第24話 聖女の故郷

山奥の家を燃やした。

それはエイラが住んでいた家、埃が溜まっていたがとても立派な建物だ。


「……」


そして私がエイラと暮らしたことのある家、燃やした私が言うのも変だがとても心が痛む。

この家を破壊する理由だが、聖女が誕生した家として聖地となり新たな信者が維持するのだ。その信者が神の加護を手に入れ強敵になる可能性がある。


だから燃やすしかなかったのだ…


ーーーーー


『あのあの!

えっと、何処かで会ったことあります?』

『エイラ…』

『なんで私の名前知ってるの?!』


何度もやり直しをしているうちに戻る時間がズレる事があった。例えば魔王城前であったり、エイラと旅に出る直前であったり、まだ私が貴族だったときもある。

そして不思議な事にエイラと知り合いでない場合も存在した。


今回は騎士見習いの卒業試験日で、エイラは私と会った記憶が無かった。


『エイラ、エイラァ…』

『取り敢えず、家に上がりますか?

飲み物と果物ぐらいなら出せますよ。』


頭は冷静なのに体が言うことを聞かない。

涙を流しながらエイラに抱き付き名前を何度も呼んでいた。


『エイラ、エイラ…』

『うーん…一緒にご飯食べませんか?』

『エイラ、エイラ…』

『何に悩んでるのか話してみませんか?』

『エイラ、エイラ…』


困らせてしまっている事は理解できているのだが、言葉として口から出ない。

出るのはエイラと呼ぶ声だけ。


『少し眠りますか?

ほら私も少し眠くなっちゃってお昼寝したいな〜って思ってたんです。不安なら抱き枕も用意しますよ。』

『わかった、寝よう。

寝室はどこだ。』

『え、早くありません?!』


私に抱き上げられて、少し困惑した様子を見せつつもしっかりと寝室へと案内してくれる。


案内された、扉に【エイラのお部屋】と書かれた部屋に入る。


部屋の中は人形など可愛らしいものが多く、聖女として活動していた時のエイラとは正反対。

おそらく聖女として質素な生活を心掛けなくてはいけやくて無理をしていたのだろう、今度プレゼントで人形をあげるのがいいかもしれない。


ベットの大きさは1人用とは思えない大きさで、2人で横になっていても全然余裕がある。使われている素材もかなり品質が良い、王族の使うベットだと言われても違和感ない。


『寝る、おやすみ…』

『あの抱き枕なら用意しますよ?』

『もう、あるじゃないか…』


エイラを抱きしめながらベットに横になる。


『あ、私が抱き枕だったんですね…』

『……』zzz

『寝てる…!』


それから1日眠り続けた私はエイラの少し怒った声で起こされた。寝た事でだいぶ安定したのか寝る前の様に泣くことはなかった。


『1日寝るなんて信じられません!

お腹空きました!』

『それはすまなかった…』

『むーー!お腹すいたぁぁ!』


これほど子供っぽかったのか。


『ふふ…』

『何笑ってるの!』

『いや、すまない。直ぐに何か作ろうか。』


ベットを降りると私の手を掴み一階へと降りていく。

少し怒っているのは伝わってくるが、スピードを合わせてくれるあたりエイラの優しさを感じる。


『パンで良いですか?

なんとなく身分の高い貴族っぽく感じるんですけど、嫌いな物とか大丈夫ですか?』

『特に問題ない。

それに私はもう貴族ではない、畏まる必要もない。』

『へー。』


ふと思えば聖女じゃないエイラは一回目以来見ていなかった。

その一回目もお互いに幼い頃で、ある程度成長してからは聖女と聖騎士としてしか会っていない。


『今日は奮発して干し肉もつけちゃいます!』

『待っ…』

『ん?何かありましたか?』

『いや、なんでもない。』


いつもの癖で肉を食べようとするのを止めようとしてしまった。


『じゃあ早速、いただきます。』

『いただきます?』

『あっ、えっと食材の命、食材に関わった人たちへの感謝的な言葉ですよ。』

『そうなのか…』


とても立派だ。

エイラは聖女としての教育を受けたのとあり、平民だったとは思えないほど礼儀正しかったが、まさかここまでとは思わなかった。


【いただきます】はエイラが考えた祈りの言葉のようなものだろう。


『食べてる途中ですけど御名前聞いてもいいですか?』

『私はリサだ。』

『リサさんですね!

知ってると思いますが、私はこの小屋で一人暮らしをしているエイラと申します。』


恐ろしい速度でパンとスープを食べていっている、大食いなのかエイラの新たな一面だな。いや、食べる事は好きだと言っていたような気がする。


これだけ気持ちよく食べているのを見ると、聖女となって好きな物を食べれないのは苦痛だったとわかる。

少し考えてみればわかった、隠れて何度も肉や魚を食べようとして私を筆頭に騎士達に怒られていた。エイラは自由に沢山食べたかったのかもしれない。


『また泣いてる?!

本当に大丈夫ですか?!』

『美味しい物を沢山食べましょうね…』

『話がつかめない…っとそんな事は気にしてる場合じゃない、タオル持ってきますね!』


…待てよ。

今私がここに居るという事は、もしかしたらエイラを聖女にしない事が出来るかもしれない!


『タオル持ってきましたー!』

『これから末長くよろしく頼む。』

『へ?』


まずは滞在に許可を取らねばいけないな。

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