【第38話】ゴブラックホール


モコモコ!聖地フェザーから数キロ先の地面が盛り上がり、ズボッと手が生えた。


もう一本。腕は土を押しのける。


「やっと開通したな」


「ですね」


人間が土の中から這い出てくる。

それはイーサンとソランだった。


「モンスターは…、いないと」


「雨も降ってませんし腹ペコアンダーからの攻撃もありませんね」


「ここまでくれば大丈夫みたいだな」


「ですね」


ソランが手を振って合図すると穴が拡張され、大勢の人間が同時に立って出入りできるような地下道の出口ができた。

地下にはずらりと【黄金龍】の兵たちが待機している。


バラー平原トンネル横断計画はうまく進み成功した。


腹ペコアンダーにさえ認知されず横断できれば後は通路を綺麗に舗装すれば任務は完了だ。


これで王族やら貴族やらお偉い人たちを安全に王都から聖地まで送り迎えできる。


後は王都への報告はソランに任せ、自分たちは聖地フェザーで奇跡の快楽中毒治療を受ければいい。


そこでイーサンは空の異変に気付いた。

曇天模様の空が異常な速さで雲散していったのだ。


「あ…?」


───雲の先の空は二色に分かれていた。


「錯覚とかではないですよね…?」


ソランも空を見上げたまま動けなかった。

文字通り彼も仰天している。


朝日と夜空が衝突していた。 


   ◆ 

 

教皇ラスはパラレア大教会そのものと一体化し、数カ所のフロアに巨大な自身の脳みそを復元して用意していた。


その巨大脳みそをフル活用し世界全体に影響する規模の大魔法を発動させようと案じていたのだが、それを看破したゴブルによって阻止されていた。


「まったく面倒なことを───…」


具体的にはゴブルはグールに教皇ラス肉柱を噛ませて血管より卵を送り込んだのである。

卵は巨大な脳にて孵化し痛みもなく内から食い破る。効果的であった。


「あっちが貴方の本体だと思ったんだけどね」


あっちと指したのは巨大脳の方だ。

無数の百足を摘出するのは面倒だとして為されるがままにしている所を見るに教皇ラスにとっては重要器官ではないようだ。


「本体か、見えているであろう───…」


「うん」


天から光の根っこが伸び降りてきていた。

聖地フェザーの直径ぐらいある巨大な根だ。

少しずつ根は地上に伸びている。


「アレが私だ───…」


この教皇ラスも、パラレア大教会と融合した教皇ラスも、あの根から枝分かれした分体でしかなかった。


「ふぅん。そういう大事なこと教えていいの?」


「攻撃したければ自由にすればいい───…」


ラスとゴブルは聖地の上空を飛んでいる。


そうは言っても邪魔する気満々じゃないかとゴブルはニヤけた。


「ちなみ頑張って手を伸ばしてる根が地上に触れたらどうなるの?」


「現実世界と繋がりを得たこととなり、私という意志と融合して自我を持つ───…」


「つまりは完全体になるってことだね」


聖地の空には翅持つ巨人マヤテラたちの生き残りが複数体飛んでいる。

遠巻きに二人の周囲を旋回していた巨人たちは脱皮するように皮と衣服を脱いだ。


中からは光の巨人が現れる。


巨人たちの支配権は教皇ラスに掌握され移っていた。


「あれが伸び切る前にこの私を倒せれば貴様の勝ちだ───…」


「親切な人だ。全部教えてくれるじゃないか」


「問いについ答えてしまうのは職業病だな───…」


「いいや。ワクワクしてるんだよ、教皇ラス」


彼らは同じ目線に立つ相手に妙なシンパシーを感じ合っていた。


「この溢れる全能感をさ、全力でぶつけれそうで僕らは喜んでいるんだよ」


「ああ───…」


そうかもしれぬなとまでは続けることなく、教皇ラスは先手を打った。


飛行する光の巨人たちが光の弓を生成し一斉に矢を放った。

もちろん矢も光、速度は光速に到る。


しかしその攻撃はゴブルにではなく!

───教皇ラスに全射向けられていた。


「【収束する光リリィー・親より指へラウ・バル】!」


ガッ!ゴッ!ボッ!


一度ラスを介して重ねられ増幅された極大光子光線がゴブルを焼く。

否、焼けていなかった。


「ぬぅ───…?」


空間が歪んでいた。


歪みの中心、宙に浮くゴブルの前に黒い点があった。


「【極小禍黒渦ゴブラックホール】」


黒点は穴だった。


この黒穴は光属性の魔法スキルを吸い込む機能があった。

いや光の魔法スキルがこの黒穴に向かって軌跡を変えながら自分から突っ込んでいってしまうのである。


最初に肉柱ラスより光子爆撃を受けていたことで用意していた【術式の魔王】メリッサ制作の魔法である。


この時点でゴブルは教皇ラスのあらゆる光魔法を無効化にした。


ラスも大司祭たちの奇跡を使うのだ。

そこはお互い様である。

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