第30話

 そして、あの大きな赤鬼が開かれた門から出てきて

橋をドスドスと大股で渡って来た。


「あ!さくら、あの大きな鬼さんが出て来ましたね」

大志は小声で言う。


「ええ。前回は怖かったのですが、

本当は小さくて可愛い子供の鬼さんなので何だか可愛く感じます」

さくらは微笑みながら大志に囁く。


「でも、さくら……あれから60年ほど経っていますから、

あの可愛かった子供の鬼さんも

大人になっているのではないでしょうか?……」


「あ!そうでしたわね!もう大人の鬼さんですよね……

そう思うと少し怖くなって来たような気がするわ……」

さくらはそう言いつつも余裕がある。


 そして赤鬼が、

「おい!お前たち!この門の中に入れ!」と大声で叫ぶ。

「はい。私達二人でしょうか?」

大志とさくらは立ち止まり鬼の目を見ながら言う。


「そうだ!早く門の中に入れ!」

赤鬼は直視されると言う初めての出来事に動揺しながらも

当然の様な顔をしている。


「さくら、良かったですね。私達二人共、門の中に入れそうです」

大志は小声で嬉しそうに言う。

「ほんと!良かったですね。ウフフ」

さくらも小声で答え嬉しそうにしている。


「何をしている!早くしろ!」赤鬼は怒鳴るが、

自分を見て驚きもせず、笑顔のままの二人にかなり戸惑っている。

しかし赤鬼が怒鳴っている訳を知っている二人は落ち着いたままだ。


「あ!さくら、あまり嬉しそうにしないように渡りましょうね」

大志は笑顔で、さくらの耳元で囁くと、

「はい。そうですよね」

さくらも再び小声で嬉しそうに返事をする。


「はい解りました」

大志は赤鬼にそう答えるとさくらを連れて橋を渡る。


(なぜだ!このお二人はなぜ僕を怖がらない???

周りの者は皆、恐ろしそうにして離れて行くと言うのに?……)

赤鬼はいつもと調子が違い、驚きもせず怖がりもしなくて

スタスタと橋を渡って行く二人に混乱している。


 大志たちが門の中に入ると門が閉じられ、

白く輝いていた光が消え赤鬼が子供の赤鬼になると、


「あれ!?まだ子供のままだ?……」

「あら!ほんと!?少しは大きくなったのかしら?

でも、まだ子供のままなのね?……」


大志もさくらも

大きな赤鬼はもう大人の赤鬼になっているだろうと

後ろを振り向くが、子供のままの姿に驚いていると

赤鬼の方がそれ以上に驚いている。


「えっ!子供のまま!?それはどう言う事なのでしょうか???」

「あ!済みません……話せば長くなるのですが

私たちはここへ来るのが2度目なのです」

さくらも大志の横で頷いている。

「えっ!!!お二人はここへ来られるのが2度目なのですか!」


 そこへ先輩赤鬼も来て、

「えっ!お二人共ここへ来られるのが2度目なのですか!」

先輩赤鬼も信じられないと目を丸くしている。


「えっ!はい。60年程前に私達二人で来ました。

私たちが2度目と言う事は御存じではなかったのでしょうか?」

さくらも大志も意外な返事に驚いている。


「えっ!手を繋いで来られた方はお二人を含めて

2組しか見たことが無いです……

と言う事は貴方がたはあの時のお二人なのですか!?」

先輩赤鬼も赤鬼も再び驚き、信じられないと言う顔をしている。


「はい。私たちは塀から顔を出されていらっしゃるあなた方たちが

驚かれていらっしゃったようなので

てっきり、私たちが2度目だと言うのを御存じなのかと思いました」

大志の説明を聞きながらさくらも横で、うんうんと頷いている。


「いえ。

私たちは後光を放っていらっしゃる方を竜の道へお誘いするだけで、

2度目の方かどうかなどは判らないです……


私たちが驚いていたのは、手を繋いだり腕を絡ませて

笑いながらお話が出来ている事に驚いていたのです」


「あ!そうだったのですね。私たちの周りの方達は

お互いに知らない人達ばかりなので、お互いにお話もせずに

ただひたすら歩かれていらっしゃるのだと思っていました。


私たちは、お互いに手を繋いで話をすると言う事は

当たり前だと思っていましたが、

それであなた方たちは驚かれていらっしゃったのですね。


そう言えば閻魔大王様の前に出た時に、

夫婦でもなかった私たちが手を繋いでいたのを見られた閻魔大王様が、

夫婦でなければお互いに手を繋ごうと思っても手を繋ぐことは出来ない筈だ。

と、驚かれながら言っておられました」


「えっ!!!そんな事が有ったのですか!!!

そのお話、もっと詳しくお話して頂けませんか!」

赤鬼は目を見開き興味深そうに言う。


大志がさくらを見るとさくらも首を縦に振り微笑んでいる。

「はい。いいですよ」大志がそう答えると、


「それはありがとうございます。

それでは此処で立ち話と言う訳にもいきませんのでこちらへどうぞ」

そう言って赤鬼は見張り小屋の縁側に二人を誘う。


 二人が縁側に座ると同時に、

「それで、閻魔大王様にそう言われてからどうなったのですか?」

鬼たちは早くその続きが知りたくて身を乗り出している。


大志は、閻魔大王に言われて人間と同じ姿をしていて

菩薩見習いだと言われる、すみれ様と一緒に

死神の世界へ行き自分達は人間界に行くが、お互いに

記憶を失い全く違う人となって生まれ変わってしまった事や


その後、偶然出会って友達となった事、暫くして結婚した事や、

閻魔大王様の願い通り子供を儲けた事など人間界での出来事を話した。


「あ~……そう言う事だったのですか……

とても貴重なお話をありがとうございました。


道理でお二人共大鬼を見ても怖がらず笑顔だったのですね……

2度目の人間界、本当にお疲れさまでした」

鬼たちは満足したように大志たちにお礼を言うと


「それではこれからの事などの説明などは必要ないと思いますので

どうぞお二人で三途の川をお渡りください」


「ありがとうございます。では、失礼いたします」

大志とさくらは二人の赤鬼に頭を下げお礼を言うと

手を繋ぎ三途の川を渡る。


 その後ろ姿を見送った鬼達は

「夫婦でなければ手を繋ぐ事が出来なかったのか……

お二人揃って竜の道へ来る事が出来て再び人間界へ降りて夫婦となり

またお二人揃って竜の道へ来る事が出来たとは……


う~ん……あのお二人は一体?……」

この初めての出来事に3人で驚き呆然としている。


 そして大志とさくらは対岸に着くが、

やはり対岸は前回と同じく桜が満開の素敵な場所だった。


「さくら……まさかまた此処へ来ることになるなんて

思いもしなかったですね」大志は懐かしそうだ。


「ええ。私もまさかこうやって大志さんと

また来ることになるなんて夢にも思いませんでした」

さくらも笑顔を見せ二人は手を繋ぎ歩き始めるが、


「あ!そうだ!さくら、

亡くなる時に死神さんが来られましたか?」

「いえ。誰も来られませんでしたけれど亡くなる時には

死神さんが来られるのですか?」


「いえ、私も1度目の時も2度目の時にも

死神さんは来られなかったのですが……」


「私も1度目の時にも死神さんも誰も来られませんでした」

さくらは不思議そうに大志の顔を見ている。


「以前さくらが、あ!良子さんが人間界へ降りた後、

死神総長と言われる年配の方が来られて

恐怖を与えて魂を身体から引き離す。


なんてことを言われていましたのに、

私が死ぬ時に死神さんは来なかったので

変だなぁ~なんて思ったものですから……」


「そう言えば私がさくらさんの所へ行った時には

死神さんがいらっしゃいました……

死神さんが来られる人と来られない人の場合があるのでしょうか?」


「う~~~ん……それは判らないですね……

すみれさんに逢う事が出来るようであれば聞いてみたいですね」

「あ!ほんと!すみれさんにもう一度逢ってみたいですね」

さくらもすみれに逢えることに期待している。    


 そして終点の門に着き閻魔大王の前に出ると、

「巻物を持て!」閻魔大王は二人を見据えたまま記録室長に言うと

記録室長は巻き物を持ち閻魔大王に差し出す。


閻魔大王は巻物を広げ内容を確認すると

「ん!お二人は、あの時のお二人でしたか!

二度の人間界お疲れさまでした。そうですね…………

お二人には極楽へ行って頂きましょう」

閻魔大王がそう言い終わると


「閻魔大王様、お伺いしたいことが有ります」

「ん!?」

「閻魔大王様は、私たちに閻魔大王様の為に

子供を儲けるようにと言われました。

ですので、私たちはお約束通り子供を儲けました。


しかし、私達二人の子供は人の為にもなり

人類を破滅させることもできるようなものを見つけてしまい

その装置も作り出してしまいました。


この事が閻魔大王様の望まれた事なのでしょうか?……」

大志は悲しそうに言う。


「その事に付いては私の望んだ所ではありません。

私の望みはさくらさん、貴女が叶えてくれました」


「えっ!さくらが!!!」大志は驚きさくらを見る。

「えっ!私がですか!?」

さくらも驚きながら大志を見て直ぐに閻魔大王を見る。


「はい。さくらさんは、想さん、なつきさんに

仏の世界について詳しく説いて育て上げてくれました。


そのおかげで、想さんとなつきさんは仏の教えを他の子供達や

その親達へと伝え、お寺や神社へ連れて行ったりと

無償で色々な運動をしてくれています。


おかげで荒れ乱れた人間界も少しづつ良くなるのではと思っています。

この事こそが私の望み、いや私達の望みであり希望なのです」

閻魔大王は優しい顔で大志とさくらを見つめながら言う。


「そうだったのですか……」

閻魔大王の言葉に大志とさくらは安堵し笑顔になる。


「ではこのお方たちを極楽へ案内する様に」

「あ!閻魔大王様!

すみれ様にお逢いすることは出来ますでしょうか!」


「室長!すみれとお逢いできるように手配するように」

閻魔大王が記録室長に伝えると、

「はい。解りました」


 そう言うと記録室長は副室長に引き継ぎを依頼する。

「すみれ様を呼んでまいりますのでこちらへどうぞ」

副室長はそう言うと二人を裏にある広場の長椅子に座らせると


「直ぐに戻りますので此処でお待ちください」

そう言って二人の元を去った。


「大志さん……すみれさんは菩薩様になられたでしょうか?」

「そうですね……すみれさんが此処に居らっしゃらないと言う事は

そう言う事なのかもしれないですね。


でも、まだ菩薩様になっていないと言う事も有りますので、

色々と詮索するのは控えた方が良いかもですよね」

大志はもしもの事を考えている。


「そうですよね。

根掘り葉掘り人の事を詮索する方もいらっしゃいますが

あれは頂けないですよね」さくらも大志と同意見だ。


 そして直ぐにすみれは副室長と現れ

「あ!大志さん!さくらさん!お久しぶりです!」

すみれは大志とさくらとの再会を喜んでいる。


「えっ!」大志とさくらはすみれの姿を見て驚く。


       次回最終回。

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