第27話
「ん!誰だろう?……
郷田剛……あ!あの時の社長さんだ!」
大志は忘れかけていた
郷田社長を思い出した。
メールの内容は、
明後日に行われる船上パーティーに
二人で参加して頂けますか?
との内容だった。
「さくら。
以前35億円の船の所でお会いした
郷田社長さんからパーティーへの
お誘いが有りました。
二人で参加しますと
返事をしてもいいでしょうか?」
「あ!はい。それはとても楽しみですね」
さくらも、どのような人達に会えて
どのような話が始まるのかを
楽しみにしている。
大志は父から車はプレゼントする
と言われていたのだが、
職場も近いし色々な経費が掛かるので
丁寧に辞退をしていて車は所有していない。
しかしハーバーへ行くのであれば
車や公共機関で行くよりも、
ヨットで行く方が泊まる事になっても
安心なので、
二人でヨットで行きますと返信する。
そしてパーティー当日。
指定されたバースへヨットを入れた二人は
郷田社長が購入したと言う
あの35億円の姉妹艇の船上に上がる。
「おお!よく来た。ヨットで来ただって!」
郷田はヨットで来たと言う大志に驚き
大志のヨットを見る。
「ほお~ラッシーか!これは良い船だ!
良い船を手に入れたな」
「いえ。私の船ではなく会社の船です」
大志は謙遜するが、
「ん?会社の船だと!
と、言う事は君の親の船と言う事なのか?」
「いえ。親の船ではなくて
私の就職先所有の船です」
「なに!もう就職したのか!」
にこやかだった郷田は顔色を変える。
「はい」
「で、そちらの
さくらちゃんは?どうしている……」
郷田は顔色を変えたまま問う。
「私は大志さんと一緒に暮らしています」
それを聞いた郷田は、更に顔色を変えた。
「ま、今日は僕の船の進水祝いだ。
楽しんでくれ」
そう言うと郷田は秘書たちを連れて
足早に姿を消す。
郷田は
船のオーナーズ ルームに入るや否や、
「おい!今すぐ野田を此処に呼べ!」
声を荒上げ秘書の山中由里に言う。
「は、はい。
野田探偵事務所の野田様ですね。
直ぐにお呼び致します」
そして野田は直ぐにやって来た。
「社長。お呼びでしょうか?」
「城中大志と言う男をこちらへ引っ張る。
高価なヨットを税金対策として
購入している会社に就職しているらしい。
どうせろくでもない会社だろう」
(おいおい……あんたがやっているからって
皆がやっている訳ではないのだが……)
野田は呆れながらも聞いている。
「それと、城中大志と言う男と同棲している
大地さくらと言う小娘は
こちらに秘書として引っ張る。
その会社を徹底的に調べ上げて
潰せる様な情報を持ってこい」
そう言って大志が記入した
住所などの情報を差し出す。
「解りました。暫くお待ちを」
「早くしろよ!」
そしてその日の秘書の仕事を終えた二人は
お互いに郷田社長から買い与えられた
盗聴盗撮の恐のあるマンションではなく
いつものように同級生の小春が経営する
フィットネスクラブに行き
小春個人用特設サウナに入る。
サウナに入ってしまえば
身に付けている物が何もなく
盗聴の恐れがないので
安心して内輪話が出来る。
そして由里は後輩秘書の池村久美に、
「社長は狙った獲物は逃がさないから
あの可愛いさくらと言う女の子は
可哀そうに社長の愛人ね。
そしてあの男の子は何処かへ飛ばされるわ」
「ほんと!あの女の子は私たちと同じ運命ね。
可哀そうに……」久美も同感だと頷く。
「秘書としての給料は破格だし、
お相手料も文句はないのだけど
社長しつこいからねぇ~……
でも、あの子が社長の愛人となったら
私はお払い箱ね。
でも、これでやっと社長のお相手から
解放されるのかと思うと嬉しい反面、
お手当てが無くなるかと思うと
悲しい様な気がするわ……
今度あの子が入ってきたら
あの子驚くと思うけど今度は久美、
貴女がしっかりと教育するのよ」
由里は複雑な気待ちでいっぱいだ。
「ほんと!初めて秘書になった時、
社長のお相手もするのが当然だ!
なんて貴女に言われて驚いたけれど
結局お金には勝てなかったわね。
あの子も最初は驚くでしょうけれど
社長のお相手の金額を聞くと、
社長のお相手をするのが得策だと
理解すると思うわ」
久美は自分が秘書になった時の事を
思い出している。
が、時は過ぎいくら待っても
野田からの返事が無い。
「野田からの返事はまだか!」
郷田はかなり苛立っている。
「捜査中の連絡は控える様にと
伺っておりますので、もう少し
お待ち頂く必要があるかと思います」
由里も呆れている。
そしてその頃、
道夫の会社と防衛省との関係を
調べている者がいるようだと
防衛省から道夫に連絡が入った。
「みどり。
産業スパイが現れたかもしれない」
「まあ!それでは警戒レベルを
上げなくてはいけないですね」
「うん。今すぐ警戒レベルを上げよう」
道夫は家にある操作盤を操作して
警戒レベルを最高レベルにする。
そして数日後、
由里に野田から連絡が有り、
明日社長の所へ行くとの連絡が入った。
由里が郷田に連絡をすると、
郷田はもう既に、さくらを愛人として
手にしたかのように喜んでいる。
そして次の日、
「社長!
城中大志が就職していると言う会社は
物凄くヤバイ会社です」
野田はドアーを開け動揺を隠せず
大きな声で言うと、
調べ上げた書類を机の上に置く。
「おう!やはりそうか……
で、どのくらいヤバイ会社だ」
郷田は、もうその会社を潰せたな……
と、書類を手にニヤニヤして嬉しそうだ。
「ヤバさの桁が違います……
製薬会社の為の製薬会社ですが、
我が国の防衛省とも繋がりがあるようです」
「なに!製薬会社の為の製薬会社?
防衛省と繋がっているだと?
何だ!?それは……」
「製薬会社が薬を作るために必要な
特殊な薬品や特別な試薬を作る会社です。
それと防衛省にも
何か納品しているらしい……
防衛省に何を納品しているのかは
お互いのセキュリティが厳しくて
全て闇の中です。
ヨットは会社所有となっていますが、
顧客を連れてのクルージングが
主な目的のようなので問題はないです。
とにかく、この会社を潰すのはまず無理です。
防衛省が絡んでいるこの会社に深入りすると
こちらがヤバイ。
へたをするとこちらの首どころか社長、
貴方の首も飛びかねないです。
それと大地さくらと言う女性は、
城中大志と今年の9月に入籍済みで
城中さくらとなっています」
「なに!!!
さくらは既に結婚しているだと!」
(既に結婚済みでは面倒だ。
さくらを手に入れるのは難しい……
うぐぐ……ぬかった……
やはりあの時、
あの小娘を手に入れるべきだった)
郷田は苦虫をかみ潰したような顔をしている。
由里は久美の腕を肘で突いて
お互いに想定外の成り行きに驚いている。
(二人共社長の毒牙から逃れた様ね。
城中大志の方が
社長よりも一歩上手だったって事ね)
由里は自分の安泰を確信した。
日は変わり日曜日。
みどりにショッピングに誘われた
大志とさくらは3人で車の中で
お喋りをしながら進んでいると
大志はある女性が目にはいる。
(ん!あの女性は去年
役場からの依頼で引き受けた
野中さんじやないのか?
あんなところで誰と話しをしている?)
野中はいつも笑顔なのに
何か違和感を覚えた大志は、
「みどりさん、済みませんが
その先の角で車を止めて頂けますか」
「あら!どうされました?」
みどりは驚きながらも角で車を止める。
「うちの社員だと思うのですが、
困った様な顔をして
話し込んでいるように見えますので
見てきます」
そう言って大志は女性の元へ歩いて行く。
人違いだといけないので
それとなく歩いて行くが、
女性は間違いなく野中だった。
「もう少し待ってください」
と車の中の男に言っている。
車の中の男が大志に気付き顔を背けたので
大志が、
「此処は駐停車禁止ですよ」
と言うと車は急発進して行った。
「大丈夫ですか?
何か言い寄られていたようですが……」
大志が心配そうに言うが、
「いえ何でもありません」
女性はそう答えると
足早にその場を立ち去った。
しかし大志は車の中の目つきの鋭い男を
何処かで見たような気がする。
(確か衛二の所で見た
写真の中に居たような気がする……)
みどりは帰って来た大志に心配そうに言う。
「どうでした?」
「ええ。
あの女性はうちの従業員の野中さんでした」
「えっ!野中さんを御存じなの!?」
大志はしまった!と思うが
言ってしまったことは仕方が無い。
「ええ……社長さんから役場から頼まれて
野中と言う女性を雇いましたと聞きました。
話に聞いていた特徴が一致しましたので
そうではないのかと……
それよりも道夫さんとお話がしたいです」
大志はあの目つきの鋭い男が
とても気になって仕方がない。
続く
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