【第3話】魔王鎮魂祠
その武力、魔力量、知識、従軍規模、カリスマ性、それぞれ十分驚異的だが───
最も恐ろしいのは、魔王に殺された者は成仏できないことだ。
◆
魔王に殺された者は魂が穢れて輪廻転生の環から外されてしまう。
この世の終焉を迎えるその日まで、永劫を虚無のまま過ごさなければならない。
想像しただけでも恐ろしい。
そしてそれは魔王自身もそうであり、肉体を打ち砕かれ倒された魔王の魂も延々と地にとどまるという。
その消えることのない強大な魔王のソウルを封じて鎮めるのがこの白い祠。
魔王のソウルを鎮めるための生贄こそ【選ばれし者】。
魔王を倒した後は必ず仲間の一人の命を捧げなければならないと王は俺様だけに教えてくれた。
百年前の【選ばれし者】たちも、二百年前も、三百年前も、記録に残らないずぅっと前から同じことをやってきたらしい。
正直よく分からんが、王から直々に命令されていることだし従うだけだ。
犠牲となる奴を誰にするかも悩む必要もなく適任がいることだしな。
「もしかすると、お前はこの為に選ばれたのかもしれないな…」
ラナ、ナックル、エレーナ、ゴッズの中から生贄を選ばなければならなかったら俺様は苦しんだ。
大事な仲間であるからだ。だが【黄金の希望】にはゴブルがいる。
くくく、皮肉なもんだ。こんな形でしか感謝できないなんてよ。
ゴッズの手によってゴブルは物理的に祠に詰められようとしている。
ゴブルは必死に手足を伸ばして抵抗する。
笑える姿だ。何やってんだお前ら。
「ハハハ!ゴッズ、祠には無理やり詰め込むもんじゃねぇぞ」
「……」
詰め込むのをやめたゴッズはゴブルの身体を首を持って片手で持ち上げた。
どうするんだ。と言いたげな顔をする。
「こうするんだよ!」
ドス!!俺様の聖剣がゴブルの胸に突き刺さり貫通した。
胸の中の【織天使の致死否定】の光球が破壊される。心臓も同時に破壊した。我ながら見事な一撃。
「あ、が、が…」
「ゴッズ、放していいぞ」
落とされるゴブル。これまで飽きるほど見てきたゴブリンの死に際だ。
死の匂いに反応して白い祠が震え扉が開く。
内部は星々のように光の煌めく奥の把握できない空間だった。
祠から黒い手が伸びた。
「安心しろ。お前の名前は最終決戦で勇敢に戦った勇者として歴史に遺る。亜人問題もお前を御旗にした改善があるだろう。お前の死は決して無駄にはならない」
「あ…、ああ、あああ…」
黒い手に掴まれたゴブルの四肢が腐る。祠の中へ連れて行こうとする。
最期まで見苦しい奴だった。
ずっと言いたくて我慢していた言葉がある。やっと言える。
ようやく言える。心を込めて言おう。
「───
いぐぎゅぎゅゆぎゅががやがぐぎぎゅぎゃだぁあぁあぁあぼぎゅばぎゅああ。
ぐちゃぐちゃ1リットルサイズに肉体を折り畳まれながらゴブルは祠の中に納まった。
バタンと扉が閉まる。今後百数年の平穏が約束された。
勇敢なる亜人【上小鬼族】ゴブル・マーチは魔王との戦いの中、散った。
───世界に平和が訪れた。
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