【第17話】レレーダの守護神
レレーダに在る大きな建物、マヤテラ教会。
グールの入れぬ結界が張られ、追われた大勢の住民たちが逃げ込んでいた。
私はマヤテラ。【不動退転】山のヤマテラである。
フェザーに十二人しかいない現役大司祭の一人であり、身長2.5メートルあることから物理的フェザー最大司祭とも呼ばれている不屈の男だ。
そんな私は今日グールを相手に木槌を振るっている。
「やー!やー!我こそは不動退転!山のマヤテラはここにおるぞ!」
教会手前の広場に陣取ってグールを相手取る。
【
「フンフンフンフンフン!!!」
モグラたたきの要領で、両手にそれぞれ持った二本の木槌でグールの頭を叩き潰していく。
まるで木琴を打つ演奏者のように次から次にとだ。
どれだけ倒しただろうか。十から先は数えていない。
しかしその奮闘もあって大勢の避難者が無事教会まで辿り着くことができていた。
「どんどん増えていますね…!」
傍に立つ弟子の修道士ローレンが言った。
「ああ!キリがない!」
グールは目に見えてどんどん増加している。
レレーダ全域からここに救いを求めて避難してきている者に付いてグールも集まって来ているようだ。
加えて死んだ者らも立ち上がって減らした以上に数は増えてきていた。
いや私にとって数はどうでもいいことだ。
嫌なことはグールがみな見知った顔だということ。
毎週日曜の礼拝者、日々の生活での顔見知り、慕ってくれていた者たちの頭を私は潰している。
フェザールフェザールフェザールフェザールフェザール!!!!!
この蛮行を赦して欲しい。
「これ以上は危険です!マヤテラ大司祭様!教会に戻りマしょう!」
そう言ったのは同じく弟子の修道女ロテ。
避難してきた者を保護することを目的に外に出ていたがやってくるのは最早グールだけ。
彼女の言う通りそろそろ頃合いか。
「ロテ!お前は怪我してるんだから無理するなよ!」
「貴方こそ!油断しテやられないデよ!」
「二人とも戻るぞ!教会にて教皇様の救援部隊を待つ!」
「はい!」応答したのはローレンの方だけだった。
ドスッ!と熱さと共に私の腹から刃が生えた。
いやこれは後ろから刺されたのだ。後ろにいたのは。
「マヤテラ様ァア!!だカラ早く逃げマショウと言ったンデスヨ!!グルルルル!!」
修道女ロテだった。
振り向くのと同時に顔が灰褐色に変色した彼女の頭を木槌で打ち砕く。
ロテ…、そんな。お前まで。なぜグールになった。
寸前まで普段通り元気だったはず。殺されたわけでもないのに。
先の戦いで腕を大きく噛まれていたが…、まさかそれだけでもグール化は始まるというのか?
「大司祭様!教会が!!」
ロテの死亡に悲しむ暇もなくローレンは叫んだ。
教会を見ると結界の内からこちらに出てこようとツメでひっかくグールどもの姿があった。
「何と言うことだ…」
避難してきた者の中にロテ同様噛まれてしまっていた者でもいたのか。
結界内であった教会の人間は全滅のようだ。
私も深手を負った。残された時間は短い。
逃げ場を失い、グールにも囲まれ絶体絶命である。
ならば、最後に残った弟子ぐらいは。
「行け!ローレン!!逃げて生き延びろ!!」
木槌を離し捨て、やってくるグールをむしろ受け止め身を捧げた。
ガブリ!ガブリ!噛まれて、喰われる。
「マヤテラ大司祭様!!!」
大司祭とは神より奇跡の行使を許された者たちのことである。
私の授けられた奇跡は【
「マヤテラ大司祭様ァアアア!!」
12メートルのレレーダの守護神。
それもまた私を指し示す異名の一つだ。
大きくなった私は素手でグールを叩き潰した。
人と蟻とまでは言わないがこのサイズ差だ、一撃でミンチにできるがその反面、四方の死角から飛び掛かってきたグールどもに身体を登られてしまう。
やはりこうなってしまうか。
手で払うが新手がやってくる。これでは蟻に集られたカマキリだ。
背中に回られてしまうと手も届かなかった。
次々に噛まれている。無視して私は目の前のグールを叩き潰す。
もっとこい!私を見ろ!狙え!私の元へ来い!!集まれ!
これでいい。
「
12メートルの肉厚ボディが弟子の逃げる時間を稼ぐ。
不動退転とはこのことよ。
◆
壮絶なものを見た。
ひっそりと教会から広場の向こう側にあるとある階段の踊り場からマヤテラ大司祭らの奮闘を眺めていた者がいた。
司祭フレーラである。
彼はススマーンに言われマヤテラ教会に避難しようとやってきたのはいいものの、ここで体力の限界がきて広場を越せないと座り込んでいた。
教会に辿り着いていれば今頃彼もグールとなっていただろう。
ここで往生していたことは功を奏した。
「マヤテラ大司祭様…」
巨大化したマヤテラの身体はグールで覆われてしまっていた。
身体はもちろん顔にもグールだ。
こうしている間にも新たなグールが飛びかかっていく。
恐らくは一緒にいた弟子であろう彼を逃がすため囮となったのだろう。
彼の方はグールに見向きもされず現場から逃げ出せていた。
マヤテラ大司祭様の巨体は徐々に動かなくなっていく。
しかし最後まで倒れない堂々とした御姿は、大司祭という品格を損なわない立派な最期であった。
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