第11話

 大志は直ぐにお金を拾うと、


「私の方からどうですか?

なんてお勧めしましたので、

私におごらせて頂けると嬉しいのですが……」


と、両手を添えてお金を手渡しながら

少し困ったように言う。


「あ、はい……では、お言葉に甘えまして」

笑顔で言うさくらに大志も笑顔を返す。


 そして二人はクレープを食べながら

近くを散歩するが、話す言葉は少なくても

景色を見ながらの楽しい時間は流れて大志は


(さくらさんは物静かで

大人しい人なんだなぁ~……

口数は少ないけれど、

人の話をよく聞いているし、


相槌や笑顔で楽しいと言う雰囲気は

十分に伝わってくる。


同世代の女の子とは違っていて

何だか落ち着いて傍にいることが出来る……)


勿論さくらも、

(大志さんって他の同世代の男の人と比べて

女性の気を引こうとか、

必要以上に背伸びをするなどしていなくて


腰が据わっていると言うか、

随分大人のように感じる……

一緒に居ると何故か心落ち着くわね……)


そう感じていると突然大志が


「あ!もうこんな時間だ!」


「あら!ホント!もうこんな時間だわ!」

急いでイベント会場に帰り

長椅子に座ると大志は、


(このチケットどうしよう……)

と、チケットを手にして考え込んでいる。


「明日は何か差支えがあるのですか?」

さくらは大志の困ったような顔に気付き

声を掛けた。


「はい。実は

明日の午前中は父との約束がありまして……

午後にずらしてもらう様に

言わなくてはいけないですね……」


「あら!そうなのですね……

私たちの為に申し訳の無い事です。


私は明日は母と約束がありますので

此処へ来ることは出来ないです……」

さくらも困った様な顔をしている。


「あ!さくらさん、

私たちの為に気を使って頂いていたのですね。

申し訳の無い事です。

本当にありがとうございました」


大志は本当に申し訳の無い事だと

頭を下げるが


「いえいえ。私が好きでした事ですから……

お気になさらないようにされて下さい」

さくらは笑顔で言う。


「それにしても、

このチケットどうしましょう……」


と、お互いにチケットの扱いに悩んでいると

浩と奈々子がイベント会場から

お互いに大きな袋を抱え笑顔で出て来た。


 そしてその頃、

すみれはつぼみの元へ遊びに来ているのだが

いつもの場所につぼみが居ない。


「つぼみ何処に居るの?」

すみれは大声を出すが返事が無い。


「つぼみ」すみれが再度大声を出すと


「すみれ。ここよ」

と、奥にある遠泉の方から

すみれを呼ぶ声が聞こえる。


すみれが声のする方へ行くと、つぼみは

崖の霧の中の人間界への通路とは違い、

人間界の話も聞こえると言う

遠泉の傍ですみれに手招きをしている。


「此処にいたのね」


「あの二人、出逢う事が出来たわよ!」


「えっ!ホント?」

すみれは急いで

つぼみと同じように遠泉を覗き込む。


 そして人間界では


「お待たせさくら!

今日はとても楽しかったわ。ねえ浩さん」


「うん奈々子と一緒で最高だったよ」


(えっ!……呼び捨て?!……)

大志とさくらは

お互いに顔を見合わせ驚いている。


「会場が混んでいてお互いに思う様に

買い物が出来なかったけど

楽しめたよねぇ~」

奈々子は浩と顔を見合わせて嬉しそうだ。


「そ、そう、それは良かったわね~……」

さくらはその二人の甘い仕草に

目も当てられないと少し呆れている。


「とにかく楽しめたと言う事なので

それは良かったですね」


大志も、その日のうちに

浩が呼び捨てにするほど

二人が仲良くなれたことに呆れながら言うが


(ん!)

その時、大志とさくらは同じことを思い付き

顔を見合わせて二人同時に頷く。


さくらがチケットを大志に差し出すと

大志は自分のチケットと合わせて


「私たちは明日来る事が出来ないので

二人が良ければだけど、

明日も奈々子さんと二人で一緒に

と、言うのはどうだろう……」


そう言って大志は

2枚のチケットを浩に差し出した。


「えっ!いいのか!」


「えっ!本当にいいの?」

奈々子も驚いてはいるが嬉しそうだ。


「さくらさんと二人で決めた事だから」

奈々子がさくらを見ると、

さくらも笑顔で大きく頷いている。


「二人ともありがとう」浩

と奈々子は声を揃えて二人にお礼を言うと、


「明日も二人で楽しもう」

浩は嬉しそうに奈々子に言うと、

奈々子も勿論だと笑顔で頷いている。


「よし!今日の昼飯は俺がおごるよ」

浩は気分が良いので

気持ちが大きくなっている。


「あ!浩君ゴメン……

私はもう帰らないと……」

大志が残念そうに言うと


「私も、もう帰らないと……」

さくらも申し訳ない様に言う。


「何だ!二人共付き合い悪いなぁ~……

俺が折角おごるって言っているのに……」

浩は納得がいかない。


「あ!そう言う事か!

浩さん察しなければ……

私たちはお邪魔虫かも……」

奈々子は浩にウインクをして促す。


「あ!そう言う事か!

それじゃ~お邪魔虫の俺たちは

二人で食事に行くからまた今度な。

大志!頑張れよ」


「さくら!頑張るのよ!」

浩と奈々子は

二人に意味不明な言葉を残したまま、


笑顔で二人に手を振り

腕を組みながら去って行ってしまう。


「えっ!奈々子さん!

何考えているの!違うわよ!」


「浩君!それ勘違いしている」


 お互いに気まずくなって

何か話をしなければ……

と、お互いに思ってはいるのだが


共通の話題も思いつかず

歩き続け駅まで来てしまう。


「さくらさん……

何だか変なことになりましたが、

本日は本当にありがとうございました」


大志は、さくらの事を本当に可愛いし

素敵な女性だとは思うのだが、

何故かそれ以上前へ進む気にならない。


「ええ……

私達、勘違いをされたようですね……

こちらこそ、

ごちそうになったり色々と

本日は、本当にありがとうございました」


さくらも大志をとても素敵で

可愛い男性だとは思うのだが、

大志と同じように


何故かそれ以上前へ進む気にならなくて、

軽く会釈をして大志の元を去って行く。


 そして、それを遠泉で見ていたすみれは、


「えっ!ここでこのまま別れるの?……

つぼみ、お互いに連絡先など交換した?」


「いえ……お互いに

名前だけは分かったようだけど……」

つぼみも呆れている。


「え~~~信じられない!

連絡先を交換しないなんて!

なにやってんの!


これじゃ~次に出逢う事が

出来ないじゃないの!」


すみれは二人が上手く出逢ったので、

これから無事に交際が始まると思っていたが

そうではないようだと頭を抱えている。


と、その時つぼみは

もうこれしかないと言う名案を思い付く。

                 

       続く

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