第7話
降下の時間はアッと言う間に終わり直ぐに人間界へ着いたのだが、
すみれが急ぐあまり、荒い着地になり良子は止まり切れず、
すみれに後ろからドンと体当たりをしてしまう。
良子に押されたすみれは死神とぶつかりそうになり、
「あ!どいて!」すみれは目の前に居た死神を思わず手で跳ねのけてしまった。
「うわっ!」急に目の前に出て来たすみれに弾かれた死神は、
退却をしようとするが間に合わず壁に額をゴツンとぶっつけ、
「いた!」と大声を上げた。
「あ!ゴメン。それと、この女の子の身体は引き続き使うから」
頭を押さえながら去り行く死神にそう言いつつ良子に、
「その女の子の身体のどこでもいいから早く触って!」
しかし良子が身体を触ると同時に
「あ!ちょっと待って!」
すみれは、そう言って良子を止めようとするが
間に合わず、良子は女の子の身体の中に入ってしまった。
(あ!やっちゃった!!!男の子と出会う為の記憶や、
この女の子の記憶などを渡さなければいけなかったのに……
もう私の姿は見えないし、私の声も聞こえないわよねぇ~……)
そして良子は大地さくら(19)として息を吹き返す。
「此処は?…………」
勿論、さくらは良子としての記憶も、
さくらの記憶も何もなく全ての記憶を失くしている。
(ごめんね……直ぐに先ほどの男性が探しに来てくれるからね。
その男性と出会って必ず夫婦と成るのよ……)
すみれは肩を落とし仕方なく人間界を後にした……。
「ただいま。つぼみ……」
「お帰りすみれ。上手く行ったようね」
つぼみは無事ロウソクが灯り始めたので安堵していて、
すみれの落ち込んでいる姿に気付かない。
「ええ。引継ぎは何とか間に合ったのだけど……」すみれは歯切れが悪い。
「あら!何かあったの?」
「それがね……お互いに再会して夫婦に成る為の記憶を渡せなかったの……」
すみれは肩を落とし困惑した顔をしている。
「えっ!お互いに夫婦に成る!?記憶を渡せなかった!
え~~~!それじゃ~どうするの?」
「もうこうなったら男性の方にお願いするしかないわね」
すみれは開き直っている。
「と、言う訳でこれから人間界へ行って引継ぎをしますね」
そう道英に伝えて引継ぎ用のロウソクをつぼみに渡そうとしたその時、
「すみれ様!」と血相を変えた死神総長がやって来た。
「あらら……うるさい爺さんが来たわ……」
すみれはつぼみの耳元で囁くと総長に挨拶をする。
「お久しぶりです。総長様」
「挨拶はいいです。それよりすみれ様。
私の部下にとんでもない事をして頂いたようですが!」
「え!とんでもない事?……」
「とぼけないでください。この者を見てください」
そう言って総長の後ろから顔を出したのは先ほどの死神だった。
「あ!あなたは先ほどの!」死神は額に白い鉢巻をして、
恨めしそうにすみれを見ている。
「アハハ!何よその恰好……」すみれとつぼみは笑うが、
総長がつぼみを睨み、そしてすみれを見つめると二人は黙るしかない。
「ごめんなさいね……でもねぇ~貴方……壁はすり抜けられるはずでしょ?」
すみれは笑いをこらえながら言うが、
「突然なことで壁をすり抜ける間がなかったそうです!
それに、
こんな格好では魂に恐怖を与えて身体から引き離す事など出来ないので、
暫く仕事にならないのです。人手不足だと言うのに……」
総長はご立腹の様子だが感情は押さえている。
「ごめんなさい。これからは気を付けますから」
すみれは死神と総長に深々と頭を下げた。
「解って頂ければよろしい。以後気を付けてくださいますように」
そしてすみれが総長たちに頭を下げている時、
道英は燃え尽きそうだった
男の子の寿命とされるロウソクの火が消えてしまっている事に気付く。
「あの……つぼみ様。ロウソクが燃え尽きて火が消えていますけれど……」
後ろから道英に言われつぼみがロウソクを見ると
ロウソクは燃え尽きて火が消えている。
「あっ!」燃え尽きたロウソクを見たつぼみは、
総長たちに頭を下げているすみれに後ろから小声で言う。
「ねえねえ。すみれ」
「ん?」すみれは総長たちに頭を下げたまま振り返り返事をした。
「男の子のロウソクがいつの間にか燃え尽きちゃってる……」
つぼみは申し訳の無いと言うような顔をして小声で言う。
「えっ!あっ!」すみれが慌ててロウソクを見ると確かに燃え尽きている。
「総長様、急ぎますのでこれにて失礼いたします」
総長にお辞儀を済ませると
すみれは大急ぎで引継ぎ用のロウソクをロウソク台に立て、
「これから人間界へ行きますので、私と一緒にあの崖の淵へ行って
後ろから私の帯をしっかりと握ってください」
と良子に説明した時と同じ事を道英に伝え人間界へと急ぐ。
(どうしてこうなるの?時間はあるはずだったのに……)
そして人間界に着いたすみれは、
「こんにちは」と、おしとやかに死神に挨拶をした。
「あ!すみれ様!」死神は突然現れたすみれに驚いてはいるが慌ててはいない。
「この男の子の身体は引き続き使いますのでよろしくね。
あ!それと帰る時に壁などに頭などをぶつけられない様にされて下さいね」
と、優しく言うが、
「壁はすり抜けられますので頭などぶつけたりはしないですけれど……」
死神は不思議そうに言うと壁をすり抜け姿を消した。
(普通はそうよねぇ~……)すみれも当然だと呆れている。
「さて、貴方にこの子の記憶と、今のあなたの記憶と、
先ほどの女性と出会って夫婦と成る為に必要な記憶をお渡ししますので、
先ほどの女性と出会って間違いなく夫婦となられてくださいね」
「はい」
「では、私の両手を握り私の目を見て下さい」
と、すみれがそう言って道英と手を繋ごうとしたその時……
続く
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