第16話

「最初さくらさんの一度死んだけれど、

生き返ったと言うお話を疑っていました」

と、大志は深々と頭を下げる。


「いえ。信じてくださいと言う方が無理な話ですから」

さくらは他人として生き返ったと言う話など

信じてもらえないのは解っているので笑顔でいる。


「実は先ほど良子さんと言われる方の遺影を見て、

写真の女性は毎晩私の夢の中に出て来る女性だと気付きました。

私も、さくらさんと同様に一度死んでしまったのですが、

若い大志さんとして生き返ったのだと思います」

「えっ!?」


「さくらさん、私が初めてさくらさん、

いえ、良子さんの時にお会いしたのは、

三途の川へ向かう途中で良子さんが転びそうになったので

手を差し出した時です。

覚えていらっしゃいますか?」


「えっ!ええ。覚えていますとも。

では、あの時の男性が大志さんとして生まれ変わったと言う事なの?」

「はい。途中で良子さんが三途の川を渡る時の渡し舟に乗る為の

お金を取り出そうとして落とされましたよね。

私はそれを拾おうとしたのですが、草むらの中へ蹴ってしまいました」


「そうそう!いくら探しても見つからないので、

貴方が自分のお金を私に渡そうとしたのよね」

「はい」


「でも私が受け取らないので、貴方が受け取ってもらえないと

もう死んじゃっているのに、死んでも死に切れませんって言って

大笑いしたのよね」

「はい」


その時のことを思い出し、お互いに大笑いをしながらも、

(間違いない……さくらさんはあの時の良子さんだ!……。

そして、おかしな夢だと思っていたあの夢は

本当に有ったことで私の記憶だったのか!……)


(間違いないわ……あの時の男性が大志さんとして生まれ変わったのね!)

と、お互いに確信する。


「さくらさん、あの大きな門が開いて物凄い形相をした

赤鬼が出て来た時には本当に驚きましたよね」


「はい。私もあの大きな赤鬼には驚きました。

でも本当はあんなに小さくて可愛い子供の赤鬼さんだったなんて……

そちらの方が驚きました」

さくらは子犬のように可愛い瞳をクリクリとさせている。


「私もあれには驚きました……さくらさん。話は飛びますが

閻魔大王が私たちは夫婦と成る筈だった。

もう一度人間界へ帰って夫婦となり閻魔大王の為に

子供を産むように言われた事を覚えていらっしゃいますか?」

「はい。覚えています」


「私はあのお話は少し変だと思うのですが……」

「変って?」

「私たちが

お互いに若返って結婚して子供をと言うのであれば解るのですが、

私たちが全くの他人となってしまっては話が違うのではないでしょうか?」


「ああ~……そう言われればそのような気もしますけれど、

多分若い時の私では駄目で、子育てを体験している私の記憶を持った

さくらさんでないと事が成り行かなかったのではないのでしょうか……」


「えっ!?それは、どう言う事でしようか?……」

大志はさくらの話の内容が理解できず混乱して居る。


「私ね。子供を4人産んで判ったことがあるの。

最初の子の時は、つわりっていつ終わるのかしら?

なんて思っての~んきに、つわりが終わるのを待ってたわ。


2人目3人目の時にもつわりは酷くて苦労したのだけれど、

それ以上に辛かったのは姑さんが同居し始めたので身体が辛くても横にもなれず、

お腹が空いて何か食べたいと思っても、つまみ食いも出来ず気苦労が多かったわ。


でも4人目の子の時には姑さんが居なくなり、

つわりが酷くて辛い時には横になる事も出来たし、

お腹が空いたときには何か食べる事も出来たの。


そうやって生まれてきた子供たちの事を思い起こしてみると、

長女はおっとりしているし、長男と次男は少し気難しいわね。

最後に生まれた末っ子は大人しくて性格もよくて優しいわ。

ほんと!4人それぞれの性格は子供たちが

私のお腹の中に居た時の私の気持ちそのものだって気付いたの。


あ!お姑さんが悪いと言っているのではないのよ。

私の知識不足と忍耐力不足なのですけれどね……


勿論生まれてからの育て方や環境もある程度はあるかもしれないけれど、

基本的には生まれてきた時にはもう既には子供の性格は決まっている。

そんな気がするの、だから若い時の良子の私ではなく、

それを理解した今の私の記憶を持ったさくらさんなのかもしれない……」


「う~ん……実際に体験された方の話は説得力があります」

「いえいえ。これは私が勝手にそう思っているだけですけどね」

さくらは謙遜している。


「いえいえ。お腹の中で子供を育てている訳ですから

当然と言えば当然のことだと思います……」

大志はさくらの話の内容を理解する。


「それに閻魔大王様が私の為にって言われたのも私たちの子供って、

総理大臣にでもなって日本を明るく平和にしてくれるのかも。

その結果、争いごとも無くなって地獄へ落とす人が減り

閻魔大王様を喜ばせるのかもしれないですよね」さくらは嬉しそうに言う。


「私たちの子供が総理大臣かぁ~……

いやいや!ひょっとしたら機能していない国連を正常化して、

争いの無い素晴らしい世界を作ってくれて地獄へ落とす人も減り

閻魔大王も大喜びなんてことになるのかもですよね……

あ!閻魔大王は日本担当でしたね!これは少し飛躍し過ぎですね、

やはり総理大臣でしょうか……」


「ウフフ。どちらにしても日本だけではなくて、

世界から争いごとがなくなる様な働きをしてくれる子だといいですね」

大志とさくらは

自分たちの子供が人々が平和で幸せになる為に働いてくれるかもしれないと思うと、お互いに嬉しさを隠せないでいる。


「あ!もうこんな時間だわ。大志さんもうお風呂にしましょうか?」

「あ!そうですね。では、湯船にお湯を入れて来ます」

大志は立ち上がろうとするが、


「いえ。これは女性の仕事なので私が」

さくらは、いたずらっぽく笑顔で言う。

「あ!すみません……それではお願いします」

大志は、さくらに頭を下げると再びソファーに座り

これからの事を考える。


(う~ん……さくらさんと結婚するとして

さくらさんは今、高校3年生……

大学へは行くだろうから結婚は早くても3年か4年後か……

私は大学を卒業して既に仕事をしているだろうから丁度いいか……)

大志が色々な今後の事を考え思案していると、


「大志さん、お風呂お先にどうぞ」

さくらは手を拭きながら笑顔でやって来た。

「はい。それではお先に失礼いたします」

大志は先に風呂へ入るが、


(あ!ここのお湯は温泉だ!

そうか!道後温泉の近くなので道後温泉のお湯を引いているのかも……

それなら私が先に入らなくても、

さくらさんに先に入ってもらってもよかったなぁ~……)


大志は、新湯は身体に良くないと聞いていたので先に入ったが、

温泉なのではその必要も無かったかと思う。


 一方さくらも、大志がお風呂に入っている間に今後の事を考えている。


(大志さんと結婚ねぇ~……

今まで若い男性に対して可愛いと思ってしまい何故か恋愛対象として

踏み切れなかったのは自分では気付かなかったけど

孫たちと接している様な気がしていたからなのかも……)

そして孫のように若い大志との結婚に戸惑いを感じながらも、


(何か就きたい職業が有って、

その為に大学へ行くのであればそれは必要なのだけど、

大志さんとの結婚を決めた今、学歴を取りに大学へ行くと言うのは

時間と、お金の無駄のような気がする……

それに私、結婚するまでにやっておきたいことがあるし……)


       続く

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