第10話
そして土曜日の朝。
浩は苦労して手に入れたレア物のアニメの帽子と、
超レア物のアニメの腕時計を身に付けている。
「あ!浩君、その帽子と腕時計、とても素敵ですね」
大志は腕時計全体にアニメがプリントされている素敵な腕時計に目が行く。
「えへへ……いいだろ。この時計を手に入れるのは本当に大変だった……」
浩は得意そうに腕時計を見せる。
そしてイベント会場に着いた二人は、入場門までの列に並んでいるが、
偶然にもさくらと奈々子は大志たちの後ろに並んでいて
奈々子はさくらの耳元で囁く。
「ねえさくら、前に居る右側の男の子の腕時計を見て。
あの男の子、結構なアニメマニアね。
あれって男女ペアで売りに出されたのだけど、
あっと言う間に完売して幻の腕時計って言われているのよ。
私、彼が出来たらペアで着けたかったからとても欲しかったのだけど、
手に入れることが出来なかったわ」
と、その時、係員がハンドマイクで放送をする声が聞こえて来た。
「チケットは各自でお持ちください。
チケットは午前の部と午後の部とがございます。
お間違えが無いかどうか、今一度チケットの確認をお願いいたします」
「あ!そうだ!チケットを渡しておかなくてはね」
奈々子がバッグからチケットを取り出してさくらに渡すと、
「あら!奈々子さん……このチケット、土曜日ではなくて
日曜日のチケットのようですけれど?」
「えっ!あっ!ホントだ!
土曜日のチケットを購入したはずなのに!どうしよう……」
奈々子はチケットを確認して固まってしまうが、それを聴いた浩は、
「おいおい……曜日を間違えたなんて言っている奴がいるぜ」
大志の耳元で呆れたように囁く浩に、
大志は自分たちのチケットを後ろの二人のチケットと交換してあげよう。
と、浩の耳元で囁き自分のチケットを浩に渡す。
(えっ!それは流石に勘弁だぜ!)
浩が後ろを振り返ると、黒髪でセミショートカットのさくらと
少し茶髪でショートカットの奈々子に目が合ってしまう。
浩はすかさず目をそらし、
「お前、明日は来る事が出来ないだろうが?」と、浩は大志の耳元で囁く。
「いえ、時間は、ずらせると思いますから大丈夫です」大志も浩の耳元で囁く。
浩は今日と言う日を楽しみにしていたのだが、
困っている女性、特に若くて可愛い女性を見過ごすと言うのも気が重い。
浩は仕方なく大志の言う通りチケットを交換することにする。
「あの~……俺たちのチケットと交換しましょうか……」
浩は、断ってくれますように……と思いながら
二人の前に、そっとチケットを差し出す。
しかし、後ろから大志と浩のやり取りを見ていたさくらは、
浩が乗り気でないのは見て取れていたので笑顔でやんわりと断る。
「それは、素敵なお申し出をありがとうございます。
でも、私たちは明日もう一度出直して来ますので大丈夫です。
それに、あなた方も今日と言う日を楽しみにされていらっしゃったでしょうから」
さくらが優しくそう言うと、
「えっ!さくら!何言ってるの!折角そう言ってくれているのに断るのは失礼よ」
折角の申し出を断りたくない奈々子は笑顔で優しくやんわりと言いながら
さくらのチケットを取り、浩の持つチケットと自分達のチケットと交換してしまう。
「すみません……どうか私たちの気持ちを受け取って頂けないでしょうか……」
大志がさくらに悲しそうに言うとさくらは少し考えて、
「そうですよね……折角の厚意を断るのは失礼ですよね。
私たちの為に素敵な申し出をありがとうございます」
大志たちの厚意を素直に受ける事にしたさくらは、笑顔で二人に深々と頭を下げた。
「では、楽しまれてくださいね」
と、大志が浩と二人でその場を離れようとしたその時、
「あ!そちらの方は
今日と言う日をとても楽しみにしていらっしゃったと思いますから
私のチケットを使ってください」
そう笑顔で言うと、さくらは奈々子からチケットを1枚抜き取り浩の前に差し出す。
「えっ!それでいいの!さくら……」
奈々子は驚きながらも若い男性と一緒に行ける方が嬉しい。
「いいのよ、奈々子さん。アニメが好きな者同士の方が楽しいと思うから」
さくらは笑顔で言う。
勿論、浩も可愛い女性と一緒の方が嬉しい。
その嬉しそうな浩の顔を見た大志も素直に喜んでいる。
「ありがとうございます」
浩がさくらに頭を下げながらお互いにチケットを交換すると、
「では私たちは、そこの長椅子で待っていますから」
大志はそう言ってさくらと二人で列を離れ
近くに有った長椅子に二人で座ると
さくらが大志に頭を下げながら言う。
「私達の為にチケットを交換して頂いて、本当にありがとうございました」
「いえいえ。さくらさんは、あ!済みません!
お二人の話が耳に入りまして、お名前も一緒に聞いてしまいました……
私は城中大志と申します」
「ウフフ」と、何故かさくらが笑う。
「あ!大志なんて大げさな名前でしょ」
「いえいえ。そうではないの。若い方は皆さん俺、って言われるのに
大志さんは私、って言われるから……」さくらは口元を押さえながら笑顔で言う。
「あ!それはよく言われます……
でも自分の事を俺、って言うのは何故か違和感が有って、
自分の事を私、と言う方が何故か落ち着くのですよね……」
大志は頭を掻きながら照れくさそうに言う。
「でも私は大志さんが自分の事を私って言うことに賛成よ」
さくらは、お世辞ではなく本心を笑顔で言う。
「ありがとうございます。あ!待っている間
座ってばかりと言うのも何ですから、近くを散歩でもしませんか?」
「あ!それはいいですね」さくらも乗り気で嬉しそうだ。
散歩の途中でクレープ屋さんを見つけた大志は、
「クレープ、美味しそうですね。食べませんか?」
「あ!いいですね。私、クレープ大好きです」
さくらが嬉しそうに言うので、
「それじゃ~私がおごります。何がいいですか?」
「いえ。初対面の方におごって頂く訳には行かないですから」
そう笑顔で言って、さくらは財布からお金を出そうとするが
誤ってお金を落としてしまう。
「あっ!」さくらが小さく声を上げると同時に、
大志は道に転がるお金を拾おうとするが逆に遠くへ蹴飛ばしてしまう。
「うわっ!しまった!」
続く
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