第14話

すみれが振り向くと弥勒菩薩が後ろに居る。

「あ!弥勒菩薩様!」

すみれとつぼみは慌てて立ち上がり涙を拭う。


「私、総長様のお命を……」

「ええ。後ろで全て見ていました。

貴女にとってとても大変な決断だったと思います。

よく決断しましたね」


(……)すみれは、どう返事をすればいいのか判らない。


「さて……今回の事は、

私が貴女に詳しくお話していなかったのがそもそもの始まり。

なので話を元の元へ戻しましょう」

「えっ!?話を元の元へ???」

すみれは弥勒菩薩の言う意味がよく解らない。


 そして総長は目を覚まし、

「あ!弥勒菩薩様!」

総長は弥勒菩薩が目の前に居ることにかなり驚いている。


「今回はすみれが、つぼみさんに本当に申し訳ない事を致しました」

「いえいえ。事の始まりはつぼみに何故

そちらの世界へ入ってはいけないのかを詳しく

説明をしていなかった事に始まります。こちらこそ申し訳の無い事です」


「それはこちらとて同じ事。

それと、総長様にはもう少し総長の座を務めて頂かなくてはいけません。

早く引退をして楽をしようなどと考えてはいけませんよ」


「あ!弥勒菩薩様は何もかもお見通しなのですね……」

そう言って総長と弥勒菩薩は、お互いに笑顔をみせるが、


「あ!総長様。私に、もうそろそろ後を継がせるとおっしゃっていましたよね」

元気になったつぼみは、いたずらっぽく言う。

「ん?多分、それはつぼみの聞き間違いであろう」

「あ~~ずるい」そう言ってつぼみが残念がると他の3人は大笑いをするが、


「すみれ様。遠泉の点検清掃は今日中に終わると思いますので、

これからもつぼみと仲良く遊んでやってください」

「総長様。ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします」


すみれは総長に頭を下げると、

「弥勒菩薩様。お話しておかなければいけない事が有ります」

すみれは神妙な顔で言う。


「なんでしょう?すみれさん」

「実は閻魔大王様から二人が夫婦と成れるように取り計らう事と言い使って

人間界へ降ろした方達がいらっしゃるのですが、

夫婦と成る為の記憶をそのお二人に渡す事が出来ませんでした……。

黙っていて御免なさい」


「知っていますよ。人間界での出来事は全て知らせを受けています。

いつ貴女が私に話をしてくれるのかを見ていました。

よく言ってくれました……今回の事で貴女も随分と成長しましたね」

そう笑顔で言うと弥勒菩薩は、すみれたちに背を向け入り口の門へ向かう。


「えっ!成長した!ほんとうですか!」

すみれが弥勒菩薩の後姿に嬉しそうに答えると

「良かったね。すみれ……弥勒菩薩様がすみれの事を褒めて下さったわ」

つぼみは自分の事の様に嬉しそうに言う。


それを聞いた弥勒菩薩は抱き合いながら喜び合う二人を流し目で見ると、

すみれたちの元から去って行く。


「まさか!あの二人が出会えたのは弥勒菩薩様が?……」

つぼみがすみれに囁きかける。


「そうかもしれないわね……どちらにしても弥勒菩薩様に話す事が出来たし、

二人は出逢ったし、つぼみは元気になったし、

総長様は、そろそろ総長の座をつぼみに渡そうと思っていらっしゃるようだし、

本当に良かったね。つぼみ」すみれも自分の事の様に喜んでいる。


「うん。総長になれるのはいつの事になるか判らないけれどね……。

それと遠泉も明日から見る事が出来るようになるらしいから又一緒に見ようね」

「そうね。でもこれからどうなるのか気になるけれど

今後は成り行きに任せようと思う」


「えっ!もうあの二人がどうなるのかを見ないの?」

「いえ、そうではないけれどあまり気にしない様にしようと思うの。

だって弥勒菩薩様が褒めて下さったから、

期待に応える様にお仕事の方を優先的に頑張ろうと思うの」


「そうね。いよいよすみれも菩薩様になる日が近いかもね」

つぼみは再びすみれに抱き付き喜んでいる。


 そして人間界では、さくらがベッドの中で再び夢を見ている。

夢は道英と出会う所から始まり、

さくらとして生き返るところまで見て目が覚めた。


(あ!又同じ夢……でも思い出したような気がする……。

私、本当に一度死んじゃったけど

さくらさんとして生まれ変わった様な気がするのだけど……


その時、

閻魔大王様に一緒に居た男性と夫婦と成るように言われたけど、

その相手の男性が誰だったのか顔も名前も思い出せない……

でも私は別人となって生まれ変わっているのだから、

お互いに出会っても気付かないわよねぇ~……)


 そして大志もさくらと同じ夢を見るのだが、

(また同じ夢か!?ここの所、同じ夢ばかり見るなぁ~……

閻魔大王に傍に居た女性と夫婦と成る様にと言われたけど?……)

と、大志は夢だとしか認識していない。

 

 そして学校で浩が、

「大志!お前たちあれからどうなった?」

浩は大志の肩をポンと叩きながらニャニヤしている。


「えっ!どうなったって言われましても?……

私たちはあの後直ぐにお別れしましたけれど?」

「なにぃ~!直ぐに別れたぁ~!」

「はい。別にお話しする事も有りませんでしたし……」


「だがお前たち、お互いの連絡先ぐらいは交換しただろうな?」

「いえ、何も聞いていませんが」

「はあ!なんだって!マジかよ!」

浩は直ぐに奈々子にメールを入れると暫くして奈々子から返事が来た。


「はあ!なんだって!

やっぱり連絡先を聞いていないと言うのは本当らしいな!

さくらさんも聞いていないと奈々子から返事が来たぞ!全くもう」

それを聞いた浩は奈々子に再びメールを打つと返事は直ぐに帰って来て、


「大志!今度の土曜日と日曜日に4人で泊りがけのドライブに行くぞ!

予定入れとけよ。もう決めたからな!」

浩は有無を言わさないと言う口調だ。


「えっ!泊りがけですか!

流石に女性と泊りがけと言う訳にはいきませんので

土曜日だけでしたら……」

大志が余りにも困ったように言うので

浩は再び奈々子にメールを入れる。


さくらも浩の決定に困惑をしていたのだが

それなら土曜日だけと言う奈々子の言葉に

ドライブに参加する事にした。

しかし浩はその後奈々子と二人だけで

旅行できることになる事にワクワクしている。


 そして土曜日の朝。

浩が父から借りて来た車には当然ながら浩と奈々子が前席に座り、

大志とさくらは後ろ席に座らされている。


そして浩と奈々子はあのペアのアニメの腕時計をしていて、

奈々子は大志とさくらに嬉しそうに腕時計を見せびらかす。


「あら!その腕時計!」さくらは奈々子が手に入れたかった

あの腕時計を手にしていることに気が付く。

「ウフフ。浩さんに頂いちゃった!」奈々子は本当に嬉しそうだ。

「奈々子に持っていて欲しいと思っていたのでね」浩も嬉しそうだ。


「奈々子さん。とてもお似合いよ。良かったわね」

さくらは嬉しそうな奈々子を見て自分まで嬉しくなる。


「その腕時計、本当に可愛いし奈々子さんにとてもよくお似合いです」

大志も嬉しそうな奈々子に笑顔で言う。

「ありがとう、大志さん。さくらもありがとう」奈々子は本当に嬉しそうだ。


「で、これから何処へ行くの?」

奈々子は、これからの予定を何も聞かされていないので浩に聞く。


勿論、大志もさくらも何も聞いていないので、それは知りたい。


「これから高速道路で瀬戸大橋を渡って香川県でお昼にうどんを食べて、

そこからまた高速道路に乗って愛媛県の松山市に在る道後温泉に行く予定だよ~」


浩は最高に楽しそうだ。

「お~うどんはイイね。道後温泉も行ってみた~い」

その奈々子の嬉しそうな言葉に大志とさくらも顔を見合わせ笑顔で喜んでいる。


 そして4人でうどんを食べ終え、

愛媛県に入り松山城を見物して道後温泉に着き、

坊ちゃん列車を見ながら道後温泉で足湯に浸かり、

からくり時計を見て予定通り1日が終わる。


「そろそろ帰らなくてはいけないわ。

浩さん奈々子さん、今日は本当にありがとう。とても楽しかったわ」

さくらが言うと、


「そうですね。私も失礼します。

浩君、奈々子さん本当に楽しい1日をありがとうございました」

大志も深々と頭を下げる。


「おう!二人共気を付けて帰れよ」

「さくら、それじゃ~またね。大志さん、またお会いしましょうね~」


お互いに別れの言葉を交わし大志とさくらは市内電車に乗り込むが、

岡山へ帰るためには松山駅へ行かなければ駄目なのに、

“松山駅”と“松山市駅”の違いに気付かず

松山市駅方面行の市内電車に乗ってしまう。


 終点の松山市駅で降りた二人は、

駅構内で違う場所に来てしまっていることに気付き戸惑うが、

さくらは何故かこの場所に見覚えのある気がする。


(この場所……何だかとても懐かしい感じがするわ?何故???……)

さくらは駅内で立ち止まり不思議そうに辺りを見回している。


                  続く

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