第17話

「お風呂お先に失礼しました。

此処は温泉だったようで、

いいお湯でした」


「ええ。ここは道後の源泉から

温泉を引いていますので良いですよね。

それでは私も頂きますね」


 そして、お風呂を済ませた二人は

それぞれのベッドに入るとさくらが、


「松山駅と松山市駅を間違えたのですが、

そのおかげで色々なことが判って

良かったですね」

と、大志の目を見ながら笑顔で言う。


「ええ。

そのおかげで結果的には色々なことが判って

本当に良かったですね」

大志も同感だとさくらを見ている。


「そうそう。大志さんは大学を卒業されたら

就職されるのですよね?」


「はい。大志さんは2か所から

内定を貰っていらっしゃいますね。

なので私は、

そのどちらかに就職しようと思っています」


「私ね……大学へは行かず

大志さんが就職されたら

大志さんと結婚しようと思います」


「えっ!さくらさん

大学へ行かなくても良いのですか!……」

大志は驚きのあまり

ベッドから身体を起こした。


「はい。もう結婚すると決めているのに、

学歴を取りに大学へ行くと言うのは、

時間とお金の無駄だと思います。


まださくらさんのご両親には

何も言ってはいませんけれど説得します。

それと私、

結婚する前にやりたいことがあるの」


「えっ!やりたいこと?それは何でしょう?

お伺いしても良いでしょうか?」


「はい。それはね……

私、結婚する前に何処かへ旅をしたかったの。


あ!良子の時によ。

だから今度はその時の夢を

実現させようかなぁ~なんて……」

小声で言うさくらに大志は


「それはいいじゃ~ないですか!で、

さくらさん、旅は何処へ行かれたいのですか?」


「何処でもいいのですけれど……

時間を決めずに、の~んびりと

旅をしてみたいなぁ~なんて……」


「ああ~目的を決めずに、

の~んびりとですか……いいですよねぇ~。

私もいつか、の~んびりと日本1周したいと」


(ん?!そんな事思っていたっけ?)

大志は自分の言った言葉に驚いている。


「えっ!日本1周ですか!」

さくらは頭を持ち上げて驚きの顔で大志を見るが


「いえいえ。何故今そう思ったのだろう?」


「大志さん、もしかして昔のことを

少し思い出されたのかもしれないですね」


「う~ん……思い出したのは

三途の川手前で良子さんとお逢いしてから

すみれさんに人間界へ連れて行ってもらって

大志さんとして生き返った所までです。


以前の名前や、どこで何をしていたのか、

全く思い出せないままですが、何か記憶が

戻り始めているのでしょうかね……」


「私も、お名前を聞いたと思うのですけれど

思い出せないで居ます……

でも私の様に、ある日突然思い出す

と、言う事も有るでしょうから……」


「そうですよね……あ!そうだ!

さくらさん、

それなら、来年私はもう就職していて

旅の為の長い時間が取れないと思います。


今年の夏休みに

私と一緒に何処かへ旅に出かけませんか?」


「えっ!一緒に行って頂けるのですか?

嬉しいわ!」

さくらはベッドから上半身を起こし、

瞳を輝かせ両手を胸に嬉しそうだ。


「大志君のお父様が

軽自動車を貸して頂けたらなのですが、


高速道路のSAや道の駅などで

車中泊をしながら、時間を気にせず、

あてもなく旅をする。

と、言うのはどうでしょうか」


「うわぁ~それはお金も掛からず、

とても楽しそうだわ!」


「あ!さくらさん……

その前に二人で旅をすると言う事を、

大志君の両親とさくらさんのご両親に

了解をして頂かなくては

いけないのですが……」


大志はこれが1番の難関だと思っている。


「そうですよね……

特に若い娘さんを持たれていらっしゃる

ご両親は、


娘が自分たちの知らない男性と二人で

旅に行くなんて急に聞くと

驚かれるでしょうから、


話の切り出し方を

考えないといけないですよね……」

さくらも娘がいたので親の気持ちはよく解る。


「大志さん。

さくらさんのご両親には私が説得します」

さくらは娘や息子達の結婚を

経験しているので話の持って行き方は解る。


「えっ!私が、お話に行かなくても

大丈夫でしょうか?」

大志は男が顔を出さないと、

さくらさんのご両親が


相手の男性はどのような人なのだろうか?

と心配するのではと思う。


「はい。それは大丈夫だと思います。

でも大志さん、どこかの時点で

さくらさんのご両親と会って頂けますか?」


「はい。いつでも時間は合わせますので

お願い致します。


私と全く顔を会わせないままでは、

さくらさんのご両親も

どのような男性なのかと、

ご心配されるでしょうから」


「はい。また連絡を差し上げますので、

その時にはよろしくお願いいたしますね」

さくらは笑顔で頭を下げる。


「あ!さくらさん、お互いの連絡先を

交換しておきましょうか……


これを忘れると

お互いに連絡をする事が出来ないし、

浩君に又叱られます」

大志は苦笑いしながら携帯を取り出す。


「ほんと!

私も連絡先を聞くのを忘れていました。

私も奈々子さんに叱られちゃうわ」

さくらは肩をすくめる。


「さくらさん、ではもう今日は遅いですので

お話はこの辺にしましょうか」


「そうですね。

今日は本当にありがとうございました。

それではおやすみなさい」

さくらは笑顔で言う。


「はい。

こちらこそありがとうございました。

おやすみなさい」


そして二人は目を閉じ、寝ようとするも

色々な事が脳裏を巡り

中々寝付けずにいたのだが、

いつの間にか深い眠りに落ちていた。


 そして朝、

さくらはすでに起きていて、

洗面台に居るようだ。


「さくらさん、おはようございます。

今日は、どうされますか?」

大志はベッドの上から声を掛ける。


「あ!おはようございます。

すみません。起こしてしまいましたか?」

さくらは洗面台から顔を出し心配そうに言う。


「いえ、さくらさんが起きていたのは

全く気が付かなかったです……」


「ああ、良かった。

私は、もう岡山へ帰ろうかと思うのですが、

大志さんはどうされます?」


「私も岡山へ帰ろうと思いますので

朝食を済ませたら

直ぐに電車に乗りましょうか」


「はい」


 そして二人は朝食を済ませ、

今度は間違いなく松山駅に着いた。


「今からですと岡山へ着くのは

お昼過ぎになるそうですので

お弁当を買ってきますね。

さくらさん、お弁当は何が良いですか?」


「あ!ありがとうございます。

好き嫌いは有りませんのでお任せします」

さくらは恐縮しながら言う。


 車内は指定席で

二人の周りに人は居なくて静かだ。


大志は、さくらさんと結婚する事や

二人で旅に行く事は決めたが、

大志君のお父様やお母様に

どう話をして了解を貰うのか、


そしていつかはさくらさんのご両親への

挨拶もしなければいけないだろう……

と、思案している。


(う~ん……この話、

どう進めて行くのが1番いいのだろう?……)

 

   

          続く

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