第18話
考え込んだまま
物思いにふけている大志を心配したさくらは
大志の耳元で囁く。
「大志さん、大丈夫ですか?」
「えっ!ええ……
大志君のご両親に結婚や旅の話を、
どう進めるのが1番いいのだろうか?
と、思案しています」
大志は少し困った顔をして
さくらの耳元で囁く。
「そうね……
それでは大志さんのお家に
これから私も一緒に行きましょうか!」
「えっ!これから一緒にですか!」
「ええ。
知らない若い女性が一緒について行けば
話をする前に、親は気付くと思いますので
話は早いと思います……」
「そ、そうですよね……では、
昨日行動を共にして一緒にいた女性は
さくらさんで、お互いに結婚を前提として
付き合っています。
今年の夏休みに車中泊をしながら
旅をしたいのですが。
みたいなことを言えばいいですかね……」
「はい。それでいいと思います。
後は私がお話します」
さくらは自信たっぷりだ。
「さくらさんは簡単そうに言われますが
大丈夫でしょうか?」
「はい。
私の経験からすると大丈夫だと思います。
大志さんのご両親とは
お会いしたことが有りませんので
そこが少し不安要素なのですけれどね……
でも、
ちゃんとお互いの日常の会話が出来ていて、
子離れも出来ている親であれば
大丈夫なはずです。
話を聞かずに激怒し
話も聞かないような親であれば、
親、いえ、人として失格だと思います。
我が子の事を思えば
まず話を聞くはずですから。
私たちは途中で人格が
入れ替わっていますので、
大志さんを見て大志さんの
ご両親を想像できませんが
おそらく大丈夫だと思います
さくらは
周りに聞こえない様に大志の耳元で囁く。
「そう言われると私も安心しました」
そしてお昼の弁当を食べ岡山に着くと、
さくらは大志のご両親へのお土産だと言って
松山のお土産を買い、大志の家に向かう。
そしてお互いの計画通りの話をすると、
二人の話に大志の両親は大喜びで
二人に要求は簡単に受け入れられ、
旅の為の軽四も借りる事に成功する。
「大志さん、このまま一緒に
さくらさんの家に行きませんか?」
「えっ!それは構いませんが、
何をどう言えばいいのか
まだ何も決めていませんけれど……」
「それは私にお任せください。
挨拶だけをして頂ければ
後は私が何とかいたします」
さくらは自信たっぷりだ。
さくらの言葉を聞き
物事は早い方が良いと決断した大志は、
父に車を借り、
二人でさくらの家に行く事にする。
「しかし、
さくらさんのお話には感心しました。
生まれも育ちも違うのですから
性格や考え方が違うのは当然で、
結婚は、そんな二人の歩み寄りによる
忍耐を必要とする共同作業かぁ~……
大志君のお父様もお母様も
さくらさんの言葉に感動されていました」
「いえいえ。あまり持ち上げないでください。
今まで結婚生活をしてみて、
そう思っただけですから」
さくらは謙遜しながらも
自分は大学へは行かない事を
さくらさんのご両親へ
説明しなければいけないのだが
当然大学へ行かない理由は
結婚するからだと言わなければならない。
(子供には
いつも驚かせられるのだけれど、
まさか逆の立場になるとは
思わなかったわねぇ~……)
そしてさくらは、
「さくらさんはまだ高校生なので、
ご両親は少し驚かれると思います……
でもいつかは伝えなくてはいけませんので
今日、お話をしようと思います」
と、きっぱりと言い切る。
「そ、そうですよね……。
いつまでも話を引き延ばす訳には
いかないですよね……」
そしてさくらの家に着くと、
さくらは大志を連れて玄関に入り、
「ただいまあ~」
と、大きくて元気な声で言う。
「おかえり」出迎えてくれたのは母の絵里だ。
「帰りが遅くなってごめんなさい。
今日は私のとても大切な人に来て頂きました。
城中大志さん」
「初めまして。城中大志と申します。
よろしくお願いいたします」
大志はさくらの横で深々と頭を下げた。
「あ!ああ!はい。
こちらこそよろしくお願い致します」
挨拶をされた絵里は驚きながらも
ピンと来ている。
「どうぞおあがりください」
絵里は大志たちを応接室へ招き入れ
大急ぎで父を呼びに行くと、
父は直ぐに応接室に現れ
続いて母もすぐにお茶を持ち現れた。
「お父さん、帰りが遅くなりごめんなさい。
私がどうしても見ておきたいものがあって、
帰りの電車に乗れませんでした。
一泊することになってしまいましたので
大志さんにお願いをして
一緒に泊まって頂きました」
さくらが頭を下げると、
「初めまして。城中大志と申します。
さくらさんの帰りが遅くなり、
誠に申し訳ありません。
お詫びと言う訳ではないのですが、
土産を持参いたしました。
お納めください」
大志は、さくらさんのお宅へ行くのなら。
と、父から渡されたお土産を差し出す。
「いえいえ、こちらこそ娘が
お世話になりありがとうございました」
父がそう言うと、すかさずさくらが、
「今まで大志さんと一緒に行動してみて、
大志さんは嘘をつかず人身攻撃もしない
素敵で立派な方だと確信しましたので
大志さんが来年大学を出て就職をすれば
私は大学へは行かず大志さんと
結婚しようと考えています。
よろしくお願いいたします」
さくらが一気に述べ、深く頭をさげると
「今、大学四年生で来年卒業致します。
就職の内定を2社から頂いていますので、
そのどちらかへ就職して
さくらさんと結婚をしようと思っています。
私たちは、
結婚は生まれも育ちも違う者同士が
理解し合い譲り合いお互いの忍耐で
築き上げるものだと思っています。
そして、私たちには
それが出来ると思っていますので
よろしくお願いいたします」
大志は、さくらの言葉を一部引用する。
「あ、はい……」
父と母は二人の機関銃のような連射に驚き
思考回路は停止して言葉も出ない。
「それでは大志さん、
色々と私の為に
本当にありがとうございました。
お疲れだと思いますので、
お家へ帰られてゆっくりと
休まれてくださいね」
さくらは、
これから大志さんへの
色々な質問が始まるだろうと予測している。
記憶が曖昧な大志さんを
困らせる訳には行かないと思うさくらは、
大志に挨拶だけ終わらせると
急いで大志を連れ玄関へ向かおうとしている。
「本日は、
突然お邪魔致しまして申し訳ありません。
それではこれで失礼いたします」
大志は両親に深々と頭を下げ腰を上げる。
「いえいえ、何もお構いできませんで……」
「それでは、
チョット大志さんを見送ってきますね」
さくらは早く引き揚げろ。
と言わんばかりに大志を連れ玄関へ向かう。
「後は私にお任せください」
さくらは玄関先で
大志の耳元で優しく小声で言う。
「はい。
それでは私は此処で失礼いたします」
大志はあまりにも短い滞在に
これで良かったのかと思うが、
さくらさんの思うようにするのが
1番良いと思う。
そして応接室では
「おい絵里……さくらはあんなに能弁だったか?」
「ええ……私も驚きました……」
「あれじゃ~大志君は
完全にさくらの尻に敷かれるなぁ~……」
「でも、大志さんは大学生だと言うのに
貴方よりも
しっかりした考えをお持ちのようですわね」
絵里はいたずらっぽく言う。
そしてさくらが応接室へ戻ると、
さくらの予想通り父からの質問が始まる。
「さくら。結婚すると言っても
大志君のご両親はご存じなのかな?」
「ええ。今日の帰りに大志さんの家に寄り
結婚の了解を得てきました」
さくらは自分が経験してきた事なので、
親がどのような質問をしてくるのか
手に取る様に解かる。
「あ!ああ……そうなのか……
で、ご両親は何をされているのかな?」
「大志さんのお父様は
従業員が3人いる鉄工所の社長さんで、
お母様はお父様と一緒に
事務をされていらっしゃるわ。
家族は兄の健太さん大志さん
妹さんの美咲さんの5人家族ね。
あ!そうそう。私、目的を決めずに
の~んびりと旅をするのが夢だったの。
来年大志さんが就職をすると
まとまった休みを取る事は
難しくなりますから、
今年の夏休みに大志さんと一緒に
車中泊をしながら
旅をすることにしましたので
よろしくお願いいたします」
さくらはそう言って父と母に深々と頭を下げる。
「えっ!」(もうそんな事まで……)
父も母も共に開いた口が塞がらなくて
お互いを見つめている。
「ま、それはいいとして……
さくら、大学へは行かないとの事だが……」
「ええ。結婚を決めているのに
大学へ学歴を取りに行くなんて
お金と時間の無駄だと思うの」
「あ!それもそうだねぇ~……」
努はさくらの淡々としかも
力強く迷いのない言葉に納得するしかない。
そして一家だんらんの夕食が始まると
最初に口を開いたのは社会人だが、
まだ結婚はしていない姉の里香だった。
続く
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