第3話 救出?

私と人質を交換したあと、侵入者達に連れられて堂々と屋敷から出た。

人質には5時間の間、遠隔で爆破させる事ができる魔法が取り付けられてるらしく、変な動きを確認したら即座に爆破させる、と脅していた。


「それが聖女か?」

「あぁ、後はコイツを依頼人に届ければ依頼達成。金が腐るほど手に入る。」


屋敷の前に止めてあった数台の馬車、その1つには檻が積んであった。


「おら、さっさと入れ!」

「うっ…」


首輪を付けてから本当に力が入らない。

魔力も感じ取れなくなっちゃったし、体が重くてだるい。


「撤収するぞ。」


私からは外が見えなくて不安。

しばらく走って、馬車が激しく揺れ出した。


(揺れて、気持ち悪い…)


魔法に頼りすぎた弊害。

少し疲れにくくしたり、病気にかからないように掛けてた魔法も首輪を付けて消滅しちゃった。


(私、どうなるんだろう…)


怖いな。

聖女として此処から出ないといけない、って感じるから、私はこの誘拐が魔王に関係をしてるとは考えてない。


大事にはならない筈だけど…


(正直逃げられる気がしない。)


この首輪の性能が良すぎるのだ。


「戻ったぞ。」

「おう、誘拐は成功したか?」

「教皇とか枢機卿が相手ならともかく、相手はあのバカな王族共だ、余裕で成功するに決まってる。」


そうだ、教皇様なんで私をあの場で1人だけにしたんですか…


今回は聖女が主役だからって言ってましたけど、それなら警備をもっと厚く…


待って、侵入者が現れたとき警備はなにをやってたんだ?

争ってる音は聞こえなかった。


「こっち来い!」


首が痛い…


「おいおい乱暴に扱うな、一応は神に選ばれた聖女で俺達じゃ触れる事すら許されない存在なんだぞ?」


笑いながら言ってるから説得力が無い、おそらく馬鹿にする意図が込められてる。


「命さえあればいいだろ?

この後は味見だ。」

「元はただの平民だ、もしかしたら経験豊富かもしれねぇぞ?」

「アリだな…」

「勝手にしろ、だが殺すのだけはやめろよ?」


そんなわけないでしょうが!

前世含めて経験ゼロ、好きな人はいたけど彼氏居た経験はないわ。


っと、そんな事より今の状況はとてもまずい。


聖女の役割を理解した私は絶望的な状況でありながらも魔王を討伐、解決できたら全力で表舞台から消えて隠居するプランを考えていた。

その予定が解決する前に奴隷エンドで、始まる前に終わってしまう…


「さぁ、今夜の聖女様のお仕事は浮浪者の救済だぞ〜、俺達に楽しいひと時を与えてやってくれ〜。」

「……」カタカタ

「声が出ないのか〜?

だけど安心してくれ、そのうち自分から鳴くようになる。」


聖女としての在り方さん?

あの、かなりピンチなんですけど起死回生の一手とかないですか?


祈る私は無情にもアジトの奥に引き摺られていった。


「やってるかー?!」

「「「おおぉぉぉ!!」」」


「うっ…」


広めの部屋には5人の男、更に奥から足音も聞こえるからもっと増えるだろう。

全員が酒を飲んでいて、私を舐め回すように見てくる。


「早速始めるぞー!」


服に小さなナイフが押し当てられる。


「い、やぁ…」


私は悪い事をしたのだろうか、前世も含めて良い事をした記憶は少ないけど、咎められるような悪い事をした覚えは無い。


急に誘拐同然で住み慣れた街から引き離され、聖女として祭り上げられて…


聖女の仕事や活動は決して良い事ばかりじゃないとは思ってたけど、


ブチッ


「はい、服1つめ〜。

聖女様って何枚も服着て大変だなぁ?」


こんな事は体験したくなかった。


バン!


「敵襲だぁぁあ!」


グチャ!


敵襲だと叫びながら扉を勢いよく開いた男が、瞬きをした一瞬で首と胴体が離れていた。


「武器を取れ!

侵入者をnーー」グチャ!


「な、なにが起こっtーー」


私を誘拐する男達はパニック状態、襲撃犯が見えないのだから彼等を襲っている恐怖はかなりのものだろう。

ただ私には見えた、1人ずつ首を落としていく顔を画面で隠した騎士の姿を。


私は男達の血に塗れ、恐怖で震えていた。


「……」カタカタ


男達が全滅するまで然程時間は掛からず、全てを殺し終えた騎士は私に近づいて来る。


「汚いな。」

「あ、ご、ごめんなさ…」


目の前の騎士が怖い。

私だって異世界に来て生き物を殺めた事はある、ウサギとか鹿とか。


だけど、同じ人間を一切の迷いなく切り殺したところを見て平気でいられるわけない。

目の前の騎士は教皇の横にいた鎧と同じ物を使ってるから救助だとは思うんだけど…


「早く脱げ。」

「は、はぃ…」


言葉遣いが乱暴だったり、剣先を向けて来るのが救助だと言い切れない理由。


「こっちだ。」

「あぅ…いたい…」


1番外側のローブを脱ぐと、乱暴に首輪を引っ張られて歩かされる。

聖女が此処から逃げろと叫んでるけど、首輪がついてる限り私はなにもする事ができない。


「【ゲート】」

「!」


かなり難易度の高い魔法だ。

行きたい場所と今いる場所を繋げる魔法で、使える人間は1国に3人いれば良い方。


「わあぁ…」


転移先は立派なログハウスだった、辺りには木々が生え、花壇には綺麗な花も咲いている。


(あ、薔薇だ!

こっちの世界で初めて見た!)


あまりにも美しい光景に見惚れてしまった。


「今日から此処で私と暮らすんだ。」


それは、私にとってはとても素敵な提案。

だけど聖女が、世界がその判断を許さない。


「ごめんなさい。

私は魔王を倒さなくちゃいけません、戻らなければさらに被害が大きくなってーー」

「もういい。

これは命令だ、眠れ。」


騎士の力によって眠気が襲って来る。

もういいと言った騎士の声は冷え切って、


「甘やかそうとした私がバカだった。

説得は無理だと知っていたはずなのにな、毎回やってしまう。」

「あ、ゃぁ…」


「もう離すものか…」


悲しくて、寂しくて、

ナニカを怖がっていた。

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