第31話

    最終回


「すみれさん!全くお変わりが無いですね!

それと、あの時の私達だとお判りになるのですか!?」

大志もさくらも全く容姿に変化のないすみれに

信じられないと驚いている。


「あ!そうですね。

私たちは人間界とは違い殆ど容姿は変わらないです。


それとお二人には

あの時の男の子と女の子の面影が残っていますから直ぐに判りました」

すみれは遠泉で見ていたのでとは言わず笑顔で当然の様に言う。


「あ!そうでしたか……」大志もさくらも納得をするが

「すみれさん、死神さんの事に付いて

お聞きしたいのですが、よろしいでしょうか……」

大志はすみれに聞きたかったことを聞いてみる。


「はい。何でしょう?」すみれは笑顔で言う。

「私たちが死んだ時に死神さんは来られませんでした?

それは何故なのでしょうか?……」


「あ!死神は一応亡くなられた方全員の所へ行くのですよ。

ただ、素直に成仏される方には姿を見せないで

静観しているだけなのです。以前お二人に死神の姿が見えたのは、

お二人が人間界ではなくまだ霊界に私と一緒に居たからなのです」


「あ!それで私たちの時には死神さんは姿を現さなかったし

見る事も出来なかったのですね」


「死神は往生際の悪い者にはその姿を現して

恐怖を与えて身体から魂を引き離すのですけれど

引き離しても中々成仏されない者も居て

死神も困る事も有るのですけれどね……


その際には死神から連絡があって

私たちが説得をすると言う事になります。


それでも人間界に強い未練が有ったり恨み強い者は

中々成仏しないので私たちも困る事も有るのですけれどね……」

すみれは悪戯っぽく言う。


「成仏されない方はその後、どうなるのでしょうか?」

大志とさくらは納得しながらも成仏されない方が気になる。


「未練が強い者や、恨みの強い者は中々私たちの説得を受け入れずに、

背後霊や地縛霊として人間界から離れない者も少なからず居ますね」


「えっ!それではそのまま永遠に背後霊や地縛霊となられて、

誰かに取り付かれたりしてしまわれるのでしょうか!?」

大志もさくらもその先が気になって仕方がない。


「いえ、なるべく往生させなくてはいけませんので、

そうなってしまったら思いを遂げさせたり

恨みを持つ相手が居るのであればそれ相当の報いを与えて

納得させるしかないです」すみれは呆れた様に言う。


「あ~人を死に追いやって自分だけはのうのうと生きているなんて

許されないと言う事なのですね。因果応報と言う訳ですか……」

大志もさくらもそれは仕方のない事かもしれないと納得をする。


「そう言う事なのですが、中々納得をせずにかなり時間のかかる者も居て

こちらの苦労も大変なんですけれどね……」すみれは困ったように言う。


「ま、その話は横へ置いておきましょうか。

副室長様から、お二人を極楽へと案内する様にと伺っておりますので

極楽へ案内致します。こちらへどうぞ」すみれは二人を極楽へと誘う。


「すみれさん、

極楽で私達の父や母、そして友人たちにも逢えますよね……」

大志は歩きながら聞きたかったことをすみれに問う。


「あ~……そうですねぇ~……」すみれは何故か歯切れが悪い。

「逢えると言えば逢えるのですが……そうですねぇ~……

正確にはお二人の記憶にある御両親と逢う事が出来ます。

と言う事でしょうか……」すみれは困ったように言う。


「えっ!私たちの記憶ですか!」

大志とさくらは思っても居なかった言葉に顔を見合わせている。


「はい。極楽は全てがお二人の記憶の世界となります。

記憶にない方とは当然ながら出逢うことは出来ませんが

記憶のある人達にはいつでも逢う事が出来ますし

記憶にある場所などへはいつでも自由行く事が出来ます。


勿論、想像できるようであれば

誰であろうと何処であろうと大丈夫です。


それと、お二人揃って同時に極楽へ行く事が出来ると言う事は

大志さんが知っているけれど、さくらさんは知らないと言う場面でも

さくらさんはその人達やその場所に遭遇する事が出来ます。

勿論その逆の場合も同じです」


「えっ!

それでは私が知らない人とでも大志さんがご存じの方に出逢えるし、

私の知らない場所へ連れて行っていただけると言う事なのですか!」

さくらは信じられないと瞳をキラキラと輝かせている。


「はい。そう言う世界になります」すみれは笑顔で言う。


「うわぁ~素敵な世界なのですね!私は極楽は辺り一面の花園で

皆さんが楽しく過ごされている所なのだと思っていました」

さくらは大喜びをしながらも想像とは違う極楽に感動している。


「多分それは、お花が大好きな人が思い描かれた世界なのだと思います。

大志さんやさくらさんはお二人が思う世界を描かれてください」


「えっ!私たちの思う世界と言う事ですか!」

さくらと大志は全く想像もしていなかった事に

驚きながらお互いを見つめる。


「はい。

極楽の世界は自分の住みたい世界を思う事で実現できます」

すみれは笑顔で明るく言う。


「えっ!それじゃ~私、大志さんと愛姫で、また旅に出かけたいわ!

世界を旅すると言うのも素敵ですが、

もう一度、日本中の素敵な場所や港を二人で隈なく回りたいです!」

さくらは両手を胸に当て、瞳を輝かせながら大志を見つめている。


「えっ!それは嬉しくてとても素敵な世界ですね。

私もさくらと一緒にもう一度夢のように素敵な旅がしたいです」

大志も最高の笑顔で答える。


「あ!でも、食事代やヨットの燃料代などのお金は

どう言う風にして手に入れればいいのでしょうか?」

さくらはお金の入手方法が気になりすみれに問う。


「極楽は、お金はなど必要のない世界ですが、

使おうと思えばお財布の中にいつでも必要なだけあります。


お腹は空かないので食事をする必要はないのですが

人間だった時の習慣で食事がしたいと思えば

食事をすることも出来ますし、


ヨットなどの燃料は無くなる事は有りませんので

買わなくても大丈夫です。でも、燃料を入れようと思えば

いつでも買って入れる事も出来るのですけれどね。


それと、外国へ行かれても言葉の壁などありません。

相手は日本語を喋ってくれますし

お互いに相手の言う事が理解出来ます」

すみれは笑顔で言う。


「へぇ~……極楽はとても便利な所なのですね」

さくらも大志もあっけに取られている。


「人間界で生きられるのは数十年。仏の教えを守るのか守らないのかで

極楽へ来る事が出来るのかどうかが決まると言うのに、

愚かな人間は多いですよね………

お二人はこれから極楽での時間を永遠に楽しまれてくださいね」


「えっ!永遠にですか!!!」

大志とさくらは二人揃って大きな声を上げ顔を見合わせた。


「はい。それ以上歳を取ると言う事もなく終わりもありません」

笑顔で言うすみれにさくらは、


「思う世界と言われましたが、

若い私の世界ということでも良いのでしょうか?……」

すみれに恥ずかしそうに問う。


「お二人がそう願うのであれば勿論そう言う世界となります」

すみれは笑顔で言う。


「大志さん……

私、おばあさんではなくて大志さんと出逢って五島列島や瀬戸内海

そして日本一周した頃の若い私に戻りたいです」

さくらは大志を見つめ恥ずかしそうに言う。


「そうですよね。好きな年齢を選べると言う事であれば

私も体力のある、さくらと出会った頃に戻ると言うのは

とても素敵な事だと思います。私も若い時の自分に戻りたいと思います」

大志も嬉しそうにさくらの意見に賛成する。


「ほんとうですか!」

さくらは両手を胸に当て身体を震わせ瞳を輝かせている。

「はい。私が大学4年生で、さくらが高校3年生の時と言う事ですよね」

大志も嬉しそうに笑顔で言う。


「はい。そうなれば以前旅先で出逢って、

既に亡くなられた人たちにも逢えると言う事ですよね」

さくらはキラキラと瞳を輝かせ嬉しそうにしている。


「あ!それはとても素敵な事ですね!」

大志は思ってもみなかったことに喜んでいる。


しかし、すみれはその事に対して思案している。

(さくらさんが若返ると言う事は子供を産む事も出来ると言う事になる。

そうなれば又、別れを悲しむと言う繰り返しになるのでは?

と、二人がそう思えば、そう言う世界になってしまう……。


大志さんとさくらさんの事だから同じ事の繰り返しに成らないように

お互いを愛し合うと言う事を避けるわね……)


「さくらさん、若返ると言う事は

子供を産めると言う事にもなりますが……」

すみれが次の言葉を選ぼうとしたその時


「すみれさん、私は今

大志さんと再び出逢えただけで十分に幸せです。

この上、子供までは望まないです」

そう言うと大志を済まなさそうに見上げる。


「はい。私も、さくらと再び出逢えて十分に幸せで

これ以上の事は望まないです」

大志はさくらを見つめながらそう言うと、

両手でさくらを優しく抱き締めた。


「それは良かったです。

実は、極楽では生理は来ませんので妊娠をする事は有りません。

心配なくお互いを愛されてください」

すみれは咄嗟に言葉を選び、言葉の力を使う。


いわゆる、車に乗っていて体調が悪くなった人に

「あ!あなたは車に酔うんだ!」

と、誤った言葉の力を使ってしまうと、それを聞いてしまったその人は

それから車に乗ると酔ってしまうと言う言葉の力だ。


勿論、極楽で妊娠する事は可能でどのような事でも思う世界を実現できる。


「えっ!」さくらはすみれの言う言葉の意味を直ぐに理解して

恥ずかしそうに眼を閉じ俯くが、そっと大志を見上げる。


勿論、大志もすみれの言葉の意味は直ぐに理解していて

さくらを抱き締めたまま、優しくさくらの瞳を見つめ頷いている。


(お二人は私の様に見習い期間など無く即座に神か菩薩に成れたはず。

でも、大志さんとさくらさんは二人で一人なのよね……


もしも神や菩薩に成ってしまうと

人間界の色々な願いを叶えると言う素敵な事は出来るけど

忙しくていつも二人一緒にと言う訳には行かないのよね……)


すみれは何故、閻魔大王が二人を

神か菩薩の世界へと送らなかったのを理解した。


「では参りましょうか」 

すみれが見えない扉でも押し開くように 

両手をスッと前に出し広げると、


 大志とさくらは、すみれと共に大空に浮かんで居て

眼下には愛姫が置いてあるハーバーを確認する事が出来た。


「あっ!」大志とさくらは、

すみれと一緒に空に浮かんでいることに驚くが、それと同時に

「あっ!大志さん!」

「あ!さくら!」

二人はお互いに出逢った時の若い姿に驚いている。


「すみれさん!これは!?」

大志とさくらは同時に、すみれに問いかける。


「此処はもう極楽で、お二人の思う世界です。

四季はありますが灼熱の夏はなくて極寒の冬もありません。


嵐も有りませんし、1年を通じて過ごしやすい気候となります。

怪我や病気もしませんし悪人も居ません。


そして、お二人の思う世界はいつでも替える事が出来ますので、

お二人で相談されて色々と素敵な世界を楽しまれてください。


それと、色々な動物とも日本語で話をする事が出来ます。

人魚の様に魚と一緒に海の中で泳いだり魚と話をする事も出来ます。


今ここで浮かんでいる事が出来ているように、

大空を鳥の様に自由に飛んだり鳥と話も出来ますので

楽しみにされて下さいね」すみれは笑顔で言う。


「えっ!動物たちやお魚さんたちとお話が出来て、

鳥さんの様に大空も飛べて鳥さん達ともお話が出来るのですか!」

さくらは驚きと共に瞳を輝かせているが大志も驚きで目を丸くしている。


「勿論ですとも」すみれは微笑んでいる。


「大志さん、と言う事は犬さんや猫さんそしてイルカさん、

そして五島列島に居た鹿さんたちともお話が出来ると言う事ですよね!」


「そうみたいですね。これは本当に夢の様に素敵な世界ですね!」

「ええ。本当に夢みたいに素敵な世界なのね!」

さくらは心から嬉しそうだ。


(これほど光り輝き強く引き合う魂なんて見たことが無けど

二人で手を繋ぎ極楽へ行くと言う事も聞いたことが無いわ……

この事は霊界の伝説となるわね……)

すみれは伝説となるであろうこの場所に立てた事に感動している。


 そして3人で愛姫のコクピットに降り立つと

さくらが初めて出会った時の若い新田が

ポンツーンから笑顔で大きな声を掛けてくれた。


「城中さん、愛姫の点検整備はすべて終わっていて

いつでも旅に出る事が出来ます。


お天気も良い様なので素敵な旅が出来ると思います。

お二人で最高に素敵な思い出を作られてくださいね」

新田は最高の笑顔で手を振ってくれていて、


それに合わせて出逢った頃の道夫とみどりに英治や美穂に、その子供たち

大志やさくらの両親に真理や志保たち、そして、大学生の浩に高校生の奈々子も

大きく手を振りながら笑顔で見送ってくれている。


(あら!新田さん!道夫さんにみどりさん達や浩さん、それに奈々子さんも

皆、亡くなってしまったと思っていたのに生きているじゃないの!?)

さくらは驚くが、大志も皆が生きていることに驚いている。


「はい。ありがとうございます。二人で最高に素敵な思い出を作ります」


大志もさくらも見送る人たちに大きな声で手を振りながら

最高の笑顔で答えると、大志は愛姫をゆっくりとバースから離して行く。


 港の外に出ると、大志はいつもの様にさくらに操船を依頼して

ジブセールとメインセールを大きく広げると、

愛姫は大きく開かれた2枚のセールに風を受けて

明石大橋方面へと力強く突き進み始める。


「それでは、そろそろ私は失礼します」

「すみれさん、本当に色々とありがとうございました。

すみれさんには何とお礼を申し上げれば良いのか……」

二人はすみれに心からお礼を言うと深く頭を下げる。


「いえいえ。これは、お二人の心がけから導かれたものなのですから」

すみれは謙遜するが、


「いえ。すみれさんがいらっしゃらなければ

今の私たちはなかったと思っています。本当にありがとうございました」

大志とさくらは再度深々と頭を下げた。


「いえ。こちらこそお二人の素敵な世界を見せて頂きました。

こちらこそありがとうございます。いつまでもお幸せにねっ」

笑顔でそう言うとすみれは手を振りながら二人の前から姿を消した。


「さくら……すみれさんと閻魔大王に感謝ですね。

極楽がこんなにも素敵な世界だとは夢にも思わなかったです……」


「ええ。私も極楽がこんなに素敵な世界だなんて夢にも思いませんでした。

すみれさんと閻魔大王様に感謝しています」


さくらがそう言って大志に寄り添い優しく大志を見上げると

大志もさくらを見つめながら、さくらの身体を再び優しく抱き締めた。



                完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

閻魔大王に。 優美 @yumi125

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ