第23話 人形の王族

「【1段階 限定起動】」


この大陸で1番力を持っている王国、その王城の前で1つの魔道具を起動する。

結界が貼られ中から外に出られない様になった。


この国が遥か昔から大陸最強に君臨し続けているのにはとある理由がある。

それは、


「やはりここにも来たか、少し話をしようではないか。」

「……」

「おそらく知っているだろうが改めて自己紹介だ、私はこの世界の神である。

我の手足を屠る愚かな者よ、跪け。」


この国の王族は神操り人形だったからだ。


私の前に立っている男から発せられる声は女性の物、神が王族の体を使っている時は声が変わり目の色が金色になるのが特徴。

そしてその状態の王族を殺したとしても神にはなんの影響も無く、他の王族を操って攻撃してくる。


「断る。

それと私は貴様の様な羽虫と話す趣味はないんだ、お互いにやりたい事はわかっているのだから会話など無駄な事は止めようじゃないか。」

「そうか、では死ね虫が。」


飛んできた魔法を反射的に横に避け、走りながら魔法を撃ち合う。

魔法の腕はお互いに互角だが、このまま撃ち合い続けては魔力量的にジリ貧だ。


「威勢が良いだけか?

いや、マリアを殺した相手だ油断せずに行こう。」


これは神自身の気質なのか定かでは無いが、この状態の神は考えている事が口から出ることが多い。

情報収集にかなり役立った。


「【魔力弓】」

「なるほど、いい手だ。」


普通に魔法を撃つより魔力を抑えられる。

初動の撃ち合いは技量を見せつけるため、この戦いは時間を稼ぐ事が重要なのだ。


「そういえば、先程起動していた魔道具の効果の話なんだが、結界を貼るだけかと思っていた。

だが込められた魔力量から見ても、破れにくい結界だけとは考えられない。」


何度も聞いたセリフだ。神はあらかじめ言う言葉を決めているんじゃ無いかと思うほど一字一句違った言葉を言わない。

今言った言葉は真実に辿り着くまで、後15分といったところ。


「【2段階 起動】」


少しギリギリか。


「はぁ…【権能特権 魔法禁止区域】」


世界を管理する神だからできる事、一部のエリアで魔法の使用を絶対不可能にする。

魔力が消えるわけでは無いから魔道具なら動くが、私自身が魔法を使うことができない。それはあらかじめ発動しておいた強化系も対象であり、私の能力が強化前の値に戻った。


「ゴボッ…

やはり現在は脆いな、そのためにも聖女を混ぜようと思っていたんだが…」

「…!」


怒りが湧くが今ここでコイツを殺せば計画の全てがズレる。

それどころかやり直ししなければ再起できない。


「なぜ私にその様な感情を向ける?

あぁ、聖女を持っているのはお前だったのかちょうどいいな。」


アイテムBOXから剣を取り出し構える。


「アレは私の物だ早く返せ。」

「無理だな、エイラはすでに私の物だ。」

「本当に頭が悪い。

良いか?アレはお前ら虫が使える物じゃ無いのだよ、私の為に私の世界の為に使われるべき道具なんだよ。

それだけのために作ったんだよ。」


ピピピ


時間だ、全ての起動が完了した魔道具の力を解放した。


結界内に禍々しい空気が充満し、騎士やメイド達が苦しみ始めた気配を感じる。

勿論目の前の男も。


「ば、ばかなぁ…」

「この闇のオーラでそこまで傷つくとは、神とははそんなでも聖側なのだな。性格を知っている私からしたら信じられんよ。」

「貴様は、なぜだ…」


このオーラは普通に生きていたマトモな生き物なら苦しみながら死ぬ対象になる。

魔王軍の四天王ですら完全な無効化はできない、完全な無効化ができるのは知る限りでは私と魔王だけだ。


この魔道具を初めて見つけた時は私も対象だったが、500回目を超えたあたりから対象外になっていた。

つまり私はもうマトモな生き物、人間では無いのだろう。


「本当はもっと苦しんで欲しいが、あいにく時間が無い。【制限解除】」

「グアアァァァァァ!」


城中から悲鳴が聞こえ、10秒もしないうちに静寂が訪れる。


「…魂は、人間のはずなのに……」


神が憑依していた男も力尽きた。


「魂は人間、か…」


まさか私が1番嫌いな存在から、お前は人間だと言われる事になるとは思わなかった。

今まで何回も殺してきたが初めて言われたな。


「【魔道具 停止】」


結界が解かれ、中に充満していたオーラが外に溢れ出す。

オーラを見て逃げた者が多数いるが少し残っていても問題無い、どうせ人類は魔王軍が滅ぼすのだから。


死の町となり人々が逃げ惑う王都の中心から離れスラムの一角へと向かう。


「みんな、避難するよ!」


2人のシスターと大勢の子供達が走っている。その中に私の標的がいた。


「待て。」


シスター達は警戒し子供達を背中側に回した。


「なんでしょうか、貴方も早く逃げた方がいいと思いますが。」

「この子供の中にクレイと名乗っている者がいるな?渡してもらおう。」

「…クレイという子供はおりません。」


動揺を悟らせない様に惚けているが目は細かく震えている。


「【バインド】」

「何を?!」

「すぐ済む、だから寝ていろ【スリープ】」


捕まえたシスター達を中心に魔法を唱え眠らせる。

どんどん倒れていくが1人だけ倒れずに立っている子供、クレイだ。


「僕がいうことを聞けばシスター達は助けてくれますか?」

「手を出さないと誓おう。」

「では、どうぞ。」


ザグッ!


これで神の人形になれる血を引く者は1人もいなくなった。

ここを乗り切れば暫くは余裕がある、というより最後の決戦以外は変な事が起こらない限り余裕なのだ。


ついにここまで来た。

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