第25話 思い出

『なにゆえ、私の家に?』


どこか困惑した表情のエイラ。

それもそうだろう、知らない女がいきなり家に上がり込み1日眠り続けたと思ったら此処に住むと言い出したのだから。

しかも結婚前に言うようなセリフで。


『私が寂しいからだ。』

『…ちなみに断る事とかって?』


印象は決して良くはない、だが卒業試験をバックれた私に帰る場所はなく多少強引にでも住まわせてほしいのだ。


『貴族の頼みを断ると言うのか?』

『えっ、もう貴族っじゃ無いって…』

『今の私は貴族だ、それにエイラには拒否権は無い。』

『えぇ…』


これだけの無茶を言っても私に対する嫌悪感は一切感じないのは何故だろうか、普通なら少し嫌な奴と思ってもいいはずなんだが。


『仕方ないですね。』

『…!』

『誰にも言いたくない事情はありますし、この家は街からある程度離れているので隠れるのに最適ですもんね。』


子を見守る母を彷彿とさせる微笑みだった。


『あ、でもどうして私の名前とか家を知ってたのかは教えてもらいますよ!』

『覚えていないのか…?』


聖女のエイラと初めて会った事はすぐにわかってくれていたから、今回私に気づいてくれなかったのは悲しい。


『えっと、実はふんわりと予想はついてるのですが名前が違ったので私の勘違いかなと…

もしかしてーーーちゃんですか?』

『そうだ!』


いや気づいてくれていたが私の名乗った名前のせいでわからなかったのか、エイラが付けてくれた名だと言ったらどんな反応するだろうか。


『久しぶりですね!

あの時の約束を守れずにごめんなさい、街が貴族の兵士達に封鎖されて入れなかったんです…』

『貴族の娘が消えたらそうなるな。』

『えっ、もしかして家出中ですか?』

『どうなのだろうな…』


そういえば私の扱いについて詳しく知らない。

完全な行方不明という扱いなのか、誘拐された扱いなのか…


『そんな事は気にせずゆっくりしよう。』

『いや、とても気になるんですけど…

貴族関係で巻き込まれたりは大丈夫ですかね?』

『いざとなれば私が守る。』

『カッコいいですけど、原因はリサさんですからね?!』


私の家はそこまでの戦力を保有してなかったはずだし、今の私なら追手ぐらい余裕だろう。


『今日は何して過ごしますか?』

『私は居ない者として自然なエイラを見せてほしい。』

『うっ、なんか困りますね…』


確かエイラの子供時代の話をしたとき歌を歌って過ごしてたと聞いた。

何回か歌ってほしいと頼んだが恥ずかしかったのか断られ、私も両手で数えられるぐらいしか聞いた事はない。


『歌が好きだと聞いた、歌って過ごすのはどうだ?』


顔がどんどん赤くなっていく。


『どうして私の趣味を知ってるの?!』

『聞いたと言っただろう?』

『ちょっと待ってください、私が歌好きなの知ってる人居なかったはずなんですけど…』

『もちろんエイラに聞いた。』

『どういうことです?!』


結局歌ってはくれなかったが2人で絵を書いたり、どうでもいい事で盛り上がったりとあっという間に時間が過ぎた。


『お風呂入ります?』


エイラの住む家は大きめとはいえ浴場があるとは思っていなかった、聖女の時から湯浴みが好きな方だったが家に浴場があったからなのか。


『入りたいな。』

『そうですよね!では、お先nーー』

『共に入ろう。』

『あっ、わかりました〜。』


何度か世話係として共に入った事はあるが、同じ立場で入るのは初めてだ。


『……』ジー


エイラが聖女に選ばれるまで、まだ2年ぐらい猶予があったと思うんだが身長とか胸の大きさは全く変わらないな。


『あの、恥ずかしいんですけど…』///

『変わらないな。』

『それは胸のことですか?!』


別に一部を見て言ったわけじゃないんだが…


『何故そうなった、それに全く無いわけじゃないだろう。』

『リサさんみたいに胸の大きい人に私の気持ちはわかりません!』


怒って先に浴場へと向かっていった。

なんというか、聖女になる前のエイラは幼い感じで可愛らしいな。


『早く入らないと風邪ひいちゃいますよ!』

『今行く。』


そして底無しの優しさは健在。

扉を開けて浴場に入る、中はなかなかの広さで湯船も2人でも問題無く入れる大きさだ。


『髪を洗うのでここに座ってください。』

『…?』

『一緒に入るってそういう事じゃないんですか?』


そういう事とは?

両手に泡をいっぱい立て私を待っているエイラだが、残念なことに私には理解できなかった。


『『?』』


お互いに顔を合わせて首を傾げる。


『洗い合いっこするんじゃないんですか?』

『…!』


その一言を聞いた私は一瞬で全てを理解した。


『理解した。』

『ふぇ!早すぎて見えなかった…』


エイラが私の髪を洗い始める。


『なんだか懐かしいです。

いつまで居てくれるかわかりませんが、これからよろしくお願いしますね。』


ーーーーー


「こ、これは!

そこのは何者だ!」


あぁ、あの時に私はなんと答えたのだったか…


「聖女様の誕生した聖地を…」

「なんたることだ。」

「あの者を殺せ!聖地を燃やした大罪人ぞ!」


虫の鳴き声がする。

せっかく人がいい気持ちで思い出に浸っていたというのに…


「【ファイアボール】」


虫は燃やさねば。


リサの元へ向かってきた者達は声を出す隙すらなく消し炭となり、リサは再び思い出の中へと戻っていったのだった。

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