【第6話】少女の故郷と母の顔
雨粒を打ち砕きながら空を一直線に突き進む一つの球体があった。
魔法障壁で空気抵抗を低減させながら飛ぶエリーナだ。
イーサンの予想を超え、彼女はたった五時間で王都からラシャルモニアに到着した。
エリーナも頭ではソロでの行動は悪手だということは分かっていた。
しかし他人を浮かし飛ばすという魔法は技量と集中がいる。みんなを連れてきていたらこんな早くは来れなかった。少しでも早く自分の目で直接確認がしたかったのだ。
一夜の内に壊滅したという故郷ラシャルモニアの現状を。故郷の人々の安否を。
魔術学園都市ラシャルモニアにエリーナは降り立った。
(大結界は消滅…。町の様子は壊滅的…、生き残りは…)
エリーナは探査魔法を使って人を探そうと思ったが雨が酷すぎた。
雨粒の落ちる雑音と振動にジャマされ効果には期待できない。
───不自然なほどに、人の亡骸は転がっていなかった。
(ただの事故なら…、こうはならない…)
無人の都市の中心をエリーナは歩く。
見渡せば見渡すほど見慣れた光景、の荒れ果てた姿。
ただ形があるだけ壊滅の原因に高エネルギーの爆発的拡散の線はなくなった。
地下では禁忌とされる古代魔法研究以外に魔生物を人の手で作り出す実験も行われていた。
それだけではない、決して手を出してはいけないとされるジャンルの研究は大体やっていた。
魔術学園都市の暗部が手を出していた禁忌の数だけ予想される線は多岐に渡ってしまう。
研究は超生物でも生み出してしまったのだろうか。
状況的にはその線がいちばん固い。
(お母さん…)
魔術学園都市の絶対なる女王でありエリーナの実の母親でもあるアリスアンダー・アルライクル。
超生物が相手でも、あの人の負ける姿をエリーナは想像できなかった。
しかし彼女が生きていればこうなっているはずはない。
この惨状はアリスアンダーの死の確証だ。
(禁忌の研究は、この国に一体何を齎したの…)
ザァ───!ザァ───!
雨足はますます強くなる。
魔法障壁が発動しているかぎり少女の身体は濡れはしないが、雨はそもそも嫌いだった。
大結界に囲まれ雨の降り注がないラシャルモニアが大好きだった。
(とりあえず地下に行こう…、何か手掛かりがあるかもしれない…)
女王の鎮座した学術ルーン城。あそこの地下に研究施設は集まっている。
ついでに残った研究施設跡は全部消しておこう。あれらが王都に見つかってしまうのはいけないことだ。都市は滅びても王国中にはラシャルモニア出身の研究者が散らばっている。
彼らの迷惑にならないようにするのも女王の一人娘である彼女の使命である。
エリーナは都市の暗部を歴史から抹消しておくことにした。
ザァ───ッ!!ザァ───ッ!!
「顔…」
お城に向かおうとしたその時ちょうど。
それは突然、現れた。
視覚を埋め尽くすほど巨大な顔面。
300メートルを超す女の顔。
───至高の天才エリーナの頭脳を一瞬凍り付かせる光景。
(…なんで)
今日の少女は朝から悪手が続いていた。
普段の彼女であればこうはならなかったはずだ。
誰よりも冷静に物を考え、最善手をとれるのが【至高の魔術師】と呼ばれたエリーナという英雄。
しかしこうなった要因は単純明快なことだった。
魔王を倒し世界を救っても彼女は15の少女。心の底では母のことで頭がいっぱいだっただけだ。
だから今日は失敗したし、間違った。
(認識阻害魔法…、あんな大きいもの、気付かないわけが…)
エ、エ、エ、リリリリリリリリリィナァ!!
【重力】≪
「お母さ───」
ズドン!!!大きく陥没して地面ごとエリーナは潰された。
アアアアアア!!巨大なそれには顔の横から生える巨腕があった。
頭には体はなく、頭部が連なって連なって連なって連なって───、連なり続けて無数に横から生える腕で立っていた。
その姿を例えれば百足だ。這ってはいない百足だ。
どこまで続いているのか。全長の先は豪雨の先で見えもしない。
アアアアアア!!怪物のうねる叫びが無人の都市に地響いた。
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