第29話

 大志たちは子供がお腹の中に居る時から

仏の世界や政治について聞かせている。


 そんな中、さくらは男の子(想)と

女の子(なつき)の二卵性双生児を出産した。


 そして未来の日本を背負う

政治家として育てる為に

大志は二人がまだ幼い頃から

政治の事や世の中の色々な仕組みや


学校では絶対に教えない

消されてしまった日本の歴史などを

解りやすく教えて行く。


さくらは二人に道徳や仏の世界についても

自分が母親に聞かされて来たように

解りやすく優しく説く。


特に仏の世界や閻魔大王様など殆どの人は

実在していなくて

想像の世界だと思っているが、

本当に実在する世界なのだと強く説く。


 そんな話を聞きながら二人は

政治家になる為に勉強をするが

高校生になった時、


二人共に政治は民の為ではなく

政治家の為にあるのでは?と思い始める。


 そして色々な

ボランティアにも熱心な二人は


ボランティアで訪れた小児科で

不治の病に苦しむ子供たちを見て

二人共に医者になる事を決め

大志たちに相談をする。


勿論、大志もさくらも

本人たちの意思が一番大切だと

賛成をしてくれたので

二人は医者になるべく進路を変更した。


 しかし二人は勉強をすればするほど、

医師会と言う物の存在は患者の為ではなく

医者の為にある存在のような気がする。


 悩んだ二人は

純粋に子供たちの為に

治療薬を作ろうと思い


大志に道夫の会社で

研究をしたいと申し出るが


大志は自分達の子供が

道夫の会社に入社すると言う事について


道夫や将来社長になるであろう

自分の孫に対して

どう言う影響を及ぼすのか


その結果を懸念して道

夫の会社への就職ではなくて


大志たちの家の近くに売りに出ていた

住居兼店舗を購入して

二人の研究室にすることにした。


研究室を手に入れた二人は

毎日研究に没頭するようになる。


 しかし、さくらが42歳の時

さくらの娘、真理の葬儀を見る事になる。


「これほど悲しい事が

世の中にあるでしょうか……


自分の子供に先立たれるなんて

本当に悲しい事ね……」

さくらは本当に参っている。


「長く生きると言う事が

こんなに苦しい事だとは思わなかった。


これは正に生き地獄だね……

でも、私たちの子供は

頑張っていてくれているから……」

大志はさくらを優しく抱き締めて慰める。

 

 しかしその5年後には

道夫そしてみどりも後を追う様に亡くなり、

大志(道英)や、さくら(良子)の孫たちも

次々と人生を終えて行く。


大志とさくらは自分達の子供や孫

そして新田や知人

身内の葬式を幾度となく経験し


長く生きていることに

本当に疲労困憊している。


 しかし別れが有れば

出会いもあると言うのが人の常で


さくらの子供たちは

二人とも結婚して子供が生まれ

大志やさくらは再び孫に恵まれ大喜びをする。


 そんな中、想となつきは、

シルビアベーター波と

イプーンシーター波と言う

とんでもないものを見つけてしまう。


シルビアベーター波は

原子を分解してしまうので、


ウイルスやバクテリアなど思う物を

不活化して、人の免疫力を上げる事や

ウイルスやバクテリアそのものを

消し去ってしまう事も出来るし


元素を選べば骨を固定している金具をも

再手術なしで消し去ることが

出来る事も判って来た。


イプーンシーター波は

無くなったものを再生できる波で、


骨や皮膚、神経細胞などの

色々な原子や元素を集めて

復活する事が出来るようだ。


想となつきは脳に障害を持つ子供たちや、

心臓移植を待って居る子供たちを

治療出来るかもしれないと喜ぶ。


それと同時に、

凶悪な人間の脳細胞を書き変えたり

置き替える事も可能かもしれない。


しかも脳細胞の神経を書き変える事や

置き替える事が出来ると言う事は


動物たちとの話が

出来る様になるかもしれないと

二人は夢を膨らませている。


 しかしその時大志は、


シルビアベーター波は

出力を上げれば直径がアトメートルから

ほぼ無限大に

その力を及ぼす事が出来ることに気付く。


消したい物質を選び出力を上げ

その全てを瞬時に消す事が出来るのなら、


使い方によっては地上からどのような物質、

いや、地球や月そのものを

消し去ってしまう事も出来る筈だ。


そして、この二つの波を

兵器として使用することを

考える者もあらわれるかもしれない……


そう考えた大志は、想となつきに

もしこれが完成しても


自分達は超能力で治療できるとして

治療に使い

表向きの発表はしない事を強く勧める。


それと、

使うケースは色々な場面が有ると思うのだが、


どのような場面でも

治療法が無いと言う時にだけ使うようにして

他の医者の仕事を奪うような

使い方をしない事。


大志は物事はいつの場合でも

相手の立場になって考える事と

いつも言っているのだが、

二人に強く念を押す。


そしていつの日か誰かが

同じものを発見した場合には、

その計画が進まないようにする事。


これは独り占めと言う事ではなく、

悪用されることを防止する為なので、

ためらわずに手段を択ばず実行する事。


使い方を誤れば

人類を破滅させてしまうかもしれない物を

発見発明した二人の宿命だと二人に強く言う。


 そして大志とさくらは

閻魔大王に言われた言葉を思い出す。


「さくら、まさか!

この発見と発明をさせる為に

閻魔大王は

この子たちを私たちに産ませた!?……


病気に悩む人たちが

居なくなることはいい事のようだし、

争いが減り罪のない子供たちが戦争により

亡くなる事はあまり無くなる。


凶悪犯が再犯をしなくなれば

世の中は平和になる様な気はするが……


しかしこれは諸刃の剣だ!

独裁者や悪人が手にするとこの世の破滅だ!

二人にこのような重圧を背負わせる?……

これが閻魔大王の望みなのか?……」


「まさかとは思いますが……」

大志とさくらは互いに見つめ合い

複雑な心境となっている。


 そして日が経ち、

想となつきは研究室の一部を改造して治療室を作り

全人類の治療は不可能なのでとりあえず、


”日本人で18歳までであれば

不治の病を治す事が出来るかもしれません”

との触れ込みで開業する。


しかし、

直ぐに本当に現代医学では治せない病を

超能力で治してくれると言う噂が広まり、

多くの人が来てくれる事となった。


想となつきは、

治療費はお金に余裕のない人には少額を、


ルールを破り子供でもないのに

お金にものを言わせ

人の頬を札束で叩き

治療を迫るような人からは


多額の治療費を頂き、

収入の平均化を図っていく。


想となつきの店は評判も良く

繁盛して行くが

いい事ばかりではない。


 極めつけは

大志が81歳で死亡してしまったことだ。


さくらは人が亡くなり

落ち込んでいる人が居れば

生きている者は必ず亡くなる時が来ます。


別れが有れば必ず出会いが有りますからと

人を慰めていたが、

悲しみのあまり

さくらは大志から離れようともしない。


(大志さんは間違いなく極楽に行って、

綺麗な花園で、お父様やお母様

お子さんたちやお孫さんたち


そして多くのお友達と

笑顔で話していらっしゃるわよね……


私は仏の教えを守り

人の道を踏み外さないように

して来たつもりだけど


極楽へ行く事が出来て

大志さんと逢えるかしら……

早く大志さんに逢いたい……)

さくらは大志に逢いたくて悲しんでいる。


 そしてその1カ月後、

さくらも帰らぬ人となり

さくらは三途の川へと道を進んでいる。


(当たり前のことなのに、

まさか2度も死ぬことになって

また三途の川へと歩くことになるなんて

夢にも思わなかったわ……)


自分に呆れながらも歩いていると

道端で誰かがこちらを見ている。


(あ!あれは!まさか!大志さん!?……)

さくらが小走りで走り寄ると

大志が笑顔で待って居る。


「大志さん!」

さくらは泣きながら大声で大志を呼ぶ。


「さくら!」大志も嬉しそうに

大声でさくらを呼び

二人で強く抱き合った。


「さくらが来るまで待って居ました」

大志はさくらを抱き締めたまま

さくらを見つめ涙ぐんでいる。


「大志さん、私を待って居てくれたの?」

さくらも涙を流しながら大志を見上げている。


「ええ。さくらが来るまで

何年でも此処で待つつもりでした」

大志も涙ぐみながら笑顔で言う。


「お待たせいたしました」

さくらも涙を流しながら笑顔で答えると


「それでは、行きましょうか」

さくらに腕を差し出し

優しく前へ進むように言う。


「ええ。

又、振り出しに戻った様な気がしますね」

さくらは大志と腕を絡み合わせると

良子として、初めて

道英と出逢った日の事を思い出し笑顔で言う。


「ほんと!そうですね。

私も初めて良子さんに逢った

あの日を思い出します」

大志も笑顔で言う。


二人は、お互いに出逢ったことを喜び

さくらは大志の居なくなった後の

話などをしながら歩き始める。


 そしてその二人の姿を

見張台で見張っていた青鬼が見つけた。


「ん!先輩!

後光を放っている御方が見えます!」

見張りの青鬼が先輩赤鬼に伝えると

先輩赤鬼は、


「おう!久しぶりだな」

と、返事をして横に居る後輩赤鬼に


「おい!門を開ける準備をして合図を待て。

それと、いつもの様に身体をでかくして

怖い顔をするのを忘れないようにしろよ」


 それを聞いた後輩赤鬼はいつもの様に

“ドン”と身体を大きくして

顔も恐ろしい顔にして見せる。


「おう!

いつ見てもお前の変身姿はカッコいいぞ」

先輩赤鬼は満足そうだ。


暫くすると見張りの青鬼が再び大声を出す。


「ん!二人御一緒のようです!」


「なに!また!

お二人同時にいらっしゃったのか!?」

先輩赤鬼は驚き不思議そうに言う。


「ん!お二人は、お互いの腕を絡め合って

笑いながら話をされている様です!」

見張りの青鬼は大きく驚きの声を上げる。


「なに!お二人は、お互いの腕を絡め合って

笑いながら話をされているだと!」

それを聞いた先輩赤鬼は

慌てて見張り台へ駆け上がる。


「確かにお互いの腕を絡め合って

笑いながら話をされている!?」

先輩赤鬼は驚きながらも

待機している赤鬼に叫ぶ。


「門を開ける準備はいいか!

一度に二人いらっしゃる。二人同時だぞ!」

先輩赤鬼は後輩赤鬼に念を押すと後輩赤鬼は

“解った”と言う様に大きく頷く。


「お二人同時と言うのは、

50年いや!60年ぶりだろうか?……」

先輩赤鬼は混乱している。


「確か、60年ほど前に、

お二人で手を繋いで、

と言う事はありましたよね……」

後輩青鬼も驚いている。


「う~ん……60年ほど前だったか……

確かに手を繋いでと言う方は来られたが


あのお方達はまるで遠足にでも来たように

嬉しく楽しそうにされていて

腕まで絡め合っていらっしゃるな?……


それに、

後光を放たれている方は

殆ど来られないと言うのに、


又、お二人同時に来られた?……

しかもこんなに早く……

一体今、人間界は

どうなっているんだ!?……」


先輩赤鬼は

この異常な出来事に驚きを隠せない。


「後光を放たれていらっしゃる方が

多くなっているのならともかく、

流れは今までとほぼ同じなのに……


お二人でと言う事が増えて

嬉しい様な気もしますが

おかしな話ですよね?……」

後輩青鬼も混乱している。


 そして大志たちが三途の川へと

足を進めていくと、高い塀が見えてきて

鬼たちがこちらを見ているのが確認できた。


「さくら、

あの鬼さんたちがこちらを見ていますね」

大志はさくらに囁く。


「はい。

あの鬼さん達がこちらを見ていますね。


私は前回怖くてよく見る事が出来なくて

監視されている様な気がしたのですが、

今回よく見てみると驚いている。

そんな感じがしますね……」


さくらも大志の耳元で囁く。


「ええ。私も前回は怖くて

良く見る事が出来なかったのですが


私も、監視していると言うより

驚いて

こちらを見ていると言う様な気がします」


「大志さん、鬼さんたちには私たちが

2回目だと言うのが

解っているのでしょうか?」


「う~ん……

私たちはお互いに姿が変わっていますので

どうなのかとは思いますが


驚いていると言う事は

そうなのかもしれないですね……」

そう言いつつ、

大志とさくらは鬼たちに軽く会釈する。


「おい!あのお二人は笑顔で腕を絡め合って

話をされているだけではなく


俺たちに頭を下げて挨拶をされたぞ!

一体、どうなっている!?


思わず俺も頭を下げてしまった!」

鬼たちは会釈されて顔を見合わせ

更に驚いている。


 そして大志は、


「さくら……問題は、

この先の橋の所に在るあの門から

鬼さんが出てきて、私たちを

門の中へ入れてくれるかどうかですが、


さくらは間違いなく

門の中へ入る事が出来ると思います」


「いえ、私は大志さんと一緒に居たいです」

さくらは悲しそうに言う。


「いえ、私は結構嘘をつきましたから

一緒にと言う事は無理かもです……」

大志は笑顔で言うが、


「いえ、大志さんは自分の保身の為に

嘘をつく事は無かったです。

嘘はいつも人の為でした……」

さくらは悲しそうに言う。


(もしも、大志さんの言う通り

大志さんが門の中へ入れずに

私だけ門の中へ入る事になれば、


私は門の中へは入らずに

大志さんと一緒にこのまま歩きます)

さくらはそう決意した。



       続く

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