【第30話】


「フハハ!」


教皇ラスが笑った。

ゴブルのやったそれはとんでもない事だった。


地球上に超極小ブラックホールを作り出すなど───


一歩魔力操作を誤ればに地球がミジンコサイズに圧縮されてしまう暴挙だ。


「安心してよ。ガチガチに術式でコントロールしてるからさ」


ゴブルが漆黒の杖【ルラドータス】を振るう。

先に嘴刃のあるこの杖は槍のように扱えた。


だが振り払われた杖の軌道は逸らされラスの拳がゴブルの顔面を捉える。

 

ラスは奇跡【聖糸結界】を発動させていた。


【聖糸結界】は守りとしてはゴブルに通用しない。

しかしこの場において空中に固定される結界は踏ん張りの効く重要な足場となった。


重く質のいいパンチがゴブルを襲う。

杖で狙うフリをして足場を破壊するが、すぐ次の結界を張られてしまう。


「【黒炎球】!」


ゴブルは漆黒の杖から黒い火球を放つ。

超威力の火の球は雲をかき分け突き抜けた。


「当たらなかったか…!」


教皇ラスは上に跳んで避けていた。


上にも結界は張られそこに男は逆さに着地している。

その状態から上から下に跳んで足からラスはゴブルに突っ込んだ。


「うぉおおおおお!!」


「ぐぁあああああ!!」


二人は聖地フェザーに墜落していく。


【黒い魔雷衝撃】


背中からゴブルは地面に叩きつけられ、落下の途中に発動した衝撃魔法によって教皇ラスは弾かれどこか別の場所に落ちた。


起き上がろうとするゴブル。


「筋肉じゃかなわないや…、ゲホッ!」


壁もグールも砕き光に溶かしながら教皇ラスは壁の向こうから現れた。


「わっ…!」


「ふんっ!」


起き上がる前のゴブルの腹を横から蹴る。

ゴブルは吹っ飛ぶ。


長身痩せ型の魔法使いタイプであるゴブルと違い、ラスはムキムキ半裸の格闘家タイプだ。

接近戦なら教皇ラスに分があった。

魔法を準備する隙がない。


教皇ラフが走る。

障害物を溶かし破壊しながらヌルリと彼は吹っ飛んでいったゴブルの先回りをする。


ゴブルは並行する大地に杖をぶつけ反発で体をひるがえした。

そのままの勢いで超絶の威力を秘める突きを先に居たラスに披露する。


ボン!レレーダの建物群に丸々穴から穿たれる。


しかし教皇ラスは身を捻って避けている。

流れのまま手刀がゴブルの心臓を狙った。


瞬転黒小鬼ブラックワープ】。


瞬間移動してゴブルは攻撃を避けた。

高層建物の上に降り立つ。


(何だ。異様に大きなエネルギーの膨らみがある───…)


壁を駆け上がり追いかけようとしたラスはその前に上空の何かに気づいた。


ゴブルは上空にゴブラックボールを置いてきていた。

残された黒穴は大空の微量な電気質をまんべんなく引き寄せ集めていた。


それは破滅の卵。


卵は弾けて割れて中身が開放される。


「【黒の堕塔バベル】!」


バリ!バリ!ババババババ!!!

ゴブルの膨大な魔力と融合した電気の塊は黒雷となって降り注いだ。


聖地フェザーの一角、レレーダの全てが灰燼に帰していく。

光の巨人たちも為す術もなく消されていく。


すべてが破壊されていく中でゴブルだけが空を仰いでいた。


「だから言っただろう!白は黒で染められるだけなんだって!ハハ!」


楽しそうなその後ろに、教皇ラスは静かに佇んでいた。


ハッと後ろを振り向くと同時に胸を腕で貫かれた。


「心臓を潰せば死に絶えるか───…?」


「ハッ…!ハハ!」


黒雷の雨の中ラスの身体も他のもの同様に破壊され続けていっていたが、それに勝る増殖力でむりやり形を保っていた。

破壊されるぶん再生するという強引な力技だ。


直後、真横から飛び込んできた大きな口に二人は食べられてしまった。

それは雷を帯びた黒龍だった。


ラスは光線を放射して内側から黒龍を殺す。


胃から飛び出すとそこは宇宙空間であった。


寒く息のできない空間であったが、その程度は無視できる。


黒雷で生み出された黒龍は散り散りに消えていく。


「黒の王よ、どこだ───…」


一緒に食われたはずのゴブルの姿がない。


(やけに太陽が近いな───…)


「いや違うッ───…!」


一瞬勘違いした視界の端の巨大な光源は太陽ではなかった。

本物は後ろに控えている。

ならばこれは…!?


「黒の王ッッ───…!!」


「ここでなら全力を出せるよ!教皇ラス!」


放たれた巨大なエネルギー球体はラスを直撃した。

ゴブルの本気の一撃だった。


「やったか…!?」


ドバッ!やっていなかった。


全身の表面に光エネルギーを纏い、教皇ラスは巨大エネルギー球体の中心を泳いで反対側から突破してきたのである。

無論無事ではない。全身が焼け爛れた。


だが代わりにまた距離は縮められた。


溶解し輝く飛沫をあげキラキラしながら宇宙空間を舞う姿は神の使いのようにゴブルの目には映った。


「ガァアアアア───…!!!!」


光エネルギーと身体が混じり合う───

教皇ラスは光の化身となった。


ゴブルには光属性対特化のゴブラックボールがある。

この黒い点から光は逃れることはできない。


だからまず教光ラスはそれを捕まえる。


光る腕で超極小ブラックホールを握り潰した。


「あッ」と言う間に。


光の速度でゴブルは殴られた。顔が凹む。


「ウォオオオォォォ───…!!!!」


宇宙空間に光の魔法陣が出現した。


光が、黒を包む。

覆う。


───白の絵の具が黒を染めてみせた。


   ◆


ドサリとリカリシューの建物の屋上にに何かが落ちた。


それは頭部、手先のない右腕、右胸しかないラスの身体だった。


「ガ、グ───…」


教皇ラスは宇宙空間で全力で戦った。

地球を巻き込まない分、100バーセントの底力まで発揮できた。


しかしそれでも───


「楽しかったよ」


勝ったのは【黒の王】ゴブルだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王も倒せたので無能でキモいゴブリンをパーティーから追放したら復讐しに来て「ざまぁ!」されそうです。~信じていた仲間に裏切られた僕、追放された先で魔王パワーを手に入れて復讐を果たすと誓いました~ @neko_taile

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ