【第9話】ありえない
(頭が、ボォーとする…)
エリーナは身体半分土砂に埋まっている。
これからどうする。このままやり過ごせば逃げれはできる。
逃げてイーサンたちと合流して【黄金の希望】で再挑戦する。それが最善択のはずだ。
(いいや…、ダメ…)
怪物の顔はアリスアンダーの顔をしている。
母の顔が国家指定討伐最優先モンスターとして写真に載ることは許せなかった。
女王アリスアンダーの名誉が汚されるのだけは許せはしない。
(それに…、私だけだよ…)
きっとエリーナ・アルライクル以外にこの化物に太刀打ちできる者はこの世にいない。
強大な魔法の波状攻撃、最強の王国軍でも近づけもせず壊滅するだろう。
無敵の障壁を持つエリーナだけが活路を見いだせるし、立ち向かえるのだ。
身体はボロボロ、しかしベストポジションを得た。逃げる道理はない。
ここから勝てる算段が至高の魔術師にはあるのだから。
ゆっくりと起き上がる。
(ここは…、ちょうどいい…)
怪物は魔法障壁を追おうと前進して、少女の目の前にまで魔法障壁は迫っていた。
手を伸ばせば触れれる距離、まだ怪物は少女に気付いていない。
障壁に両手をぶつける。
エリーナの魔力の神髄は【解析】だ。
あらゆる魔法の術式を彼女は解き明かし理解することができる。
最近では魔王城の大扉に施されていた未知のロック魔法を数分で理解し抉じ開けた実績を持つ。
ここで怪物は少女の存在に気付いた。
己の巨大な魔法障壁を突破しようとしていることにも。
しかし母は知っている。アアアアアアアア!!!
優れた魔法障壁に対しシェイクして中身を殺すとしか答えれなかった自分と違い、【解析】という彼女だけの強さで、違うやり方を示した娘の存在を誰よりも知っている。
だから怪物のエリーナ対策はばっちりだった。
敢えて魔法障壁にはぐちゃぐちゃな術式が組み込まれている。
そしてグチャグチャのコードの中にはクイズを仕組んでいる。戦闘に参加していないラシャルモニアの天才たちの脳みそたちが常に新鮮な術式問題を生産して魔法障壁に送り込んでいる。
術式を解明するには幾百万のクイズも解く必要を用意した。
エリーナならそのすべてを解き明かすことはできるだろう。百年もあれば。
いくら優れていようとエリーナは個の脳みそ。量で勝る、それが【解析】対策だ。
エ、エエ、リ、リリリリリィナァアアアア!!!
怪物は勝利を確信している。
(でもね、お母さん…)
対策がされているのを知ったエリーナは目を閉じた。
少しだけ嬉しかった。理解されているようで。
でも、まだ教えたいことがある。
(私ね…、友達ができた、よ…)
ラシャルモニアの外にはいろんな人がいた。
学者肌ばっかりのラシャルモニアにはいないような人種と出会えた。
弱いのに強い人がいた。隠し続けている人がいた。優しくて大好きになれた人がいた。ゴブリンがいた。
母に勧められて出た外の世界で少女はそんな変な者らと仲間になった。
優秀すぎてずっと孤独だった少女にとって素敵な出会いがたくさんあった。
アリスアンダーはエリーナのことは何だって知っている。癖も得意も嫌いも、何だって。
だけども、手の届かない外の世界でできた娘の友達の事はまだ知らない。
───殴って魔法を破壊できる魔術師にとって悪夢のような少女がいた。
友達ができたよと紹介するように少女は使う。
「【
ドゴン!!!!!!
ありえない現象が起きた。
怪物の魔法障壁の一部が破裂して砕けた。
エ、エ、リ、リリリナァアアア!!!
ありえない。魔法の術式が物理的に吹き飛んだ。
用意していたコードぐちゃぐちゃの術式も、莫大な量のクイズ術式も物理的に踏み潰された。
何だこれは。聞いたこともない。こんなこと。
まだ解明は研究途中で不完全だが、ナックルが身体能力で瞬間移動魔法を再現できるように、エリーナも魔法を用いて疑似的に同現象を再現できるようになっていた。
それが触れて魔法を破壊する魔法、ナクラルだ。
頭突きで南京錠を破壊するような手荒な技、ドバーと鼻血が出たが構いはしない。
これで互いにノーガード…、いや。
「【
どこか遠くに飛んで行った魔法障壁を自分の元に戻す。
アアアアアア!!エ、エリィィイナァ!!!
【修復】≪サバン・フォース≫
割れた怪物の魔法障壁は修復していった。しかしもうエリーナはその内側にいる。
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