【第11話】ざまぁみろ
「【
限界の身でエリーナは雷を落とした。バリバリゴォーン!!
残っていた最後の力を振り絞っての一撃がゴブルと呼んだ男に直撃する。
が、男は平然としたままだ。
効いていない。違うこれは。
「魔法障壁…!!」
「はい、僭越ながら魔導の魔王であるわたくしが施させてもらわせております」
青いハイゴブリンが片手を小さく上げて答えた。
そのハイゴブリンはゴブリンのくせにメイド服を着ている。気色が悪い。
「魔王…?ゴブル…、どうなっている…!説明して…!!!」
なぜここにゴブルがいる。
魔法鎮魂祠に捧げて今後百数年は現世に出れないはずなのに。
分からないことだらけだ。
「お前の!仕業なのか!?ゴブル…!!」
全部。あの惨状。
都市が壊滅して、みんなが異形の怪物になっていたのは。
「そうだよ。僕が全部壊して作り出した」
男は、ゴブルは非をあっけなく認めた。
「何で…!何で…!あんな残酷なことができる…」
「君だって…、僕の故郷を滅ぼしたじゃないか」
「いッ、一緒にするなッ…!!せいぜい二十年しか生きれない短命種の集落と叡智の都市をッ!」
ラシャルモニアは王国中の天才が集結していた場所だ。
それとハイゴブリンが原始的に生活していたゴミダメを同列に語るな!!
人類の発展はこの日を境に百年遅れてしまったんだ。
「許さない…!許さないぞ…!ゴブルッ!!」
「許さないか…。エリーナ、僕が故郷を失って泣いているとき君は慰めてくれたよね。そのとき僕が言った言葉を覚えているかい?」
「覚えている、わけがない…!!」
気が晴れて清々していた記憶しかない。ゴブリンの言葉なんていちいち覚えているわけがなかった。
「魔王を許さないだよ。…でも、僕が憎むべきだった相手は
「黒の王、こちらを」
ほぼ裸に弾帯ベルトを巻いた赤いゴブリンがゴブルに黒く仰々しい槍を渡した。
漆黒の槍からは紫めいた瘴気が漏れ出ていた。それだけで国宝級以上のヤバい品物だということが分かる。
槍のように見えるがそれは杖だった。エリーナの持っている杖と同じ魔術杖である。
しかし武器単体で醸し出している威圧感は桁違いだ。
本能でエリーナはこの上ない恐怖を感じた。
「うあ…、あ、あああああ!!【魔法障壁】!!」
魔法障壁を張る。火事場の馬鹿力もあって過去最大硬度のバリアになった。
「僕は復讐する―――。
黒い杖が振られた。その杖は槍のようにも扱えた。
魔法すら使わないただの殴打は一直線に上から下に振るわれる。
それだけでエリーナの魔法障壁は三分の一消滅した。エリーナの右腕が消えた。
「あああああああああ!!!??」
魔法を破壊する魔法のナクラルとは違う。
無敵の盾が耐えきれない威力で叩かれ、砕けて消えたのだ。
至高の魔術師は生まれて初めて無様に地面を転がって叫んで泣いた。
「ア゛ア゛~…!!!」
少女が大人しくなるまでゴブルたちは黙って眺めていた。
片腕の欠けた痛みに暴れたエリーナだったが数分もするとぐったりとなる。
意味不明な力だ。なんでこうなる。ゴブリンのくせに。
諦めた。もうダメだ。どうせ償いに死ぬつもりだったんだ。
やることはやった。ゴブル。殺してくれていいよ。それだけのことはしたと思う。
楽にして。
「僕はね、魔王の王になったらしいんだ」
「……」
「
「…殺せよ。ゴブルゥ…!」
エリーナはゴブルを睨んだ。もう聞きたくないんだ。話したくないんだ。
復讐したいなら早くして。
【回復】≪小回復≫
優しい黄緑色の発光があった。
「は…?」
―――ゴブルたちがエリーナを回復させようとしている?
違う。
【回復】≪小回復≫
【回復】≪小回復≫
【回復】≪極大治癒≫
【回復】≪大回復≫
発光は怪物の方からだった。
怪物は自己回復を始めていた。背中の顔が回復魔法を唱えている。
「な、んで……」
確実に殺したはずなのに。必要以上に殺したはずなのに。
「体力1、だけ残っておりました」
青いメイド服のゴブリンだ。
「1…」
「わたくしたちどもは黒の王の体内に残ってありましたとあるスキルの残滓を回収しまして、新たなスキルを作りましたのです」
「それが【魔王の致死否定】」
致死否定───。聖女ラナの【織天使の致死否定】か。
それをオリジナルで再現したとでも言うのか。
「【織天使の致死否定】には強い快楽作用があり強烈な依存性がありましたが、【魔王の致死否定】は常に脳を突き刺す激痛があります。両者の違いはそれぐらいですかね。だからあの
そして体力が1残っていれば
【回復】≪大回復≫
【回復】≪大回復≫
【回復】≪極大治癒≫
【回復】≪極大治癒≫
【回復】≪究極回復≫
顔が回復して復元されるとその顔もまた回復魔法を唱える。
ネズミ算式に怪物は回復するスピードを上げていく。
あの巨体、あの重症度合い、治癒は遅いが量で補われ見る見るうちに回復していった。
「ア゛~…!!!!!」
「さすがは黒の王の処女作大傑作。ダークネスアアンダー」
怪物、もといダークネスアアンダーは完全復活を果たした。
ゆっくりと巨腕で身体を持ち上げて立ち上がる。
アアアアアア!!!エ、エ、リリリリィナァ!!叫びが大地を駆けた。
アリスアンダーの顔もきれいに元通りになっている。
是が非でもエリーナが潰しておきたかったものが大きく誇示されてしまう。
そして怪物は向きを変えて歩を進めていった。
「ダークネスアアンダーにはクリーナーになってもらう。僕らが手を出すほどでもない小都市や点在する町や村諸々の掃除を任せるよ。彼女の通った道には誰も残らない」
なんで、そんなことを…。
「君が嫌がるからさ」
これが復讐だ。ママっ子エリーナのママの顔が全人類から憎まれる怪物となって嫌われる。
これ以上の屈辱はないだろ?
その証拠に少女はボロボロ涙を流している。
ゴブルと呼ばれた男は杖を両手で持って、倒れているエリーナの胸に突き立てた。
もはやエリーナに抵抗するすべはない。パタパタ残った手足をバタつかせている。
「今から僕は君を殺す」
じっくり力が籠められた杖の嘴のような刃が容赦なく少女の胸を犯していく。
「でもこれで終わりじゃない。忘れてはいないだろ」
─――魔王に殺された者は輪廻の環から外される。
魔王からは死んでも逃げられない。
「母親と同じようにお前も作品にしてやる…」
ざまぁみろ。死にゆく少女に男はそう言った。
◆
怪物ダークネスアアンダーは去った。
彼女の降らせていた大雨はやんで、雲が晴れ間を見せている。
丘の上には墓標のように胸に黒い杖が刺さって絶命している少女の亡骸が転がっている。
「黒の王よ。復讐の第一進捗ご達成おめでとうございます」
そこには景色を眺める黒コートの男がいて、その後ろには平伏す四体のハイゴブリンがいた。
彼らは全員【魔王】と呼ばれた絶対の強者である。
「進言ですが、次は黒の王の拠点となる地を求められてはどうでしょうか」
城と兵を得ましょうと青いゴブリンは言っている。
偉大なる王には相応しい城と従えるべき軍を持っているべきだ。
「うんそうだね。目星は付いているよ」
「流石でございます。よろしければその目星とやら拝聴しても」
「救いの地、国教フェスタリア教本拠地のフェザーとかさ」
「素晴らしいッ!!神を狂信する者らの本拠地を魔王城としようするとは!いい冒涜性です!!さっそくセッティングしましょう!!さあ、魔王ども!すぐにフェザーを墜として黒の王に捧げるのです!!」
「待って」
「はい!!」
「急ぐことはないよ。楽しんでやろうよ」
魔王である彼らもニュースは見ている。
現世に戻ってからの情報源はほぼ魔道テレビからだった。あれはいいもんだ。
部屋から一歩も出ずに世の情勢を知ることができる。
ニュースには色々なことが報道されていた。
今日、王都で【黄金の希望】の爵位授与式があるはずだったことも。
フェザーで聖女ラナと第一王子ハローィの結婚式が近々予定されていることも―――
ラナ。
「それにさ、王には妃も必要だと思わない?」
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