第8話

「大志!」

遅れてやって来た大志の兄は、家族から大志は既に亡くなったと聞き

慌てて何とか生き返って欲しいと大声を出し大志の身体を激しく揺さぶる。


そして大志の身体が激しく揺らされたその時、

大志の手がベッドから滑り落ちて道英の身体に触れてしまい、

その瞬間道英は大志の身体の中へと移動をしてしまった。


「えっ!?」すみれはお互いに手を握ろうとしたその時、

目の前から突然道英が居なくなった事を一瞬理解できないでいたが、


直ぐに男の子の手が、ベッドから出ていることに気付く。

(あっ!男の子の方から触られたのね……

え~~~どうしよう……

男性の方にも記憶を渡せなかったじゃない……)


そして、

「此処は?……」道英は城中大志(23)として目を覚ますが、

すみれはなすすべもなく人間界を引き上げるしかない。


「ただいま。つぼみ……」すみれは肩を落とし生気なく言う。

「あら!?どうしたの?引継ぎは上手く行ったようなのに?」


つぼみは無事ロウソクが灯り始めたので成功していると思っていたのだが、

前回と違い今度はガクッと肩を落として全く元気のないすみれに気付き、

優しく声を掛けた。


「それがね。つぼみ……男性の方にも全く記憶を渡せなかったの……」

すみれはガックリと肩を落としたまま、疲れたように言う。


「えっ!それで二人は大丈夫?ちゃんと出逢えて夫婦に成れるの?」

「そうなのよ……赤ちゃんからだと、

大人になるまでに覚えさせた記憶を覚えている事が出来るのか心配なので、


ある程度大人になっていれば記憶が残りやすいし、

丁度、隣町なので再会しやすいと思って、あの男の子と女の子にしたのに、

もうどうなるのか私にも分からない……」


すみれは閻魔大王に出逢って夫婦と成れるよう取り計らう事。

と、言われた事を実行できなくてかなり落ち込んでいる。


「でもね、つぼみ……男の子はまだ大学4年生だし、

女の子もまだ高校3年生でしょ……まだまだ時間があると思うの……

それまでに何か打つ手を考えるわ。だから今日は帰るわね。また来るから……」

すみれは力なく言う。


「うん。ほんと!まだ時間は有るものね。すみれ」

つぼみは気落ちしているすみれを労わる様に優しく言う。

「うん。まだ時間は有るものね。明日またね。つぼみ……」

すみれはガックリと肩を落としたまま力なく返事をして去って行く。


 一方、生き返った大地さくら(良子)は、

目の前にいる人たちが誰なのか判らず混乱していたが、

医者たちの方が混乱している。


「先生!さくらさんが息を吹き返しました!」

看護師は慌てふためき大声で叫ぶ。

「なんだって!?」確かに死を確認した主治医も信じられないと、

さくらの元へ走りさくらに声を掛ける。


「さくらさん!大丈夫ですか!どこも何ともないですか!?」

「はい。私は大丈夫ですが、此処は何処なのでしょうか?

私の名前はさくらなのですか?」


医者は再び心電図などを取り付けてみて、

さくらの状態から身体に異常が無いのは確認できた。

そして記憶が飛んでいるらしいと言う事も同時に理解した。


「先生。さくらは……」さくらの父、大地努は心配そうに聞く。

「う~ん……意識は取り戻されたようですが、

記憶を無くされているようですね。


直ぐに記憶が戻る場合もありますが時間が掛かる場合もあります」

医師は意識が戻ったこと自体信じられず、混乱したままだ。


「さくらはもう大丈夫なのでしょうか?

自宅へ連れて帰ってもいいでしょうか?」

「そ、そうですね……

本人もお元気そうですし心電図に異常なしなので

お家へ連れて帰られても大丈夫でしょう。

記憶を戻すためにもその方が良いかもしれないですね。

何かあればすぐに連絡をください」


医者がそう言って帰宅許可を出してくれたので、

さくらの父や母の絵里も兄の風太や姉の里香そして妹の結衣も

大喜びをしてさくらを連れ家に帰ることにした。  


 帰りの車の中では兄や姉、そして妹から声を掛けられるが、

さくらは全く覚えが無く

この人たちが私の家族なのだろう……と思うしかない。


 家に帰り着き母に自分の部屋に通されると、

勉強机の上には色々な本や自分の写真が置いてあり、

自分は高校3年生なのだと理解した。

(ここが私の部屋……)


 そしてその夜、

さくらはベッドに入るが三途の川へ向かう途中で竜門の前に居た

あの大きな赤鬼を見て目覚めた。


(ああ驚いた!夢だったのね…)と、再び眠りに就くが夢は続き

閻魔大王に出逢った所でまた目が覚める。

(ハッ!また夢なのね……

それにしても閻魔大王様って大きくて怖いわね……

私、おばあさんになって死んじゃったみたいね。


これって私が死んでしまった後の出来事?

予知夢なのかしら?でもその時、

笑顔でとても優しい男の人がいつも私と手を繋いで

傍に居てくれたのだけど誰だったのかしら?……)

さくらは暫く考えるがいつの間にか眠りに落ちていた。


 朝になりさくらが家族と朝食をしていると父の努が、

「さくら、よく眠れた?」と、心配そうに聞くが、

「はい。よく眠れました」

さくらはあまり眠れなかったのだが心配を掛けないようにそう答えた。


「そうか。それは良かった。で、学校はどうする?

記憶の為にも学校へ行く方がいいかとは思うのだが……」

努は心配そうに優しく聞く。


勿論、母の絵里も心配そうな顔をしてさくらを見ている。

兄の健太も姉の里香も口を揃え、

「休みたければ休めよ……」と労わる様に優しく言うが、


さくらは、

「私の記憶の為にも今日から学校へ行きます」

と明るく答えると母が車で学校へ送ってくれる事となった。


 学校では同級生から色々な事を教えて貰い、

さくらの記憶量は一気に増えて行く。

特に仲良くしていたらしい菊池奈々子は

横に付きっ切りで話をしてくれたので、

さくらは大助かりだ。


 そして女の子たちに人気者の中場秀も、

さくらの傍で話をしてくれたのだが、

その姿を敵対心あらわに見つめている仲間美樹がいる。


そして美樹は中場秀が居なくなるとさくらの元に来て、

「二人でイチャイチャして!何様のつもり」と、なかなかの剣幕だ。


           続く

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