第2話

 そして二人が、お互いの話に笑いながら夢中で歩いていると、

道の右手に幅15メートル程のお堀に囲まれた、

屋根付きの塀のある場所へと来た。


塀が高くて中の様子は全く伺い知れないが、

道英たちは上半身を塀の上から出して、

こちらを凝視している赤鬼と青鬼に目が合ってしまった。


 道英達は慌てて視線を前方に移すと、

「鬼たちがこちらを見ていますね」道英は良子の耳元で囁く。

「ええ……私達、監視されていたのでしょうか?」

良子も心配そうに答える。


「そうなのかもしれないですね……。

このような場所で大声を出して笑いながらと言うのは、

不謹慎だったかもしれないので、

暫くは他の人たちの様に無言で、静かにしていた方が良さそうですね」


「ええ、確かにその方が良さそうですね」

良子も道英の意見に賛成して、道英の耳元で囁く。


 そしてお互いに無言のまま少し進むと、

屋根付きの大きな門の前に、

幅4メートル程の橋が架かっている場所が見えて来た。


 橋を渡った先にある黒塗りの観音開きの門には、

大きな鋲が数本打たれていて、

扉は片側1枚の高さが5メートル

幅が2メートルは有ろうかと言う大きさだ。


 道英たち二人が、その威圧感のある門の前に架かっている

橋の近くまで来ると、その黒くて大きい2枚の門が

同時に“ドン”と大きく開かれて、


中から身長が4メートルは有ろうかと言う大きさで、

金棒を持ち恐ろしい顔をした赤鬼が

橋をドスドスと大股で渡って来た。


 その赤鬼を見た他の者たちは皆、

石鹸に油膜が弾かれる様に流れを変え、見て見ぬふりをして歩いている。

勿論、お堀側を歩いていた道英と良子も赤鬼から遠ざかろうとするが、

その前に、


「おい!お前たち!二人共この門の中へ入れ!」

と、赤鬼に睨みつけられ大声で怒鳴られてしまう。


その高圧的で雷の音の様に大きな声と、

直視するのも恐ろしい容姿に良子は怯え、

道英の左腕を強く掴みながら、

道英の後ろに身体を小さくして隠れ震えている。


道英は、やはりこのような場所で、

大声を出し笑っていたのは不謹慎だったのかも……。

と、道英も震えながら鬼に頭を下げると、


「すみません……私たちをおゆるしください……」

恐る恐る小声で懇願するが、

「だめだ!早く中に入れ!早くしないと、この金棒で叩き潰すぞ!」

再び雷の音の様に大きな声と物凄い形相で二人を脅す。


「は、はい。解りました。良子さん鬼さんの言う通りにしましょう」

「はい」良子は道英の左腕に頭を付け、目を閉じて道英の申し出に即答した。


道英は震えながら腰の引けている良子を優しく後ろ手に支え、

赤鬼が行けと指さす門へと恐る恐る橋を渡る。


 そして門の入り口近くまで来たのだが、

門の中は赤く光輝き何かが燃えている様にも感じられる。

(真っ赤な炎に焼かれて死んでしまうのではないのか……)

道英は怖くて門の中へ入る事が出来ない。


道英が何気なく振り返ると、

金棒を肩に担いだ赤鬼が良子の後ろに付いて来ているではないか。

(うわっ!すぐ後ろに赤鬼が居る!)道英は驚くが、

すぐに後ろから物凄い形相をして再び赤鬼が、


「何をしている、早く行かないか!」と、叫び、

金棒を橋に“ドン”と打ち付けて二人を急かす。

橋は揺れ、その恐ろしい声に良子は、

「きゃ~!」と大きな悲鳴を上げてしまう。


「良子さん、仕方が有りませんので門の中へ入りますが、

門の入り口には敷居が有るようです。

敷居を越える時には一度止まりますので、

足元に気を付けられて下さいね」道英は優しく言う。


「はい。解りました」目を閉じたまま良子が返事をすると、

道英は右腕で目を保護する様に額に置き、意を決し赤く輝く光の中に入る。


 しかし何故か熱く無い。(ん?!熱さを感じない?……)

最初は焼かれて死んでしまうのでは?と思われた赤い炎のような光の中は

白く輝き眩しくて何も見えないが、熱くも無い不思議な空間だった。


「良子さん、周りは白く輝いていて何も見えませんが、

敷居を越えましたので二人共、無事門の中に入ったと思います。

でも、此処は熱くも無く不思議な場所の様です」


「えっ!」良子は道英の言葉に驚きながら目を開くと、

道英以外は何も見えない白く輝く光の中に居る事に気が付いた。


「此処は何処なのでしょうね?」

良子が不思議そうに言うと同時に、後ろでバタンと音がした。


その音に驚き二人が後ろを振り向くと、白く輝いていた光は瞬時に消え、

あれほど大きかった赤鬼はあっと言う間に身長が1メートル位の

小さくて可愛い子供の赤鬼になって、


「御免なさい。驚かせてしまって……

他の者が門の中へ付いて来ないようにと怖い顔で

偉そうに怒鳴ってしまいました……」

と、神妙な顔で言うとペコリと頭を下げ笑顔を見せた。


「えっ!あ!ええ…本当に驚きました」二人は安堵すると同時に、

お互いに自分たちの服が生前着ていた服に替わっていることに気付く。

「えっ?なぜ服が?……そして此処は?」二人が同時に驚いていると、


小さくて可愛い赤鬼が、

「どうぞ後ろをご覧ください」その言葉に二人が振り向くと、

直ぐ近くに上半身裸で身長が2メートル程の、

先ほどの赤鬼だろうか、民家のような小屋の入り口の前に笑顔で立っている。


小屋の前には塀の外を見渡せるように足場が組んであり、

足場の上にも同じように身長が2メートル程の青鬼が笑顔でこちらを見ている。

そして小屋の入り口に居た赤鬼が笑顔で二人の傍に来て。


「此処は三途の川への入り口です。

あなた方お二人は仏の教えを守って来られました。

その証拠にあなた達には見えないでしょうが、


私達にはあなた方が仏の教えを守って来たと言う証である、

後光が放たれているのを見る事が出来るのです。


そして今までの白装束は閻魔大王様にお会いするためには

様々な修行を行う必要がありますので、その為の修行着なのです。


しかし仏の教えを守って来たあなた方は、

更なる修行の必要は有りませんから、

あなた方が生前着ていた服に戻ったのです。


あなた方はこの竜の門から入り、

竜の道を通って直接閻魔大王さまの元へ行く資格が有るのです」

笑顔で赤鬼が言い終わると、


「えっ!仏の教え……

私はお坊さんでもありませんでしたので仏の教えなどは……」

「私も同じく普通に過ごして来ました」良子も道英に続く。


「坊主と言う職業に就いて居たとか居なかったとか、

そのような事は全く問題ではないのです。

あなた方は嘘をつかず、人身攻撃をせず、生き物などを大切にされて来た。

つまりそれが仏の教えを守ってきたと言う事なのです」と二人に優しく説く。


「しかし……」(嘘は、ついた事がある……)道英は言葉を濁すが、

良子も言葉にはしないが同じ思いだ。

「貴方の思っていることは解ります。全ては許される範囲内の事なのです。


お二人共に後光を放たれていると言う事は、

間違いなく、お二人は竜の門から入る事が出来る資格があると言う事なのです。


向こうに大きな山が見えますよね」道英たちが鬼の指さす方を見ると、

モノトーンの様に見える程はるか遠くに高い山が見える。


「あの山に

山頂近くまで続く、曲がりくねった道が有りますが、お判りになりますか?」

「はい」

「ええ」

「あの道の終わりに閻魔大王様がいらっしゃいます。

そして此処が三途の川です」


 二人が赤鬼の指さす方を見ると、対岸は何処にあるのか?

と思うほどの大きな川で、深さもかなりありそうなのだが、

川底が見えるほど透明な水が緩やかに流れている、

とても綺麗な川だった。


そして対岸へと続いているであろうと思われる飛び石は、

3人ほどが一度に乗れそうな大きさで、

等間隔に綺麗に一列に並び川の中を延々と続いている。


「えっ!これが三途の川?想像していたのと全く違う?」

二人は同時に驚きの声を上げ、顔を見合わせた。


         続く



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