第19話
「さくら、お母さんから聞いたわよ。
結婚するんだって?」
食卓の椅子を引きながら
笑顔でさくらの横へ座る。
「ええ。来年の予定よ」
さくらも里香の目を見ながら
嬉しそうに笑顔で言う。
「おめでとう。で、どんな人なの?」
「ありがとう。そうね……
嘘はつかずに人身攻撃はしないし、
生き物も大切にして、
相手の気持ちも大切にする
思いやりのある笑顔のとても素敵な人よ」
さくらは鬼さんがそう言ったので。
とは言えないが、
大志と一緒に過ごしてみて、
確かにそうだと自分も思う。
「へぇ~……そんなにいい人なのね」
「最初はいい人の様に見せかけて
豹変する男性は多いわよね。
親を見て子を獲れ。
なんて言うけれど本当だと思うわ。
浅く広く色々な男性を見て行き、
あ!浅く広くよ。それと、まだ異性を
上手く見極める事が出来ない時期は
二人きりで会うと言うのは辞めた方が良いわ。
友達としてではなく、
知人として複数の人と一緒に
お話を進めていくと言うのがいいわね。
学業も大切だけど、
異性の本質を見極める眼を養う事は
生きていくうえでとても大切な事だと思う。
自分の一生の事ですものね。
どんな友達と付き合っているのかも大切よ。
そして、
相手を見下す、思いやりがない、
約束を守らない。
そう言う人は絶対に相手にしない事ね。
そうそう、車を運転している時には
性格が出ると言うから
の~んきに景色なんか
見ている場合ではないわよ。
食事の場面もそうね。
食事を楽しみにするのは良いけれど
相手の人を観察するのに
いいチャンスなのだからよく観察する事ね。
一緒に居て行動や発言に
“ん?”なんてほんの少しでも違和感があれば
その男性に付き合うのは辞めた方がいいわ。
後でその男性と付き合った事に
間違いなく後悔する事になるから」
「でも……
完璧な人なんていないわよねぇ~……」
姉の里香は怪訝そうに言う。
「そうね。完璧な人なんて居ないけど
なるべく完璧な人を見つける努力は必要よ。
相手の嫌な所を我慢できるかどうかだ!
なんて言う人も居るけれど
それは考えが甘いわね……。
それと、
自分も完璧ではないからと
妥協することはないと思う……
結婚してしまったら、もう仕方がないから
忍耐だと思うのだけれどね。
でも、探せば
絶対に素敵な運命の人と出会えるから……」
「おい絵里……これはまるで人生相談だな。
それに、どちらが年上か判らんぞ!
高校生の言葉とは思えん……
あの大志君に、いい意味で
相当感化されてるなぁ~……」
まさか自分の娘が、
80歳の人生経験豊富な女性と
入れ替わっているとは
夢にも思わない努は絵里の耳元で囁く。
「女は男が出来ると変わるものなの……。
でも私たちの若い時には、いえ、
今でもだけど思いもつかない言葉ね。
大志さんってまだ大学生なのに、
とても素敵な方なのね」
絵里も、まさか自分の娘が
人生の大先輩と入れ替わっているとは
夢にも思わず、一晩でさくらが
別人のように大変身したのだと思い
驚きを隠せず努に囁く。
「さくら……大人ねぇ~……」
姉の里香も父親同様に感心している。
「あ!私、
何だか偉そうに言ってしまっているわね……
ごめんなさい」
さくらは今、高校生だと言う事を
完全に忘れていたことに気付く。
「いやいや、
それはとても大切な事だと思う」
大志君のご両親が、本当に
しっかりされていらっしゃるのだろう」
努は驚きながらも感心している。
「ホント!そうでしょうね」
母の絵里も、大志さんの両親の性格が
本当に素晴らしいだろうと思う。
「どちらにせよさくら。おめでとう」
兄の風太も
大きく成長した妹の結婚に大喜びをしている。
「ありがとう」
「お姉ちゃん。おめでとう」
妹の結衣も喜んでいる。
「ありがとう」
さくらは、
皆が自分たちの結婚を喜んでくれている事に
とても嬉しく思い皆に頭を下げた。
そんなある日。
「ねえ大志さん。
奈々子さんが妊娠したかもしれないだって。
だから私、妊娠がハッキリと判ったら
浩さんには、直ぐに言った方が
いいって言っておいたわ。
それと、もしも本当に妊娠していたら
高校へは行けないので
奈々子さんは高校を中退して
浩さんとの結婚を考えているそうよ」
「えっ!
それはさくらさんの言う事が正解ですが、
妊娠していた時には高校は中退ですか……。
でも、そうですよね。
無理をして学校へ行くよりも
さくらさんがおっしゃっていた様に、
お腹の子や奈々子さんの事を考えたら
そちらの方が大切ですから……」
「ええ。私もそう思うわ。
それと浩さんに伝えて欲しい事が有るの。
もしも本当に妊娠をしていて
結婚と言う事になった時には
私の古い考えですが、
女が嫁ぐと言う事は
好きになった男性だけを頼りにして
家を捨て家族と別れて行くということなの。
どんなことが有っても、
奈々子さんを優しく
守り抜いてあげて欲しいって……
あっ!ごめんなさい。
だから私を守ってって
大志さんに偉そうに
言っているみたいに聞こえるわね……」
我に返ったさくらは動揺している。
「いえいえ、さくらさん、
全然偉そうではないです。
それに、男性には嫁ぐ時の女性の心理などは
全くわからないです。
お話を聞いて、そうなのか!と、
今、思いました。
でも、浩君には、
さくらさんから伝えた方が
良いのではないでしょうか?」
大志は自分の言葉より、
さくらさんからの言葉の方が
説得力があると思う。
「いえ……
女性の私が偉そうに言うのも何ですから、
お友達でもある大志さんの方が
いいと思います。お願いいたします」
さくらは懇願する様に言うと
深々と頭を下げた。
「はい。解りました。
私から浩君に責任を持って伝えておきます」
大志は同時にさくらさんを
守り抜こうと心に誓う。
しかし、奈々子の妊娠は確実となり、
奈々子は高校を中退して浩と結婚し、
子供が生まれるまでは奈々子の実家で
のんびりと過ごして、浩が就職をすれば
職場近くに家を借りて引っ越す事となる。
そして夏休み、
父から借りた軽四の1BOXに
寝具を積み込み出発の日
「大志、少ないが旅費としてくれ」
父は20万円ほどのお金を大志に渡す。
「あ!ありがとうございます。
私の貯金が有りますし
さくらさんのお父様からも
お金も頂いていますが、
本当に助かります。ありがとうございます」
「お父様お母様。
本当にありがとうございます」
さくらも横で頭を下げている。
そして大志とさくらは
大志の家族に見送られ、
さくらの夢を叶えるため出発する。
「さてさくらさん、
どちらへ行きましょうか?」
「ねえ大志さん……さん。付けよりも
近親感のある、
さくら。の方が私、嬉しい……」
恥ずかしそうに言うさくらに
「は、はい……それではこれからはさくら。
と呼ばせていただきますね」
大志もさくらを呼び捨てにすると言う事は
中々出来ずにいたのでさくらの提案は嬉しい。
「では、さくらは何処へ行きたい?」
「涼しい北の方へ行ってみたいです」
さくらは大志が呼び捨てにしてくれたことに
親近感を感じて嬉しい。
「ではとりあえず高速道路は使わず
250号線で、ゆっくりと
海や景色を楽しみながら北の方へ行きますね」
大志も旅は大好きなので嬉しそうだ。
しかし、
途中で道の駅に寄りながら進むが
大渋滞に巻き込まれてしまった。
「大志さん、
全く動かなくなってしまいましたね……」
さくらは
渋滞をそれほど気にはしていなくて明るい。
「そうですね……ま、急ぎの旅ではないので
休憩のつもりで動かない事を
楽しみましょうか」
大志も渋滞にもめげずに楽天的だ。
「あ!そうだ!さくら……
お昼には少し早いですが、
あの先にあるデパートには
多分レストランがあると思いますので
レストランが混まない内に
早めにお昼にしましょうか」
「それはいい考えだわ」
さくらも大志の考えに賛成をしたその時、
「すみません」
と、女性が運転席の窓ガラスを
コンコンとノックをした。
大志が見ると
パンフレットを持った女性が立っている。
「はい?何でしょうか?」
大志が窓ガラスを下げると、
「今、その先のヨットハーバーで
ボートショーをやっています。
アンケートに答えて頂くと
素敵な商品が当たる抽選券と、
無料のお食事券を差し上げる事が出来ますが、
いかがでしょうか」
「えっ!お食事券を頂けるのですか?」
「はい。コックさんが作ってくれる
本格的な料理が食べ放題ですよ」
女性は素敵な笑顔で言う。
「それは私達二人分頂けるのでしょうか?」
「はい。
受付でアンケートに記入いただけると、
お二人分差し上げる事ができます」
「さくら!
ただで食事をさせて頂けるようです。
行ってみましょうか!」
大志はタイムリーな申し出に嬉しそうだ。
「丁度、お昼ご飯にしようと
思っていた所なので、嬉しいですね」
さくらもうれしそうに笑顔を見せる。
「はい。
それではそのボートショーに行ってみます」
「ありがとうございます。では、
これを持って受け付けへ行かれてください。
会場は二つ目の信号を右折れしたところです。
係りの者が居て駐車場へ案内いたしますので
指示に従って頂けますか?」
笑顔に素敵な女性にチラシを貰い
会場近くへ行くと、係りの人に誘導され
無料の駐車場へと案内された。
「いらっしゃいませ。
受付はあちらでございます。
宜しければアンケートに
ご記入いただければ嬉しく思います」
此処でも笑顔の女性に声を掛けられ
二人は釣られて笑顔になっている。
「はい。ありがとうございます。
受付でアンケートに
記入させていただきますね」
二人は受付でアンケートに記入すると、
4時から抽選だと言う抽選券と
無料の食べ放題の食事券と、
パンフレットを二人分
手に入れることが出来た。
受付の女性にお礼を言って
その場を離れた大志は、
「本当にお食事券が貰えましたね」
「ほんと!
渋滞で止まっていてよかったですね」
嬉しそうに言う大志に、さくらも嬉しそうだ。
食堂が混まない内に食事を済ませ、
「抽選が4時からですので
少し船でも見ましょうか」
大志は暇つぶしにさくらを誘う。
「ええ。私、船にも興味があります」
さくらは興味津々で瞳を輝かせている。
海に浮かべられた色々なボートは
綺麗に飾られていて、
興味のない者でもワクワクさせられるが、
さくらはこの綺麗な船たちに心躍らせている。
「うわぁ~車も良いけれど船も素敵ね!」
「それに海の上は渋滞も無いですしね」
大志が悪戯っぽく言うと、
「ホント!
海の上で渋滞は無いでしょうね~」
さくらも悪戯っぽく答える。
「え~……
さくら!この船35億円だって!」
「えっ!そんなにするの!」
さくらは驚きつつも楽しそうだ。
大志もさくらが楽しそうにしているのを見て
心和む。
だが、大志は周りの人たちは皆、
沢山の美しい船を見て笑顔なのに、
その35億円の船が浮かんでいる桟橋で、
二人の若い女性を連れた
無表情な年配の男性がなぜか気になる。
続く
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