第22話 僅かな休憩

少し薄暗い部屋に魔王と2人きり、お互いの目の前には豪華な食事が並んでいる。


「どうだ我が厳選した料理人達の食事は。」

「私には味の良し悪しなどわからん。」

「ククク、それならエイラの食事も味がわからんか?」

「…貴様は死にたいのか?」


容赦のない殺意をぶつけるも楽しそうに笑っている。相変わらず人をイラつかせるのが得意な奴だ。


協力者じゃなければ殺してる。


「全く、その殺意を抑えろ。

魔王と四天王以外でその気配に耐えられる者はそうおらん、後ろに立つメイドが気絶してしまっただろう?」

「ならエイラの事で私を揶揄うのを辞めるんだな。」

「すまんすまん。」


その後も何度も私をイラつかせ、殺気を出す度にメイドが倒れる。最終的には人呼びの鈴を置いて誰も近付かなくなった。


食事をしながらこれからの動きをお互いに相談している。

私の計画はほぼ完璧であり変更する必要はないが万が一という事もありえる、情報を共有し成功率を更に上げるのだ。


「リサが動き始めてから我等魔王軍も人間の国へ進行を開始した。2つの国は壊滅、残りの強敵は聖国と王国だ。」

「貴族はともかく王族は私か魔王でなければ勝てん、王族の所持する魔道具に欲しい物があるから私がやろう。」

「では任せた、我等はこのまま戦力を削ぐので良いか?」

「いや天空の主を優先してやった方がいい、物資を蓄えられて籠城されたら面倒だ。」


人を滅ぼす計画を話し合うのが楽しく感じる、私はどうしようもなく壊れているのだろう。

エイラ以外に私と対等に話す相手は魔王ぐらいだし、容姿もエイラに似ているからか僅かな親近感を覚えてしまっている。


「…キスはせんぞ?」

「は?」

「主の記憶の中であった猫耳も付けんし、尻尾などあり得んよ。」

「貴様は何を言っている。」


ん?

何か忘れている。

流石に全部のループを覚えているわけではない、特に精神的に落ちていた時のことはほぼ覚えていない。


「リサが楽しそうにエイラを愛玩奴隷として使ってた時の話だよ。」


…あぁ、あの時のか。


ーーーーー


『あ、あの…』

『人間の言葉を話していいと言ったか?』

『にゃ〜…』


可愛い猫を拾ったんだ。

昔に動物を飼うと心が休まるって聞いたからな、特に猫っていう生き物は自由気ままで可愛いと。


『これから足で歩くことは許さない、4速歩行でそれを守れば自由気ままに過ごしていていい。

脱走しないように首輪はつけるぞ、部屋から出ようとしたら閉まっていくから気をつけるんだぞ?』

『え、閉まる?』

『おい、人間じゃない猫だろう?』


ペットを飼い始めた時は躾が大事、限度はあるがある程度はしっかりとしなければ家中が大変な事になる。


『ヒッ、

にゃ、にゃ〜…』

『そうだ、それで良い…』


ふむ、確かに撫でてみると心地が良い、心が洗われる気がするな。


『ん、にゃふ…』


程よく柔らかく、髪はサラサラだ。


『ペットには名前が必要か、なら今日からお前はクウだ。』

『にゃぁ…』



ーーーーー


「我にもわからなかったんだがなんでクウって名前をつけたんだ?」

「私にもわからんな。」


クウ…くう…食う?

いや、そんなわけないか。


「だが猫とはなんだ?

エイラに教えてもらっておったが、我が知る限りこの世界にそんな存在は居なかったような気がするが…」


それは私も考えていた。

エイラはこの世界にない料理、この世界にいない生き物、この世界にない技術など様々な事を私に教えてくれた。


最初は天才的な閃きなのだと思っていたが、流石に違うんじゃないかと疑っている。

何度かエイラに聞いたが教えくれなかった。


「リサの奴隷にしていた時に聞き出せばよかったものを、色々と体に教え込んで忠実な人形にした時だったら簡単だったんじゃないか?」

「そうだったかもしれないな、だがあの時は楽しくてそんな事を気にする余裕がなかったんだ。」

「リサが居なければ我が楽しみたかったな。」


人形にしたときは楽しかったが、少し時間が経ってからとてつもない罪悪感が襲ってきた。


私の命令だけを聞く人形になってしまったエイラを見て、言う事を聞いてくれなかったから仕方ないと自分に言い聞かせた。


「リサも哀れよな。

助けようとする者には理解されず、だがそれは悪意や嫌悪の類では無く善意により理解してくれなかったのだから。」

「神からの命令という意味では悪意だろう。」

「そうかもしれんな、だが心を何度も壊しながらも1人を助ける為に此処まで揃えたいリサを我は尊敬するぞ。」

「そうか…」


魔王と協力体制を整えるまで何度死んだことか、確か3桁寸前だった気がするな。


「それに我とリサが戦ったとして、負けるのは我だろうし、協力者として選んでくれたのは嬉しかった。」


特徴の一つとして、身内判定した者には限りなく甘い。


一度エイラと魔王が和解したことがある、仲が良く姉妹のようだと思いながら眺めていたものだ。

今思えばあの時が1番平和だったのかもしれない、だが3年間の幸せな生活のあとに裏切り者により2人が襲われ仮初の平和は終わってしまった。


「もう行くのか?」


魔王が名残惜しそうに言ってきた。


「あぁ、元々計画を早めなくてはと考えていたんだ。

僅かな時間だが楽しかった。」

「そうか!

ならいい、あまり気を張りすぎるなよ。」


いつの間にか真後ろに出現していたゲートを潜る。

向かうは王城、エイラを道具としか見ていないクズ共の掃除だ。

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