【第26話】教皇ラス
ゴブルは青いメイド服のハイゴブリンを引き連れパラレア大教会の階を上がっていった。
途中階段を隔てる結界があった。
【聖糸結界】大司祭ダイラの分厚く頑強な青半透明の結界である。
触れると表面はヒンヤリとしていた。
「ん?」結界の向こうに頭が弾けてなくなっている男性の死体があった。
上位司祭の服装をした、恐らくダイラの物であろう首なし死体だ。
死体であっても厳かな品格を漂わせていた。
「死んでもなお維持し続けるか」
普通の結界は術者が死んだら同時に消滅するものだ。
しかしこの結界は難攻不落のままグールたちの侵入を立ち塞いでいた。
さすがは聖地に十二人しかいない奇跡を行使する大司祭の一人ですねと内心感心していたのは術をよく知るメリッサの方だった。
ブゥン!バリィン!!
結界はあんまり凄さがピンと来ていなかったゴブルの漆黒の杖によっていとも容易く割られてしまう。
ゴブルはグールたちがここから先に入ってこないように命令を出しておく。
上階は総じて広大だった。
ここから生き残り三人を見つけ出すのは大変だなとゴブルは思った。
メリッサなら索敵魔法ですぐに位置を特定することは可能だろうがそれではつまらない。
わざわざ外側からジワジワと追い詰めてやったのだ。
ここで彼女がどう絶望しながら暮らしどう仲間同士で殺し合ったか思いを馳せながら一部屋一部屋探していくのも一興だろう。
それにメリッサには頼んでおきたいことがある。
「メリッサ、アレの
「了解でございます。黒n───ドゴンッ!!ドドド!!
ゴブルの後ろの天井が崩れて青いハイゴブリンは圧し潰されてしまった。
それは肉々しい柱であった。
「貴様が脅かす者か―――…」
フロアをぶち抜いて立つ肉の柱には顔があった。
この国で王に次いで知られ影響力のある男の顔だ。
もちろんゴブルも名前を言えた。
フェスタリア教最高指導者。
「教皇ラス…」
「我は―――…。神と―――…。成った―――…」
ゴブルはとっさに漆黒の杖を突いた。
触れずとも距離があろうとも威力は絶大。
肉柱が顔を中心に大きく円に穿たれた。
ズドン!!ズドン!!ズドン!!
いくつもの柱がフロアを突き抜けて貫く。
その全てに教皇ラスの顔がある。
本体はまだまだ上の階にありそうだ。
「朽ちぬ命―――…。果てぬ肉体―――…。不滅のまま―――。
ヒビだらけとなったフロアの床が下から光る。
「私こそが―――…。ラストフェスタリア―――…」
聖属性の爆発魔法だ。
(あっ…)すぐにそう予想は立てたが完璧に後手だった。
「迷いある御霊たちよ―――…」
「「「「フェザール―――…」」」」
―――光が差してすべてが包まれた。
ゴブルが聖女ラナへの復讐の為に画策した聖地に魔王百足を放流するという行為は思わぬ所で蟲毒の壺を作り出していたのかもしれない。
彼は知っていたはずだった。
人とは窮地でこそ想像絶する成長を遂げることのできる生き物だということを、誰よりも。
何度も何度も何度も何度も傍で見てきていたのだから。
爆発の粘土のような高密度の光は吹き飛ばした物を等しく包んで塵も残らず陽子レベルで破壊し尽くしてしまった。
爆破の跡はドロリと赤々と融解している。
ゴブルの姿はないし圧し潰された青いハイゴブリンも骨すらない。
残っているのは肉柱だけ、その柱があることでパラレア大教会は倒壊を免れていた。
ズゥウウウン!!ズゥウウウン!!
リカリシューを囲む壁の先に見える人影があった。
どの建物よりも巨大な人の影。地が揺れる。
巨人、全長128メートルとなったマヤテラ大司祭だ。
レレーダから守護神が歩を進めてリカリシューへ近づいてきていた。
ズゥウウウン!!ズゥウウウン!!
その顔に生気はない。
【不動退転】山のヤマテラは既に死んでいる。
脳に巣くった数万数十万匹の百足がフル稼働し直列回路を組んで身体を操っていた。
高い壁もゲートもグールも家屋も踏み潰される。
「グォオオオオ!!!」
武骨で巨大すぎる拳が固く握りしめられた。
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