第9話
(あら!この子、中場君の事が好きなのね)
「ごめんなさいね。二人で
イチャイチャしているつもりは
無かったのだけど、
お気に触ったのなら許して頂戴ね。
それに私は
別に付き合っている人が居るから……」
さくらは美樹の言う事は
何故かそれほど気にならなくて、
子供に諭す様に優しく言う。
しかし美樹は、
いつもなら半泣きになって
何も言い返さなくて
いじめる事が楽しいさくらなのに、
いつもと全く違う大人のような口調で
目を見ながら反論され
腰を引きつつもさくらを更に問い詰める。
「えっ!付き合っている人が居る?
でも記憶を無くしているって
言ったじゃない!」
頭に血が上っている美樹は
強い口調のままだ。
「そうね。
確かに記憶は無くしてしまったけれど、
全ての記憶を無くしてしまった
と、言う訳ではないのよ」
さくらは美樹とは反対に冷静で笑顔のままだ。
「えっ!そ、そうなの!
で、誰よ、それは!」
美樹は尚も問うが、
「言っても無駄だと思うわ。
この学校の人ではないし、
あなたの知らない人だもの……」
さくらは美樹の目を見つめ
落ち着き払って諭す様に優しく答えた。
「そ、そう……」
その冷静な言葉に
美樹は完全に闘争心を無くし、
仕方なく追及する事を止め、
渋々とさくらの元を離れて行った。
「さくら!やるわね!
さくらが苦手で怖いと言っていた
あの高慢ちきな美樹を言い負かすなんて!」
いつもは弱弱しいさくらの変貌ぶりに
奈々子も驚いているが嬉しそうだ。
「えっ!苦手で怖がっていた……」
「あ!そうか!さくら記憶が無いのよね……
今の言葉忘れて!」
奈々子は両手を合わせ拝むように言う。
「ええ、勿論、今の言葉は忘れるわ」
さくらは笑顔で答える。
「それで、
付き合っている人がいるって誰なの?」
奈々子はその男性が気になって仕方がない。
「えっ、誰が付き合っている人が居るって?……」
さくらはおどけながら言う。
「えっ!
だって今、付き合っている人がいるって……
あ!まさか!」
奈々子は目を見開きさくらを見つめる。
「ウフフ。多分そのまさかね」
さくらは奈々子にウインクをして笑顔を見せた。
「あらら……そう言う事だったのね……
本当の事かと思ったわ。
そうよね。さくらに付き合っている
彼氏がいるなんて事は無いものね」
奈々子は安心したように言うが、
「えっ!それはそれで問題ねえ~……」
さくらは
かなり落ち込んだ様な仕草をして見せる。
「あ!ゴメン!今の言葉も忘れて!!!」
奈々子は両手を合わせ今にも泣きそうだ。
「ウフフ。冗談だから大丈夫よ。
今の言葉も忘れるわ」
さくらは再びおどけて言う。
「ありがとうさくら……
さくらは可愛いから
男子は沢山言い寄って来るけれど、
勉強優先のさくらは
あまり相手にしないのよね……」
奈々子は呆れている。
「あ!そうなの!……
勉強ばかりが人生ではないのにね……」
何故そう思うのか自分でも良く解らないが、
さくらはそう言って肩をすぼめた。
「あ!そうそうさくら。
今度の土曜日の午前中だけど、
アニメのイベントがあるの。
チケットが1枚余っちゃったから
一緒に行ってくれない……」
奈々子は思いを寄せていた男の子を誘い
一緒に行こうとアニメのイベントの
チケットを2枚手に入れていたのだが、
断られ仕方なくさくらを誘おうと思っていた。
「いいわよ。なんだか楽しそうね。
日曜日は家族と約束があるけれど
土曜日だったらいいわ。大丈夫よ」
さくらは
アニメのイベントには興味が無いのだが、
色々と良くしてくれる
奈々子の誘いを断る理由は全く無いので
一緒に行く約束をする。
そしてさくらと同じ日。
城中大志として目覚めた道英も、
さくらと同じく記憶がなく混乱していたが、
大志よりも大志の家族の方が混乱している。
「お兄ちゃん今までは俺って言っていたのに
今は私って言うのね?」
妹の美咲は言葉遣いも動作も
少し変わってしまった兄の大志に
違和感があり、父に小声で言う。
「いやいや、
大志ももうすぐ社会人となるし
自分の事を俺って言うよりも私、
と言う方が正解だよ。美咲」
父の真一が諭す様に言うと
「そうだよ美咲。俺って言うよりも
私、の方が大人の感じがするだろ」
兄の健太も、父や母そして妹同様に
大志の変化に違和感を抱きながらも
生きていてくれたことに感謝をしている。
医者からの退院の許可も出て
大志たちは自宅へと帰るが、
さくら同様に
家族の事など全く判らない大志は、
最初から自分の事や
家族の事を覚えるしかない。
家に帰ると
自分の部屋へと案内され自分は今、
大学4年生なのだと言う事は理解できた。
そしてその夜、
自分の部屋のベッドに入った大志だったが、
あの竜門で見た大きな赤鬼に驚き目を覚ます。
「うわっ!」
(お~!びっくりした!夢だったのか……)
夢だと解り安心した大志は再び眠りに就くが
閻魔大王の姿に再び目を覚ます。
「うわっ!」
(今度は閻魔大王か!
閻魔大王はでかいな!……
それと、
いつもそばに居て私と手を繋いでくれていた
笑顔の素敵な年配の女性が居たけど、
誰だろう?)
大志はあまり眠れないまま朝を迎え、
家族で朝食をとっていると父の真一が、
「今日はどうする?大学へ行くか?」
「はい。記憶が無いので
どうなるか判らないですが
記憶を取り戻すためにも
行ってみようと思います」
大志が元気に言うので、学校へは
兄の健太が車で送ってくれることになり
無事登校する事が出来た。
学校では大志の友人、山下浩が
色々と話をしてくれるので物凄く助かる。
そして浩が
「お!大志!美玲が来たぞ!」
浩は美玲を見つめたまま立ち尽くしている。
その浩を見た大志は
(ん!浩君、
美玲さんの事が好きなのかな?……)
と浩を見ている。
そして美玲は大志の傍に来て
「大志君。
記憶を無くしたって聞いたけど大丈夫?」
「ええ……でも浩君や皆さんのおかげで、
色々な事を思い出してきました。
ご心配ありがとうございます」
大志は立ち上がり心配を掛けないように
そう言うと、美玲に笑顔で頭を下げた。
美玲は、いつもなら、
恥ずかし気で自信なさそうに
自分の前でオドオドしていたのに、
今までとは違い
ハッキリと自分の目を見てものを言う
大志の対応に少し戸惑うが、
「そう。それは良かったわね。
でも、何か困ったことが有ったら
いつでも言ってね」
優しくそう言うと大志のもとを去って行く。
「大志!良かったな!
美玲がいつでも力になってくれるだって!」
浩は自分の事の様に嬉しそうに言う。
「ええ。優しそうで素敵な方ですね」
大志は浩の腕を軽く突きながら
悪戯っぽく言う。
「な!何だよ!……お互い様だろ!」
浩はいまさらと言う顔をする。
「えっ!?お互い様???」
「あ~~……美玲の事も忘れたか……
美玲は身近なアイドルで
俺たち男全員の憧れの的なのさ……」
浩はそう言いながら
去り行く美玲の後姿を見つめている。
「あ~そう言う事か……」
大志も去り行く美玲の後姿を見ている。
「あ!そうだ!大志!
俺と一緒に行くと言っていた
土曜日のアニメイベントの事も
忘れているのか?……」
「えっ!何も覚えていないのですが、
日曜日は用事がありますが
土曜日は大丈夫です。
行くと言っていたのでしたら行きます」
大志は浩に
迷惑をかける訳にはいかないと思い即答する。
「じゃ~今度の土曜日の朝、
南山下駅で7時半に待ち合わせな」
「はい。解りました」
浩が嬉しそうに言うので
大志もその日が楽しみになる。
追、
ウフフ。勘のいい読者の皆さんは
あ!流石にこれは何かあるだろう……
と、感じていらっしゃるかもですね。
次回を楽しみにされて下さいね~。
続く
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