお───ビカっ!
強い光が部屋を強く照らした。
剣に備わっていたスキル【発光】の発動であった。
一瞬の目眩ましの中、ハローィはプールに入っていった。
深さは腰辺りまで。
男が平然そうに入っていた化学薬品のプールだが、ジューと熱く足を焼いた。
それでも構わずハローィは進んで水面にうっすら見えていた影へ向かって液体に手を突っ込んだ。
「ぐぁあ!!」
ここで負けるわけにはいけない。
焼かれながら手に取った物は刃先の長い剣だった。
おそらくこれこそラナの言っていた超兵器だ。
瞬間、ハローィのこの剣に秘められた圧倒的パワーを感じ取り、脳裏には剣の銘が浮かんだ。
力強く剣の名前を叫ぶ。
「レーセンよ…!私に奴らを滅する力を貸せぇえ!!」
ゾルバカゾゾゾゾ!!!
王子の声に呼応して剣から触手が湧いた。
なんと気色の悪い物だろうか。
想像していたのと違うとハローィが思ったときには彼はその触手によって縛り上げられていた。
「貸せぇ?貸すわけなかろう、馴れ馴れしいのぉ」
そう言ったのは裸の男だった。
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