【第7話】魔術師の衝突
都市ラシャルモニア上空。
「フ───ッ!!フ──ッ!!」
息を大きく吐くエリーナの姿があった。
彼女は大地ごと潰される寸前に【
あと0.001秒反応が遅れていれば死んでいた。
(何、アレは…!)
現れた巨大怪物は、母アリスアンダーの顔をしていた。
上空からでも全容が計り知れないほど長く、山のように大きい。
そして連なる頭部は母の物だけではなかった。
ラシャルモニアの重鎮である実力者たちの顔がそこにはあった。
「エリザベスさん…!タンバーさん…!ジェネラルダルおじさん…!みんな…」
見知った顔が上向いた状態で怪物の身体に宿っている。
顔たちは上空のエリーナを見つけた。
エ、エ、エ、リ、リリリリイナァ!!!!
豪雨の地表が一瞬だけ干乾びた。
地を伝って水分が一気に怪物の元に集められたからだ。
膨大な水量は渦を巻いて宙に浮く。幾つか水の小惑星が作り出された。
【破水】≪スパイルカッターウォーターゼノン≫
アアアアアア!!
圧縮され放出された水がレーザービームになってエリーナを襲った。
地上から発せられたウォーターレーザーは縦横無尽に雲を裂く。
エリーナは合間をスイスイ縫って避けて飛翔する。
「凍って…、【
手元で生み出した氷柱を一本離して落とした。雨と共に小さな氷柱は落ちる。
氷柱が地面に触れると大地が凍った。
凍結した水分は流動性を失い、怪物への供給が止む。
「【
遠くの地に保管していた魔術杖を瞬間移動させて手に取る。
「【
眩い魔法陣が空に描かれ、極太の光線が放たれた。
しかし極太光線は怪物に当たるより前方の位置で四方八方に飛散する。
「魔法障壁…!」
ラシャルモニアを守護していた大結界。それと同じものが怪物の周りには存在していた。
アアアアアア!!
【雷迎】≪大雷詠合大麒麟≫
【遠雷】≪望めよ万雷、鎮めよ雷切≫
【雷怨】≪ビリビリジュクジュク≫
【落雷】≪ハイ・バラライカ≫
四方の雲から大雷が。
落ちたと思いきや、Uターンして上空のエリーナめがけて落ちた。
(同時に四つも…!)
空想生物麒麟を模した雷の迎え。
大小同化し極大と化した逃げ場ない一撃。
赦されざる麻痺を残す黒い雷の呪い。
轟音を弾きながら落ちた雷。
どれも一撃必殺となる最上位魔法。
エリーナの知る者たちの得意としていた魔法であった。
「【
エリーナは魔法と障壁でそれら全てを受け止めた。
【瞬間移動魔法】は連続では使えない。
ナックルならば身体能力でこれを疑似的に再現してみせ、なおかつそれを連続で使ってしまうが、そんな芸当エリーナにはできなかった。頑張って五分のクールタイムが必要になる。
脳が焼き切れてしまうのだ、負担のかかる魔法の過度な連続使用は。
しかしこのとき無茶でも彼女はテレポートで逃げておくべきだった。
すぐに後悔することになる。
(電磁波で身体が痺れる…!!)
静電気でエリーナの髪は逆立った。
雷魔法の通常は文字通り一瞬の出来事である。
自然界の雷同様、ピシャリ!と認知できないスピードで撃ち撃たれて完結する物である。
こんな継続してダメージを与える魔法ではない。なのに。
(ず、ずっと…!いつまで続く…!)
終わらない。
途絶えることなく雷撃はエリーナを襲い続ける。
視界は光で真っ白になっている彼女には見えていないが、傍から見ると数千数万の雷が次々と雲から落ちては少女向かって昇っていた。
その様は一種の花冠のようだ。
刹那と永遠。相反する理を同時実現させた魔術師好みの猛攻となった。
(ま、ず、い…!!)
エリーナは動けない。
目を閉じても瞼貫き脳を刺激する音と光のストレスは凄まじく、次の一手を出せなかった。
集中と演算を必要とする【瞬間移動魔法】なんてもってのほか。
自身を守る盾の維持に集中するので精一杯だ。
(う、動かなきゃ…、移動しなきゃ…!)
成層圏の空気抵抗の摩擦に熱され、赤い尾びれを残しながら落ちてくる物体があった。
怪物がみんなの魔法を使えるのなら───
(アレが来る…!)
上空に位置取るエリーナ、そのさらに上、遥かもっと上からそれは落ちてきた。
星。
女王アリスアンダーの異名【星落とし】、その由来となった技とは、まさしく星落とし。
雲を突き抜け。
六角柱の星は視力と聴力を失った少女の魔法障壁にきれいに直撃した。
ビリヤードの玉のように二つは弾かれ合い、万雷を後にしてエリーナは物凄い勢いで凍った大地に叩きつけられた。
【星落とし】アリスアンダー。
重力、引力、圧力、地球の持つ力の魔法を得意とする彼女は氷山を丸ごと超圧縮することで鋼鉄より高密度の「星」を作り出し、それを武器にしていた。
氷に圧力がかかると溶けるが物理法則を捻じ曲げるのが魔法だ。
宇宙空間に打ち上げられ備えられていた星を座標演算を用い正確に地表上のターゲットに落とすのがマリスアンダーの得意技であった。
大きさ二メートル大の弾の威力は絶大。
雑魚相手なら余波だけで殺せてしまう一撃必殺の星なのである。
事あって六発あった星の内、五発を失ってはいたが問題はなかった。
使った一発の落下地点を計算し把握して再度宇宙空間に瞬間移動させる。
星は装填された。
これでまたいつでも星は落とせる。
アアアア!!エエエエリィイイナァ!!
座標に関する演算能力だけは【至高】と呼ばれた娘より母親の方が優れていた。
娘の落ちていった座標を母はすでに計算済みである。
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