第15話
「どうされました?さくらさん……」
大志は心配そうに声を掛ける。
「ええ。
この場所、何故か見覚えが?……
以前、一度此処へ来たことが
ある様な気がします……」
「えっ!でも道後温泉など
初めてだと言われていましたよね?」
「ええ。道後温泉や松山城などは
テレビで見ていたので
それほどでもなかったのですが、
何故か此処はとても懐かしい気がします……
少しこの近辺を
歩いてみてもいいでしょうか?」
「勿論ですとも」大志は即答する。
そしてさくらは駅構内から出て暫く歩く。
(あの角を曲がると
大きな家が有る様な気がする……)
暫く歩き角を曲がると大きな家が本当に在る。
(あ!本当に在った!
この家、見覚えがあるわ!……)
さくらは更に足を進め、
路地を進み角を曲がりと、
さくらは何かに憑りつかれた様に進む。
大志は無言でさくらの後に続いて行くが
さくらが急に立ち止まる。
「どうされました?さくらさん……」
「あの家……私の家のような気がするの……」
「えっ!さくらさんは
愛媛の出身の方なのですか?!」
「それは判らないです……
何故私の家だと思うのかしら?……」
と、そこへ車が来て、
さくらが自分の家のようだと言った
家の横にある駐車場に入り
二人の女性が降りるが
二人の女性は大志たちに気付き
軽く会釈をするので
大志もさくらも、軽く会釈をすると
二人は家の中へと入って行った。
そしてさくらが家に近づき表札を見ると
その表札には樋口彰博、
そしてその横に良子と書かれている。
(樋口彰博…………樋口彰博…………)
さくらの脳裏に男性の姿がかすめるのだが
顔が良く判らない。
(この男の人、どこかで見たような
気がするのだけど…………)
そして段々と
その男性の顔が判るようになると
(あっ!……この男性は私の夫で、
私の名前は樋口良子…………)
「樋口良子!そう、これが私の名前なの……」
「えっ!」
その言葉に大志は
何がどうなっているのか解らない。
「今の女性たちは私の娘と孫だわ!」
「えっ!?さくらさん!
さくらさんの娘さんと
お孫さんだと言われましても
あのお二人は
さくらさんより年齢が上ですし
そもそも……」
「ええ。
信じては頂けないとは思いますけど
私、一度死んでしまったのですが、
さくらさんとして生まれ変わったの。
そしてあの二人は私の娘と孫なの」
さくらは家の方を見たまま呆然としている。
(えっ!
さくらさんは妄想癖があるのか!?……)
大志は妄想癖を治す
本当のやり方は知らないが現実を見せる事が
1番良いと思う。
「では、娘さんとお孫さんに会いに行きましょうよ」
「えっ!」さくらは大きく目を見開き大志を見る。
「折角お会いできたのに、このまま
別れてしまうのは寂しくはないですか?
逢って、お話をしてみてはどうでしょう……」
「駄目よ!私はあなたの母ですなんて
信じてくれないと思う」
「はい。ですから
お母様の知り合いだと名乗れば
大丈夫なのではないでしょうか」
「そ、そうね……」さくらは娘や孫に
逢いたい半面、逢うのが怖い気もする。
「では私が、お母様が
お亡くなりになられたと聞きました。
私の友人が、お母様と
知り合いだと申しますので、
私もお線香をと思い一緒に来ました。
と、言おうと思います。これで良いですか?」
「はい」
さくらはドキドキしながら返事をする。
そして大志が、樋口家の
インターホンを押すと、さくらの心臓は
更に大きくドキドキと、今にも胸から
飛び出しそうに激しく波打っている。
インターホンからの女性に
打ち合わせ通り大志が告げると
「まあ!それはありがとうございます。
母も喜ぶと思います。
どうぞ中へお入りください」
女性は大喜びで二人を出迎え
仏壇へと案内をする。
しかし、
さくらに続き大志は仏壇の遺影を見て
一瞬声を上げそうになる。
(あっ!!!こ、この女性は!………)
写真の女性は毎晩夢の中に出て来る
あの女性だと解り絶句する。
(あの女性が、さくらさんの
生まれ変わる前の姿だと言うのか!?…………
偶然にしては話が出来過ぎている……。
と言う事は……
あの夢は夢ではなくて、
今まで有った本当の事で
夢ではなく私の記憶だと
言う事なのだろうか?……
だとすれば、
さくらさんの話は妄想ではなく
全て本当に有った事なのか?……)
そして二人は娘の真理に勧められ
一緒に食事をすることになるが、
さくらは娘や孫との会話に
良子さんからそう聞きましたと、
楽しく食事をしながら会話をしている。
(良子さんから聞いたこと
として話をしているが、
本人でなければ出来ない話ばかりだ!……)
大志はさくらさんが、
さくらさんとして生まれ変わったと言う話を
信じない訳には行かなくなっている。
「お二人共、もう夜も遅いので
泊って行かれてはいかがですか?」
食事を終えた後、娘の申し出に
さくらは、あまり長居をすると
もうこの家から
離れられなくなるような気がする。
「いえ。
ホテルを予約していますので大丈夫です。
突然押し掛けまして
ご迷惑をおかけいたしました。
今日は美味しいお食事と、
楽しいお話をありがとうございます。
また失礼させていただきますね」
と、そう言うのが精いっぱいだ。
「お忙しい中
突然押しかけてきて申し訳ありません。
本当に美味しい
お食事などありがとうございました」
大志はさくらさんが泊まる。
と、言えば泊ってもいいと考えていたのだが、
ホテルを予約していると言ってまで
帰ろうとしているのだから、
この家に泊る気はないと悟る。
「いえいえ。こちらこそ
何のおもてなしも出来ず申し訳の無い事です。
本日は母の為に
遠路はるばる本当にありがとうございました。
又
いつでもお好きな時に来られてくださいね」
娘の真理は生前の母の話を聞けて嬉しく思い
本当に嬉しそうに言う。
「はい。またいつの日か、
お逢いしましょうね……」
さくらは頑張って笑顔で言うと、
二人は娘の真理と孫の志保に見送られ
樋口家を後にした。
「さくらさん、
娘さんはとても素敵な方ですし、
孫さんもとても可愛い方でしたね」
「それは、
素敵な言葉をありがとうございます。
娘や孫達には、
もう会えないと思っていたので
とても嬉しかったです。
大志さんのおかげです。
本当にありがとうございました」
「いえいえ、
娘さんたちにお会いできて良かったです」
そして、
歩きながら自分の思っている事を
全て話そうと思った大志は、
「さくらさん。今日はもう夜遅いので
帰りの電車も無いと思います。
何処か近くのホテルに泊まって
お話をしたいのですが、
よろしいでしょうか……」
「ええ。私もその方が良いかと……」
さくらは大志が変な目的で
言っているのではないと理解しているし、
さくらも話をしておきたい事も有り
大志の申し出に即答する。
「さくらさん……話すのが目的なのですから、
部屋は一部屋でシングルツインにしようと
思いますが、
シングルツインが空いていなければ、
ダブルベッドになってしまうかもしれませんが
宜しいでしょうか?」
「はい。二部屋も取るのは
もったいないと思いますので、
それで大丈夫です」
そして近くでシングルツインの
ホテルを見つけ部屋に入りソファーに座ると、
「家に連絡を入れなくてはですね」
二人同時に笑顔で言うと
携帯を取り出しそれぞれの家に連絡を終えた。
「さくらさん。どうでしたか?
ご家族の方は心配されていなかったでしょうか?」
「ええ。母に連絡を入れたのですが、
明日帰ると言う事で了解して頂きました。
大志さんはどうでしたか?」
「はい。了解を頂きました」
「そう。それは良かったです」
「それとさくらさんごめんなさい」
「えっ?……」
続く
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