第13話

「つぼみ、

私が声を掛けるまでじっとしているのよ」


すみれはつぼみに声を掛けると

一人で門を通り過ぎ

その後無事通過できたつぼみを連れて

狭い通路を通り遠泉の元へと進む。 


「裏門からだと少し遠いけど

直ぐに着くからね」


「ええ。

でも胸がドキドキして息が苦しいわ」

つぼみはドキドキと激しく波打つ胸を押さえ

少し苦しそうに言う。


「え~……つぼみは気が小さいわねぇ~……

ここで待っててね。

その先に誰も居ないか見て来るから」


そしてすみれは、

その先に誰も居ない事を確認すると

大きく手を上げてつぼみを呼ぶ。


しかし、つぼみは既に息が苦しくて

身体も思う様に動かない。


「つぼみ!何やってるの?早く来なさいよ」

すみれはつぼみの異変に気付かず

声を殺し大きく手を振る。


そして何とかすみれの元に着いたつぼみだが、

もう自力で動く力は殆ど残っていない。


「つぼみ!どうしたの!?」

すみれはつぼみの異変にやっと気付き声を掛けるが


「息苦しいし、身体が思う様に動かないの……」


「えっ!」すみれがつぼみをよく見ると、

つぼみの顔色がよくない。


「大丈夫!つぼみ……」

すみれはつぼみを抱き声を掛けるが、

もうつぼみには返事が出来るほどの体力は無く、

ハアハアと苦しそうに息をしているだけだった。


「つぼみ!つぼみ!」

いくら叫んでもつぼみは目を閉じ返事をしない。


「誰か!誰か来て!」

ただ事ではないと感じたすみれは

大声で助けを求めた。


(ん!?あれは?)

先ほどの門番がその声に気付き

同僚に声を掛ける。


「おい!あれは、

すみれ様の声のような気がするが?……」


「うん。

確かにすみれ様の声の様な気がするな……」


「ちょっと行ってみる」


 門番が声のする方へ行くと

先ほどの死神が目に入る。


「あっ!お前は先ほどの!」


「そんなことはどうでもいいの!

早く何とかして!」すみれは必死で言うが、


「すみれ様、

すみれ様は、死神はこちらの世界で

生きていく事が出来ないのを

ご存じではないのですか?!


早くこの者を死神の世界へ連れ戻さないと、

この者は此処で息絶えてしまいます」


「えっ!……」すみれは驚き声も出ない。


「とにかく一刻も早く

死神の世界へ戻しましょう」


 門番の鬼はそう言って、

つぼみを背負い門のところまで連れて行くが、


「私達門番は門の外へ出る事は許されません。

申し訳ありませんが、

これから先へはすみれ様に

お願いするしかありません……」


門番は申し訳の無い様に言う。


「解ったわ、此処から先へは私が連れて行く」

すみれはつぼみを背負い今来た道を引き返す。


「おい!俺は弥勒菩薩様に

この事を伝えて来る。門番を頼むぞ!」


「お、おう!」

すみれたちを見送った鬼たちは

初めての成り行きに混乱し慌てている。


「ごめんね。すみれ……」

つぼみは、すみれの背中で弱弱しく言う。


「何言ってんのよ。

謝らなければいけないのは私の方よ。

もうすぐ着くから頑張るのよ」


すみれはつぼみを背負い

フラフラしながらしているが、


自分のせいで

つぼみが死んでしまうのかと思うと

やるせなく思い、力を振り絞っている。


 やっとの思いで

死神の世界への門をくぐるが、

つぼみは一向に元気にならない。


「総長様!総長様!」

すみれがいくら大声で呼んでも総長は来ない。


「つぼみ!元気を出して!総長様!総長様!」

ただならぬ大声に、あの鉢巻をした死神が、

(何事か!?)と、やって来た。


「あ!つぼみ様!」


「早く総長様を呼んできて!お願い!」

すみれは必死に叫ぶ。


「は、はい。ただいま呼んでまいりますので

暫くお待ちください」

死神は慌てて走り去る。


「つぼみ……」すみれは目を閉じ動かない

つぼみを見つめながら強く抱きしめている。


暫くすると総長が息を切らせながら

二人の元へやって来た。


「やや!どうしてこんな事に!?」

総長は驚きながらつぼみを抱く。


「ごめんなさい。

私、こんな事になるなんて知らなかったの」

すみれは泣きそうに言う。


「すみれが悪いのではないわ。

私が連れてってって言ったのだもの」

つぼみは目を閉じたまま最後の力を振り絞り

消え入るような声ですみれをかばう。


「すみれ様!何があったのですか!?」


「遠泉が使えなくなったので、

弥勒菩薩様達の所にある

遠泉を見に行こうと私が誘ったの。


そしたら途中でこんな事に……

私、死神は

私たちの世界へ入れないと聞いたけど

こんな事になるなんて知らなかった……」


すみれは半泣きになっている。


「な、何と言う事を……」

総長は事の成り行きに驚き腰を抜かす。


「すみれ様。お願いがあります。

もうつぼみは助かりません。

どうか私の寿命を

つぼみに渡してやってください」


「えっ!」

「駄目……すみれ……

総長様の言う事を聞いては駄目……」

つぼみは目を閉じたまま苦しそうに言う。


「すみれ様。

私はもう十分に長く生きてきました。

もうそろそろつぼみに

総長の座を譲ろうと思っていた所なのです。

お願いいたします」総長はすがる様に言う。


「総長様……私には出来ないわ……

そもそもそのような力は私には無いの」


すみれは、

その力が既にあるのは知っているのだが、

激しく顔を振り拒否をする。


「いえ。

すみれ様には既にその力がお有りの筈です」


「いえ、たとえ私にその力があったとしても

総長様の命を奪う事は出来ない」

すみれは泣きそうに言う。


「すみれ様。もう時間がないのです」

すみれがつぼみを見ると

既につぼみは虫の息だ


「つぼみ!……」

すみれが声を掛けるが

つぼみは目を閉じたままもう返事もない。


「すみれ様早く!もう時間が有りません!」

総長はすがるように言う。


すみれは勿論やり方も知っているが

総長の命を奪ってしまうと言う事に悩む……


「ごめんなさい!総長様」

そしてすみれは総長よりも

つぼみの命を優先してしまい

総長は息絶え、つぼみが目を覚ます。


「えっ!私……まさか!」

そう思いつぼみが横を見ると

総長が横たわっている。


「総長様!総長様!」

つぼみが声を掛けるが、

総長は既に息絶え動かないでいる。


「すみれのバカ!バカ」


つぼみは泣きながら

すみれの胸を何度も叩くが、

すみれは涙を流しながら

無言でつぼみに叩かれているままだ。


そしてつぼみが

すみれに泣きながら抱き付くと、


「ごめんね……つぼみ……

私のせいでこんな事になってしまって……」


「すみれは悪くないわ……

悪いのは私の方だから……」

お互いを泣きながら慰め合っていると、


「すみれさん」と、後ろで声がした。


      続く


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