【第35話】敵敵的


「教皇か。上でコルトミューラが足止めしているはずだが」


「同時多発的に存在することなど容易いことだ」


パンチパンチキックパンチ。

一手二手手合わせすると教皇ラスとレーセンは距離を置いた。


チャッ!

レーセンがいつの間にか生み出していたアサルトライフルを構える。


「死ねィ!」


バラララララ!!銃弾の雨が放たれた。

ラナの盾になるように教皇ラスはその場から動かない。


「お父様…!!」


ラナの悲痛な声を出した。

教皇の頭、胴体に弾は何発もヒットした。


ペタリ。ペタリ。


しかし人を辞めた彼は今更銃弾程度の攻撃では死なない。

傘を差さずに教皇ラスは前進する。


魔王たちが偽姿である人間形態での死をノーカンとしてしまうように。

特別な存在へ昇華してしまった者は、同じく特別な攻撃でなければ命を断てないのだ。


魂の籠もっていない鉄屑のちんけな弾などもっての外なのである。


「【大聖櫃・断罪ブレード】」


聖櫃の清い魔力で練られた剣を作り出して教皇ラスはレーセンに刃を向ける。


それだけで罪人は首を落とされた。


レーセンは自分の頭をキャッチする。

彼らは魔王は真の姿で致命傷を受けなければ死が死ではない。

流石に脳に異物が突き刺されば自爆でもして肉体をリセットしなければならなかったが。


「ガハハハ!ヤバいのぅ!ワシもバカではない!ビンッビンッ感じるぞ!お前のヤバさがー!」


「ならば諦めろ───…」


「ガハハ!勝利項目を確認しろ!ワシとお前!お互い殺す合うのが目的か!?」


教皇ラスは後ろをチラリと見た。


「否!あの娘を殺すか守れるかどうかだだろうに!!」


───ラナは瀕死のハローィを連れてこの場から逃げ出していた。


ラナは知っていた、教皇ラスはレーセンと同類であることを。

味方ではない。信じてはならないということを。


「スピード勝負だ!短距離走か!!?」


ゴールは言わずもがなラナの命だ。


ラナとハローィは鉄網の橋を渡り切って先の地下通路を進んでいる。

位置関係は直線上である。ならばレーセンには自信があった。


「最強最悪と呼称されていたが実は最速でもワシはあるのよう!」


ちょうど身体は最軽量化されていた。


音速を超えるチョップを可能とする剛腕によってレーセンの頭部は投擲された。まるで野球ボールだ。


教皇ラスの脇をすり抜けていった。


しかし教皇ラスはそれを上回る速度で先回りする。

教皇の身体が自壊して崩れさった。


「お、お父様…!?」


再度ラナの前に教皇ラスは現れた。

何も言わず通路の向こうから飛来してくる猛スピードのレーセンを迎撃する。


はずだったが。


「来ぬな───…」


《頭はデコイだ!バカめ!ガハハ!!》


頭のない男は胸のデジタル表示板でそう記した。


そもそも教皇ラスは最初の登場で突然現れた。

たぶん瞬間移動の類のスキルを有している。


《そんな奴とスピード勝負する訳がないだろう!ガハハ!!》


欲しかったのは用意する時間だ。


フェスタリア教が回収し研究し数を増やして鉄網の橋の下に並ぶタンクで眠らせていたレーセンの細胞たち液体から飛び出して本体に還る。


兵器へ変身する。

変身先はロケットだ。それも横に倒れた物。


狭い空間で巨大建築物に変身するとギチギチに身動きできなくなる不便さがあるのだが、今回はそれがプラスになる。

身動きできないということは固定されているということだ。


薄暗い地下空間に巨大なロケットの噴射口ができあがった。


これよりレーセンは温度3400℃に達す高温ガス火炎放射を取り行う。

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