閻魔大王に。

優美

第1話

閻魔大王に

登場人物

桐島道英         (78)

(城中大志 )      (21)

樋口良子         (80)

(大地さくら)      (17)

菩薩見習い  すみれ   (450)

死神見習い  つぼみ   (450)

大志の友人  山下 浩  (21)

大志の父   城中 真一 (50)

大志の母   城中 久美子(45)

さくらの友人 菊池 奈々子(17)

さくらの父  大地 努  (48)

さくらの母  大地 絵里 (46)

郷田商会社長 郷田 剛  (75)

秘書     山中 由里 (32)

秘書     池村 久美 (30)

道英の友人  秋山 衛二 (78)




閻魔大王に  

             

 交通事故で急死した桐島道英は暗くて、

やっと足元が見えると言う平坦な獣道を心細く歩いている。


死んでしまったことは理解できているので、

この道が三途の川へ行く道なのだろうと歩いていると、


 やがて夜が明けるように周りが明るくなり

国定公園の遊歩道のような道と合流した。


その道は舗装されていなく道幅は4メートル程で両脇を草に囲まれ

少し整備はされてはいるが、雨が降れば水たまりが出来そうにデコボコしている。


 道には無表情で同じ方向へ男女が列となり歩いていて、

道英は人の流れの何処へ入ろうかと思案していると

道英と同い年のような一人の女性が目に入った。

女性は足が痛いのか少し歩き方がぎごちない。


(あ~あの女性も妻の様に足が悪くて歩きづらいようだ……

妻もあの様に足を引きずりながら此処を歩いたのだろうか……

私が一緒なら、手を添えて歩いてあげる事も出来たのに……)

 

 と、その時、 

「あっ」その女性が転びそうになり、道英はとっさに女性の手を取り

「舗装されていませんので歩きにくいですよね」

「あ!ありがとうございます。

足や腰が痛くて上手く足が上がらないの……だからつまずいてばかり」


 良子は苦笑いをするが、道英は何処か気品のある素敵な瞳の女性に心惹かれ

その女性の手を支えたまま、

「私も腰が痛いのでこのデコボコ道は辛いです。

このまま手を繋いで歩きましょうか?」


腰など痛くは無いがそういう風に言えば、

女性も見知らぬ人に気遣いなく手を繋ぐ事が出来るかもしれないと思った。


「えっ!いいのですか?私は助かりますが、

本当に手を繋いだまま歩いて頂いてもよろしいのでしょうか?」

と恥ずかしそうだ。


「勿論です。こうやって手を繋いでいるとお互いに安全ですし、

それに周りの人たちのように無言のまま歩くよりも、

お話をしながら歩く方が楽しいではないですか」


「あら!死んじゃったのに楽しいだなんて!ウフフ。

でも、貴方のおっしゃる通りだわね……

これから多分、三途の川へ行くのでしょうね?」


「私も初めてなのでよく判らないのですが、多分そうだと思います…」

「あら!皆さん初めてだと思いますよ…」良子は口を押さえクスクスと笑う。

「あ!そうですよね…」道英は頭を搔き照れながら、


「私は桐島道英と申します。道中よろしくお願いしますね」

「あ!私は樋口良子と申します。こちらこそよろしくお願い致しますね。

そうそう、三途の川は渡し舟があって、お金を払うと乗せて頂けるのですよね?」

そう言いながら、袋からお金を取り出そうとするが、


「あっ!」良子は、小さく声を上げ、お金を落としてしまった。

それを見た道英は転げている金を拾おうとするが、

逆に草の中へ蹴り込んでしまった。


「うわ!すみません拾ってきますね」道英は草の中を探すが見つからない。

「おかしいなぁ~?…確かにこの辺に転げたと思うのだけど?」

暫く草の中を探すが、見つける事が出来ないでいる。


足が悪くて、一緒に探したくても探せない良子は、

「道英さんもう諦めましょう。

無くしたものを探すときは意外と見つからないですから。

それに私は、こう見えても泳ぎは達者なのよ。

三途の川は泳いで渡っても大丈夫」と微笑み返すが、


「いえいえ。女性に川の中へ入って頂くことは出来ないです。

それにこれは私の責任でもありますから、私のお金を受け取ってください」

道英が自分のお金を差し出すが、


「いえ。落としたのは私なのですから、それは大丈夫です」

「いえいえ。頂いて貰えないと気の毒で、私は死んでも死にきれないです」

「えっ!もう死んじゃっているのに?…」と良子は驚きながらも笑っている。


「あ!そうでしたね。でも結果的にお金を無くしたのは私なので、

このお金を受け取って頂けませんか?」

道英は苦笑いをしながらも、困ったように言う。


「そうね。かたくなに拒否をするというのも相手に失礼ですものね」

良子は道英の厚意を笑顔で受ける事にした。


「はい。そう言って喜んでいただけると私も嬉しいです」道英は笑顔で答えた。

道英と良子は再び手を繋ぐと、

道英は妻を3年前に、良子は5年前に夫を亡くした事や、

お互いの生い立ちや仕事や家族たちの事などを話しながら笑顔で歩く。


良子は声を荒上げることもなく、相手を思いやる道英との会話はとても楽しくて、

久しぶりに心から笑ったような気がする。

それは道英も同じ思いで、リスの様に可愛い瞳と笑顔の絶えない良子に、

素敵な友達が出来たと喜んでいる。


 そしてその二人の姿を見張台で見張っていた青鬼が見つけた。

「ん!先輩!後光を放っている御方がいらっしゃいます!」

青鬼が見張り小屋いる先輩赤鬼に伝えると、


「おう!久しぶりだな」と返事をして横に居る後輩赤鬼に、

「おい。門を開ける準備をして合図を待て。

それと、身体をでかくして怖い顔をするのを忘れないようにしろよ」


それを聞いた後輩赤鬼は“ドン”と身体を大きくして、

顔も恐ろしい顔にして見せる。

「おう!いつ見てもお前の変身姿はカッコいいぞ」

先輩赤鬼は満足そうだ。


暫くすると、見張りの青鬼が再び大声を出す。

「ん!二人ご一緒のようです!!!」

「なに!今回は同時に二人も居らっしゃるのか!!!珍しいな……」

先輩赤鬼が驚きながらも感心していると、


「ん!?お二人は笑いながら手を繋いでいらっしゃる!」

見張りの青鬼は信じられないと、大きく驚きの声を上げた。


「なに!笑いながら手を繋いでいるらっしゃるだと!!!」

それを聞いた先輩赤鬼は、

慌てて見張り台へ駆け上がりその二人の姿を確認すると、

「確かに笑いながら手を繋いでいらっしゃる!?

何故だ?!何故、手を繋ぐ事が出来ていらっしゃる?……」


先輩赤鬼は驚き絶句しながらも、待機している赤鬼に叫ぶ。

「門を開ける準備はいいか!今回は一度に二人いらっしゃる。二人同時だぞ!」

先輩赤鬼が後輩赤鬼に念を押すと、後輩赤鬼は“解った”と言う様に大きく頷いた。


             続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る