第26話

 そして小豆島を出発して明石で一泊して

いよいよ最後の旅の朝。


いつものようにヨットで朝食を済ませ

9時にハーバーへ向け出港する。


 そして予定通り

ハーバーへ15時に着いた二人は

新田に迎えられた。


「お二人共お疲れさまでした。

旅の間お天気も良くてよかったですね。

素敵な旅となりましたか?」


「はい。ありがとうございます。

お陰様でお天気にも恵まれて

最高に素敵な思い出が出来ました」


「マスター ありがとうございます。

私も最高に素敵な思い出が出来ました」

さくらも大志の後ろから顔を出し

笑顔で言う。


「お二人共に最高に素敵な思い出が

出来たとの事で良かったです」

新田も最高の笑顔で二人に答える。


そしてさくらが大志の後ろから

大志にそっとお土産を渡すと


「ありがとう」

大志はさくらに頭を下げ

お礼を言って受け取り


「お土産を買ってきましたので

スタッフの皆さんでどうぞ」

笑顔で新田に手渡す。


「えっ!それは有難うございます。

皆喜ぶと思います」


(ん!さくらさんは

まだ高校生だと言うのに、


何も言われなくても後ろから優しく

男である城中さんを立てる様に

城中さんに

お土産物を渡す事が出来ている……)


新田はハーバーマスターと言う職業柄

色々な人達からお土産を貰う事が多い。


お土産の渡し方一つで人間性が解る

と、言っても過言ではない。


ご主人を無視して

お土産物を渡してくれる奥様や


彼氏を無視して

お土産物を渡してくれる女性。

その逆もあるし、


男性が女性に奴隷の様に

お土産物を持って来いと言う場面もある。


目の前にいる二人が道英社長と

大人の女性との生まれ変わりだとは

夢にも思わない新田は、


(おそらくお互いのご両親の教育が

しっかりされているのだろう。

この二人はきっと上手く行く)

と、勘違いをしている。


「あ!それと、

社長さんには連絡を入れています。

もう間もなくこちらへ

いらっしゃると思います。


今夜は社長宅で夕食を済ませて、

ゆっくりと休まれて欲しいとの事です」


「それはありがとうございます」


 暫くすると道夫夫婦が来て

大志たちを自宅に連れて帰ってくれた。


 自宅に着き、お土産を渡し瀬戸内海や

五島列島の旅話で盛り上がるが


みどりの

お二人共疲れていらっしゃるでしょうから

お風呂に入って休まれては如何ですか?


との言葉に、一旦旅話は終わりにして

土産話の続きは明日の夜の楽しみとなった。


 そして朝

ヨットの後片付けに行きますと言う大志に


「お昼はクラブハウスに

用意させておきますので

そちらで食事をとられてください。


そして、

夕方7時には私たちの家で夕食を食べながら

又、楽しい旅話を聞かせてくださいね」

みどりは旅の話をとても楽しみにしている。


「いつも素敵な

お心遣いありがとうございます。


私たちもみどりさん達とのお話を

とても楽しみにしています」

さくらも横で大志と一緒に頭を下げる。

 

 そしてハーバーでは新田が

片づけを手伝ってくれるので嬉しい。


新田もこの道英社長の一番弟子が気になって

片づけを手伝いながら色々と話しかけて来る。


 そして大志は、話のついでに

家の売却の件を聞いてみた。


「あ!よくご存じで!

私の兄と両親との同居話が

意外と早く進みまして、


それで自宅を

売却しようと言う話になっていたのですが

先週キッチンから

ボヤを出してしまいまして……」


「えっ!ご両親はご無事だったのですか?」


「はい。

幸いにもすぐに消火出来まして

なんともなかったです」


「それは何よりでした」


「お気遣いありがとうございます。

先月、隣町で火事がありまして

気を付けようと言って


ご近所の為にと、こちらで使用していた

期限切れの消火器20本を

親の家で保管していたのですが、


まさか自分の親の家に使う事になるとは

思わなかったです……


キッチンの壁も天井も焦げてしまい

窓のガラスも割れて、リフォームに

税別で600万円程かかると言われました。


父は膝が痛くなったので2階は要らない。

母も今度は平屋が良いと


住んでいた家を壊して

更に3500万円かけて

3年前に新築した家ですが


今更660万円かけてリフォームしても

火事が有った家では

買い手がつかないかもしれないので

更地にして売却をと思っています」


「マスター、お家がどのような状況か

見せて頂けますか?

可能であれば現状のまま購入したいです。

もしも値段が合えばですが」


「えっ!城中さんが買って頂けるのですか!」


「はい。値段が合えばですが」

大志は笑顔で念を押す。


(この子……大学生だよね……

普通は車だとかバイクなどを

欲しがる年頃なのだが、

家を購入しようと考えるとは!!!


やはりこの子たちは何かが違う!……)


「値段は土地が300坪ありまして、

坪4万円ですので

1,200万円なのですが、


家を壊さなくていいのであれば、

解体費用の250万円が要りませんので

950万円で良いです。


いつでも見てください。

見て気に入って下されば

購入して頂けると嬉しいです」


「これから見せて頂いても

よろしいでしょうか」


「勿論ですとも」 

 

 大志たちは新田の車で

家を見せてもらいに行き

家の中を見せてもらう。


「大志さん。とても素敵なお家ね。

それと、お庭が植木ではなくて

畑と言うのがとてもいいわ!」


さくらは家の外観と

小さいながらも綺麗に整備されている

畑を見て一目で気に入る。


「そうですね。

この家の建てている様子は

最初から見させて頂きましたが、


量産ではなく木を選びながら

とても丁寧に作っていましたので

とてもしっかりとしたいい家だと思います」


 そしてして二人は火が出てしまったと言う

キッチンを見るが


「大志さん、

思ったより酷くなくはないですか……

これなら私たちで

何とかできないかしら……」


さくらはなるべくお金を掛けずに

自分たちで直せないかと思っている。


「そうですよね……

これは私たちで何とかなりそうですね……。


マスター……。

リフォーム会社と代書屋さんには

申し訳ないのですが、


リフォームは

私たちで何とかしたいと思います。


安くて申し訳ないのですが現状のままで、

1,500万円と言う事で

どうでしょうか?」


「えっ!現状のままで

1,500万円ですか!


いえいえ、

解体費用の250万円が要らないので

950万円でいいのですが……」


「いえ、それでは安すぎます。

では、申し訳ないのですが中を取って

1,300万円と言う事でどうでしょう」


「う~ん……値切る方は多いですが、

城中さんは本当に素敵な方ですね。


では1,200万円で

城中さんに売却させて頂きますので

よろしくお願いいたします」


新田は城中が思っていた以上の金額で

購入してくれたことに

本当に感謝している。


 そしてその日を終え、

道夫達との楽しい夕食が始まって

旅の話は尽きる事が無く、夜は更けて行く。


「あ!そうそう。

ハーバーマスターのご両親の家が

売却されると聞きましたので、

私たちが購入することとしました。


私は大学を中退して、

購入した家を、さくらさんと二人で

リフォームしながら暮らして


リフォームが終了したら、

お互いに結婚をしようと思っています」


「えっ!!!

家を購入されることにされたのですか!」


「はい」


「それはおめでとうございます。

それと誠に失礼ですが

購入資金の調達はどうされるのですか?」


「私たちの両親から資金援助を頂き、

足らない部分は

銀行から融資を受けようと思っています」


大志は全ての金額を

銀行から融資を受けてもいいのだが


お互いの両親に全く頼らないと言うのも

両親をないがしろにするような気がして

少し頼る方が良いと考えている。


「チョットお待ちいただけますか」

そう言って道夫とみどりは席を外す。


「みどり……城中さんに自宅の購入資金を

私達から金利0.1%で

借りて頂いてはどうだろう」


「はい。私からもお願いいたします」

みどりも城中達の力になりたいと思う。


「城中さん。私達から提案が有ります。

城中さんのお家の購入資金を

金利年0.1%で

私達から借りて頂けないでしょうか。


私たちは銀行に入れて置くよりも、

城中さん達に借りて頂く方が嬉しいです」


「えっ!それはありがとうございます。

そう言って頂けると私たちも助かります」


「ちなみに家の購入資金は

いくらほど必要でしょうか?」


「家の購入金額が1,200万円

リフォームに400万円

その他の諸費用が300万円程

必要だと思っていますので

1,900万円程必要かと思います」


「解りました。明日のお昼までに

1,900万円を用意させて頂きます。

それと大学は中退されるとの事ですよね」


「はい。

大学卒では無くなりますが良いですよね」

大志は自社の方針は知っているが問い正す。


「はい。それは全く問題が有りません。

わが社は学歴よりも人間性を重視しています。


いくら高学歴でも

人として成長されていない方は

全く必要ありませんから」


「それはありがとうございます」

大志とさくらは道夫に感謝し頭を下げる。


「城中さん。と言う事は

来月から、わが社で働いて頂ける

と言う事でしょうか?」


「あ!そうしたいのですが

とりあえず購入した家の

リフォームをやり上げてしまいたいです。


3カ月あれば終わると思いますが

1カ月の余裕を見て就職は

1月からと言う事でよろしいでしょうか」


「はい。解りました。

それでは1月から来ていただけると言う事で

お願いをいたします。


借り入れのお金は

2月から返済をして頂ければいいです」


「それは本当に助かります。

ボーナスは全て返済に充てます。


月々の返済は

利息込みの30万円を

給料から天引きでお願いいたします」


「はい。

しっかりと天引きをさせて頂きます」

道夫はいたずらっぽく言うと

笑顔でウインクをする。


「あ!リフォームが終了したら

ご結婚されるのですよね」


「はい」


「結婚式には

必ず参加させていただきますので、

ご招待をお願い致します」


「はい。

こちらこそよろしくお願いいたします」

道夫とさくらは

笑顔で再び深々と頭を下げた。


購入した家は

大志自身が名義変更をして登記費用を抑え、

リフォームは、

さくらと二人で行う予定だったが


浩君や奈々子さん、

そして大地家、城中家そして桐島家、

ハーバーマスターの新田も

駆け付けてくれたので、

30日でリフォームを終了できた。


キッチン周りは全て

さくらの好みの物を購入して新築同様になり、


9月の終わりには新しくなった自宅に

大志の家族やさくらの家族、

新田さんなど友人たちにも来て頂き、

ささやかな結婚式を行った。


当然、大志の会社勤めも

10月からに繰り上げる事になる。


とは言っても大志の仕事は

ヨットの手入れなので、

ハーバーへ出かける事となるが、


さくらも畑仕事の合間には

二人で楽しかった旅を思い出して

近場をクルージングしている。


そんなある日、大志の携帯が鳴った。



      続く


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