【第21話】打開策
ラシャルモニアが壊滅したと報告を受けたあの日。
エリーナが先走り、それを追った俺様たちは列車に乗ってラシャルモニアへ向かった。
そして俺玉たち三人は列車に乗ったまま腹ペコアンダーのテリトリーに知らず知らずのうちに入り込み、不意を突かれた先制攻撃を受けた。
降り注ぐ万雷の攻撃魔法。
席に座ったまま死にかけた。
助かったのは咄嗟に使ったラナの【織天使の致死否定】があったおかげだ。
他の乗客は真っ黒に焦げて即死したが、耐えれた俺様は体力1のままラナとナックルを抱きかかえ脱出した。
命は助かったが、体力1で耐える代償に寿命を大きく削ったと言うし強い禁断症状に悩まされている酷い有様である。
「ナックル…」
「イ、イーサン…!イーサン!は、早く…!早く!アレを…!」
ナックルが亡者のように寄ってきてアレをねだってきた。
揺れた服は汗ばんで熱く湿っている。
「ああそうだな。よしよし。言う通り待てていたな、偉いぞ」
アレとはラナと別れる前に譲り受けた≪織天使の羽≫のことだ。
ナックルを正面に抱いて座る。
荷物入れから取り出した透明な袋に織天使の羽を一枚入れて袋の入り口を小さな口に当てる。
すぅ~はぁ~!すぅ~はぁ~!全力でナックルが袋内の空気を吸って吐いた。
ラナがいないため織天使成分を摂取しこの乾きを癒すにはこのやり方しかなかった。
「ここまでだ」
何度か深呼吸したのを確認するのを袋を取り上げる。
「あ゛あ゛!!」ナックルの爪が俺様の手をひっかいた。
手首を握って袋の位置を戻そうとしてきた。
依存性。脳内快楽。中毒性。自分の手では止められないからこうやって俺様が吸わせている。
「気持ちはわかるがダメだ。分かるだろ…?」
「ううう…!!うう…」
ナックルにも自分がヤバい自覚はあるようで必死になって欲求に打ち勝った。
手を下ろして止めることに従うがこれも時間の問題だろう。
摂取を要求する時間の間隔はどんどん狭まっている。
俺様は心が強い。なのでまだ余裕はある。まだ二日に一度の摂取でも満足できている。
だがナックルはやばい。日に数度織天使成分を摂取しないと耐えれなくなっている。
「【
「う…、くぅ…」
超近距離からの初級睡眠魔法でナックルはトロンと落ちる。
少し
俺様は身体を傾けて少女の服を無造作に脱がせていく。
イヤらしい目的はないぞ、濡れた服を着替えさせてやるのだ。
露わになったナックルの身体は元より女性らしく細かったが更に細くなっていた。
このままではマズい。
こんなジャンキーになっている痴態が発覚してしまえば、その資格がないと後回しにされている爵位の話を取り下げられてしまうかもしれない。
貴族の連中には俺様たちを毛嫌いしている奴らもいる。
そいつらにバレたりでもしたら厄介だ。
そもそも信用して娘を預けてくれているナックルの実家、竜撃拳法総本山ローコ流の武術爺さんたちにこんな状況知られたら殴り殺されてしまう。
このことは絶対に秘密にしなければならない。
「くそ…」
この依存症を治療するにはまっとうな医療では不可能だろう。
少なくとも高価だった状態異常治療薬は効果なしだった。
もはや呪いであるこの症状は奇跡に頼るしかない。
奇跡を扱えるという聖地フェザーの大司祭に頼るほかないということだ。
「バラー平原に陣取る腹ペコアンダーを退治し、そのままフェザーに入って治療する」
そのためにはソランの事も利用してやる。
天幕の外からガリガリガリ!という重音が響いて地面が揺さぶられた。
ナックルが目を覚ます。不安そうな目でこっちを見てきた。
「モンスターの襲来かな…?」
「いいや。これが悪い事態を突破する一手だ」
外では【黄金龍】の上級魔術師たちが集まって地面の土を大量に掘りだしている。
俺様がソランに与えた策。
それは穴を掘り地中にトンネルを作ってバラー平原を横断するというものだ。
腹ペコアンダーは天災クラスの怪物だ。
この広大な平原に延々と降雨させる魔力量はまさに桁が違う。
落雷の魔法は国をも脅かす威力だ。
交戦するよりもまず辿り着くのさえ困難な相手になる。
ならば避けて通るという策でいい。戦わない手で行けばいい。
どうせ目的は結婚式にフェザーまで往来できる道を確保すること。問題はないはずだ。
難癖を付けられても三大騎士団一角の団長ソランが熱弁して話せば上層部も納得するはずだろう。
万全ではない現状ではこれがベストのはずだ。
それにトンネルで先に向かえることが実証できれば腹ペコアンダーの腹下まで行くことだってできるということだ。
後々どうとでも活かすことができる作戦なのである。
「距離さえ詰めれれば俺様たちなら討てる。だろ?」
「うん」
近づけたらこっちのものだ。
怪物を討つ手は見つかった。
地下を掘るのに手伝えることはない。今はソランたち【黄金龍】に任せて寝ることにしよう。
ちょうどいい抱き枕を抱きかかえながら俺様は目を瞑った。
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