魔王も倒せたので無能でキモいゴブリンをパーティーから追放したら復讐しに来て「ざまぁ!」されそうです。~信じていた仲間に裏切られた僕、追放された先で魔王パワーを手に入れて復讐を果たすと誓いました~

@neko_taile

【第1話】最高のパーティー


強大なる力を有し、百数年おきに現れ世界を恐怖のどん底に貶める存在、魔王。

世界は圧倒的な魔の力に抗うすべを持たず、ただ蹂躙されるだけだった。


その絶望を覆すことができるのは掌に神紋を宿した俺様たち【選ばれし者】という希望だけ。


今世紀最強パーティー【黄金の希望ゴーデンポープ】。


【輝く剣聖】イーサン・クロッサ。

【麗しき織天使】ラナライア・パーモンララ。

【怒涛の拳武】ナックル・バサ。

【至高の魔術師】エリーナ・アルライクル。

【黒曜の瞳】ゴッズ・ジュバルク。

【上小鬼種】ゴブル・マーチ。


【選ばれし者】のみで組んだパーティー【黄金の希望】は数々の難関を超えて遂に魔王城最深部、魔王の待つ広間の前に堅牢な大扉を挟んで辿り着いた。


「も~、ゴブル様ったら~」


麗しの聖女ラナはラストバトル直前だというのに媚びた声を出す。

相手は彼女の胸の位置あたりまでしか身長のない緑色をした肌の男、ゴブリンだ。

正確には上小鬼族ハイゴブリン。通常小鬼種ゴブリンと違い少し賢く会話ができるため亜人の並びに入った種族である。


名をゴブル・マーチ。

神のミスで選ばれてしまったゴブリンの【選ばれし者】だ。


「えへへへ。冗談じょうだん」


「お尻触らないでくださいよ~、も~」


おぞましい。


どうしてこいつは醜悪なゴブリンのくせに絶世の美女の身体に気兼ねなく触れられる。

恐れ多くはないのか?お前はゴブリンなんだぞ?

ラナが少し親切にしただけで勘違いして懐きやがって、自分の顔を鏡で見たことあるのか。


何が「種の垣根を越えてラナの気持ちを応えたい」だ。

馴れ馴れしく相談してきやがって。ラナは俺様の女だ。

昨日も抱いてやったがラナはずっと「ゴブルが気持ち悪い」とボヤいていたぜ。


「ゴブル!!やらしいことするなよ!」


「わわっ!ごめんナックル」


調子に乗っていたゴブルに怒鳴ったのは女補助魔法戦士ナックル。

周囲の味方の身体的ステータスを上昇させながら自分も前線に立って戦うタイプの有能バッファーだ。


「まったく…、ゴブルは目を離したらすぐ暴走するんだから」


「ナックルちゃんはいつもゴブル様に付きっきりですもんね」


「な、何を言う!ぼ、僕は、別に…!」


「僕のために怒らないでぇ、えへへ」


ゴブルのバカはナックルも自分に気があるものだと勘違いしている。


こいつは選ばれし者のくせに身体的ステータスはゴミ。平均的雑魚ゴブリン程度の力しかない。

なのに意気揚々と戦闘になると前に出て戦おうとする意味の分からない奴だ。(何度も隠れているんだと注意しても言うことを聞かない。学ばないカス)


ほっといて死んでもらっても構わないのだが、昨今の亜人の人権保護ブームで【選ばれし者】に選ばれたゴブルの存在には注目が集まっていた。亜人問題のヒーローとして立ち寄る町々で歓迎されている。

だから国王からはチクリ忠告されている。ゴブルは殺すな、と。少なくとも道中では。


それもあってナックルは自分勝手に動くバカを守るために献身的にサポートしてきたのだが、それをゴブルは好意と受け取り、また勘違いしてしまっているのだ。愚かすぎる。


ちなみにナックルも俺様の女だ。

朝から抱いてやったがずっと「ゴブルをサンドバックにしてやりたい」とボヤいていた。


「開くよ…」


ガコン!カギの開く重厚な音が響いた。

氷のように青白い髪の小柄な少女、天才魔道術士エリーナが閉ざされていた大扉のカラクリを解析し開けたのだ。


「さすがエリーナ。頼りになるね」


ゴブルはエリーナの肩に手を回した。二人の背丈はちょうど同じくらいだ。

エリーナは僕らの中で一番ゴブルに目線が近いということで一番話しかけられてきた可哀そうな子だ。

パーティーを組んだ当初は大人しいことを良いことに延々と絡まれていた。


もちろんエリーナも俺様の女だ。

この旅の途中、立ち寄ったゴブルの故郷であるハイゴブリンの集落が僕らの去った翌日に魔王軍に襲われ壊滅したということがあったが、実はあれ魔王軍の関与はなく、エリーナの仕業だった。


家族も友達もみんな死んでしまったと大号泣していたお前は慰めてくれたエリーナに感謝していたな、やった本人だったんだぜ。


つーかハイゴブリンの集落はただの廃村に住み着いているだけであまりの酷さに笑ってしまった。

ぼろっぼろの家屋に藁を引いて寝て何がハイゴブリンの文化だよ。亡んで正解だ(笑)。


ギィーと大扉が開いていく。


「ようやく世界に平和が訪れる!頑張ろう!」


「…そうだな(ニコッ)」


心の中で爆笑。

ああ、そうだ、ようやくだ。

ずっと心待ちにしていた時が来る。


「イーサン。これまでずっとありがとう。種族は違うけど本当の兄さんみたいで頼もしかった。いろいろ相談乗ってくれてありがとう」


は?何言ってんだこいつ、突然。


「ラナ。君の癒しの力はパーティーを支え続けてきた。感謝してもしきれない。この戦いが終わったら伝えたいことがあるけど、いいかな?」


「…え?あ、もちろん!はい、いいですわよ。楽しみにしてますわね」


「ナックル。いつも隣で戦ってくれたね。みんなのこと平等に大好きだけど特に君は一番の相棒だった。僕は自分が弱いのを自覚しているけど、君がいてくれたからパーティーの力になれた。今回の戦いもよろしく頼むよ」


「言われなくても僕は僕の仕事をやるだけさ!」


「エリーナ。小さな身体の君の魔法はとても大きく幻想的だった。何度か魔法を教えてと頼んだけど断られたね。今なら分かるよ、君がいるなら他に魔法使いはいらない。そう言いたかったんだね」


「そうそう…」


「ゴッズ。喋った所を見たことないけど、背中は何よりも誰よりも雄弁だった。挫けそうになった時はいつだって君の背中に助けられた、勇気を貰った。ありがとう…」


「……」


「みんな僕の大事な仲間だ。この最後の戦いが終わってもまた集まって…、ずっと一緒だ。誰一人欠けることなく勝とう!力を合わせれたら必ず勝てる!この世界に僕らの手で平和をもたらそう!」


なにリーダーみたいなことを言ってるんだこのバカ、殺すぞ。


「もちろんですわ!」


「僕のスピードに付いてこいよ!」


「最終決戦、唸る魔の本流…!」


「……」


魔王の待つ広場に俺様たち【黄金の希望】は足を踏み入れていく。

泣いても笑ってもラストバトルだ。


ついでに言っておくがさっきゴブルがゴッズの話したところを見たことがないと言っていたが、割とゴッズはおしゃべりな奴だ。むしろめちゃくちゃ話が面白くて場を盛り上げてくれる。

ゴブルが嫌いだからゴブルの前では何もしゃべらないだけである。


当然ゴッズも俺様は抱いた。俺様は男でも女でもいけるタチだ。


ただしゴブリン、てめぇはダメだ。


   ◆


「グワアアアアアアア―ッ!!!!」


イーサンの必殺剣が魔王を斬る。断末魔を上げて魔王は倒れた。


勝った。倒れて動かない魔王の身体が魔素に分解され消滅していく。


これまでで一番手厳しい戦いだった。

全員ボロボロで無傷の者は誰一人いない。壮絶な激戦だった。

しかし誰も犠牲にはなっていない。誰一人欠けることなく勝つことができた。


「か、勝ったんだー!」


僕は両手を上げて喜んだ。達成感が凄い。


戦いの衝撃で崩れた城壁から見える外の景色は瘴気が晴れ、久方ぶりに太陽の光に照らされた。

流入する空気がおいしい。


これも仲間たちのおかげだ。


イーサン、ラナ、ナックル、エレーナ、ゴッズ、ありがとう。

ハイゴブリンの僕を受け入れ、仲間として認めてくれて───


───僕は幸せ者だ。


バチィィィン!!!!


「グァ…~~~~~ッ!!!??」


背中が爆発した。


「死んじまえぇ!!キモゴブリンッ!!!」


あまりの痛さに僕は瓦礫の上で泡を吹いてのた打ち回ってしまう。

何が起きた…!?

後ろにいたのはナックルだった。その手にはクリムゾン鞭が握られていた。

「ぐうぐうっぐぐぐぐぐぐ───…」痛すぎて言葉も出ない。


みんな、ナックルが操られている。


「ナックルさん!ダメじゃないですか!」


ラナが寄ってきてナックルを制止した。

ラナ…!ラナ…!!助けて。


「ショック死したらどうするんです…!」


ラナの手には橙色に光を放つ球体があった。


この旅路で何度か使っているところを見たことのある彼女のスキル【織天使の致死否定】。

モンスターの体内から希少器官を摘出したいときに用いていたスキル…。

どれだけダメージを受けようと致死にならない、医療用…、いや、拷問用スキル…。


なんで、それを、僕に、使おうと───…


「簡単に死んじゃったら納得できないじゃないですか」


ようやく取り戻せた太陽の光を逆光に、ラナの笑顔は真っ黒に見えた。


僕の胸に光球は落とされ埋め込まれた。


「【呪・爛れる火傷】【呪・蠢く毒棘百足】【呪・痛覚敏感病烏】」


「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


身体が焼ける!皮膚の下に這って痛い!痛い!痛い!エリーナの魔法だ。呪いの魔法だ。

なんで…!エリーナまで。


「死ねぇえええッ!!!!」


ナックルの鞭が僕を襲う。バチィイイイイイン!!!


「ああああああああああ!!」


ゴッズは無言のまま助けてくれようとはしてくれない。

その目は冷たい。


「イ、イーサン…!」


みんなが操られている。死んだ魔王の、怨念か。


「無能なゴブリンが、人間様と対等になれたと思いあがってんじゃねぇよ。ゴミが…」


何を…、言ってるんだ…。

イーサンがそんなこと言うわけが───…


「これまでのはぜ~んぶ演技だ。気づけよマヌケ」


剣。イーサンは聖剣を掲げた。


幾度となく僕らを守ってきてくれたその剣を今度は僕に向けて───

一閃!ズドン!!あああああああああああ!!!


右手が…!右腕が…!!斬り落とされた…!!!


「あがあああああああああ!!!!!!」


何で!何で!何で!


「これからお前にはこの場の魔王のソウルを封印するための人柱になってもらう。そのためにわざわざお前は連れてこられたんだよ、ハハハハハ!!」


イーサンは酷く歪んだ顔で、せせら笑った。


僕が兄のように慕った男の姿はそこにはない。


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