第34話【00:33】
ラナはレーセンを物のようにどかした。
触手たちから力が抜け、ハローィは縛りから抜け出す。
「【織天使の癒やし】」
パァとハローィの火傷した身体が治された。
「ハローィ…!」
「ラナ!よくやった!よくぞ倒した!」
「クガクちゃんが私に力を貸してくれたんですきっと…」
クガクのナイフは護身用にハローィがラナに渡していた物だ。
お守り代わりにでもあった。
ラナは油断を誘ってレーセンの頭にそれをぶっ刺してやった。
「超兵器は利用できないみたいですね…」
「ああ。仕方ない、こうなっては聖地から脱出しよう」
「それしかありませんね」
ッピ!
レーセンの元から音がした。
「まさか生きているのか…?」
おそるおそるハローィが確認に寄る。
レーセンは息をしていなかった。
頭にナイフを突き刺したまま息絶えている。
全裸の男は確かに死んでいた。
しかし男の胸には先程までなかったはずの四角く黒い画面があった。
そこに【00:28】という赤い色の数字が表示されていた。
ッピ!【00:27】
数字が減った。ッピ!【00:26】
一秒間隔で数字は減っているようだ。
「これは…いったい…」
ッピ!【00:25】
数字…。カウントダウン…。この見た目…。
火…。爆発する男…。
ラナは凄い嫌なことを想像した。
「時限爆弾…、じゃないかしら…?」
「え…!?」
ラナとハローィは顔を見合わせると息を合わせて部屋から走り出ていった。
カンカンカン!通路を抜けて鉄網の橋を渡って行く。
ッピ!【00:20】
暗く静かな所で眠りについているレーセンは過去の事を思い出していた。
彼は王国と覇権争った帝国を組織建てた男だった。
初代皇帝レーセン・バレンヴァッタ・グズマン、それが生前の名前だ。
レーセンはこの世の全てを手中に収めるはずだった男であった。
ッピ!【00:18】
女も酒も肉も求めればテーブルに並べられた。
ッピ!【00:17】
国を潰すことすら容易。
国民は勝者側に付いたと歓喜し、将たちが忠誠を誓う。
バルコニーから彼が身を現せば城下町は沸いた。
完璧な軍備国家を作り出し、死をも恐れぬ兵らに愛された彼は誰よりも自身の天下を確信していた。
ッピ!【00:13】
頂点からの転落に───
きっかけがあるとすれば【選ばれし者】に選ばれてしまったことだろうか。
ッピ!【00:12】
ニ百年前の魔王【サーカスの魔王】を倒す者の一人に、帝国の王でありながらレーセンは選ばれてしまった。
魔王には帝国も恐れるものがあった。
魔王を倒すため王国と協力することは致したかないことだった。
ッピ!【00:11】
当然。魔王を打ち倒した後の魔王鎮魂祠の生贄は彼に選ばれた。
王国側の人間が七人。
帝国側の人間が二人の当時の選ばれし者パーティーではそうなるのが自然であった。
しかし、レーセンだけがそれを許さなかった。
【白槍】のバルックの頭を拳で叩き潰した。
【ラダーンの死神】ココを爆殺。
【十字架葬】レッタと【キング】オッンサを自爆に巻き込んで。
その他を嬲り殺して。
───彼はたった一人で仲間を返り討ちにし尽くした。
ッピ!【00:07】
それでも討たれたのは、背後からの裏切り。
共に帝国側の人間サンシロ。
レーセンを刺したのは実の弟であった。
ッピ!【00:05】
魔王鎮魂祠に囚われ百年。
百年かけて人間の身を魔王に作り変えられた【火器暴虐の魔王】はまず帝国を訪れた。
ッピ!【00:04】
そこはもう彼の知る帝国ではなかった。
ッピ!【00:03】
「キャハハハ」木陰の子供たちが笑う。
王国相手に最後の一手を指せずダラダラと妥協続け、だらけきったみっともない覇気のない帝国の姿があった。
だから、レーセンは全てを壊して殺したのだ。
ッピ!【00:02】
機関銃。火炎放射器。ロケット砲。大砲。
彼は身からあらゆる火器を生やし出し使い熟すことができた。
戦車。艦船。要塞。B2爆撃機。
彼は戦略兵器その物となり独りでそれらを完璧に運用できるようになった。
彼に立ち向かわなければならなかった者は不幸だったろう。
時には手の届かない彼方からの焼夷弾爆撃攻撃による一掃。
時には六本足の生えた堅牢な要塞に。
時に海を征く大艦船となって長距離戦略的暴虐を───
百年前の【選ばれし者】パーティーも
ッピ!【00:01】
《魔王城に居座らないのではない、彼自体が魔王城なのだ》
火器暴虐の魔王、レーセン。
───さあ、目覚めの時だ。
ピッ!【00:00】爆発。
とてつもなく嫌な予感がしたラナは自身と王子にスキル【織天使の致死否定】を使用した。
相手を中毒者にしてしまう禁断のスキルだったが、脳が使用に納得する前に本能がスキルを動かしていた。
それは魔王討伐の旅の間に培われていた勝負勘による仕業だったが結果から言うとスキルの発動は正解であった。
爆発の威力に後押され加速した裸の男が炎の中から爆速で飛び出してきた。
その背中には小型のジェット噴射機が搭載され、
両足でハローィの背中に着地する。
「 」
声を出す間もなく移動エネルギーは物体から物体に移動し、入れ替わるようにハローィは前方に吹き飛んで行ってしまった。
レーセンは滾る。
犯す!?害す!?貶す!?いや殺す!!それが最上である!
「さあ!覚悟は決まっておるか!娘ェ!」
ラナは死を予感した。
致死否定があろうと首や心臓がやられたら死ぬ。
今度は油断はなかった。
腕に生やされた小型ジェット噴射機が吹いた!
レーセンの水平チョップは音速を超える。
心臓割く一撃は放たれ───
「ヌヌヌヌ!?」
素手で受け止められた。
全体的に白い男がラナとレーセンの間に分け入って今の一撃を止めたのだ。
白髪のオールバックの男。
「お父様…」
教皇ラスである。
かなり若返って四十代後半の姿となり後ろ姿だったがラナが見間違えることはなかった。
「この日のラッパは貴様か───…」
「ガハハ!ワシが殺す者だ!ワシこそ王道!誰にも否定させん!」
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