第10話 夢

コンコン


「入れ。」

「し、失礼しましゅ!」


夜、軽く身だしなみを整えてリサさんの部屋をノックし、あまりの緊張に噛んだ。

夜伽に呼ばれたメイドってこんな気持ちなのかな、と考えてしまった。


「来たか。」

「はい!エイラ、抱き枕になりにきました!」


何故そこまで言った?

いまいち聖女の口調がわからない。純粋で天然っぽいけど空気はある程度読める、そんな感じなのは間違いなさそうだけど…


「そのまま喰ってやろうか?」

「食べる、お腹空いているのですか?この時間に食べると体に悪いですよ?」

「…やはりしっかりと教育するべきだろう、此処まで知識が無いのは危険だぞ?」


私が意味を理解していても、聖女はわからないのが普通らしく、話した言葉は意味を理解していないと伝わる事だけ。

ただリサさんがソッチ系の冗談を言った事はかなり意外だった。


「勉強は明日からするとしてだ、体が冷える早く来い。」

「失礼します。」


恐る恐るベットに手をつく、私のベットより柔らかめだけど全然許容範囲内。


「フカフカで暖かいですね〜。」

「聖女は硬めの方が好みだと聞いていたが、偶には柔らかいベットもいいだろう?」

「はい!」


でも1つだけ、ベットがシングルサイズで狭いのはどうにかしたい。

リサさんとピッタリくっ付いてギリギリ、私は壁側に寝かせられて頭と腰を抑えて強く抱かれている。


「【パーフェクト・スペース】」

「ありがとうございます。」


リサさんが使った魔法は、特定のエリアを人の住みやすい環境にする魔法です。


「聖女、いやエイラ…」

「なんでせう?」


かなりの眠気が襲ってきてる、起きているのももう限界。


「私はお前をーーーーー」


ーーーーー


「あれ?」


私は気づいたら前世の家に似ている不思議な空間に居た。


此処は何処なのか、最後の記憶はリサさんに抱きしめられながら眠った記憶。

この場所は夢ということになる。


「久しぶりな気がするな。

おっと?」


今の私、社畜時代の姿じゃん。

スーツ着てるし、身長もそこそこ高い。


夢という事は家族とかも居るのかな?


まぁそんな都合の良い話は無かった。

外に出ようとしても不思議な力で扉の鍵は開かず、通信機器は使えない。


『助けてください!』


「!」


無音だった家に響く甲高い子供の声。

声の出所は付く気配の無かったテレビ、映像も映っていて中世っぽい街が黒いヘドロに襲われている映像だった。


『神様!聖女様!』

『聖女様〜!』

『助けてくれー!』


黒いヘドロは街に住む人を襲い、切って、潰して、溶かして、目を背けたくなる光景が広がっていた。


『防衛ラインを構築しろ!』

『奴等は神聖魔法に弱い、剣にエンチャントするんだ!』


騎士や冒険者が戦っているが僅かな時間稼ぎにしかならない。


『早く、戻ってきて…』


幼い子供の声が聞こえたあと、テレビは消えて真っ暗な画面に映ったのは今の私、聖女として選ばれたエイラだ。


「あ…」


ガチャ!


鍵が開く音が玄関の方から聞こえる。

私は行かねばならない、聖女としての役割に戻る為に、そして人々を助ける為に。


【ーーろ】


頭に声が響いた。


【ーきろ】


頭がガンガンしてうるさい。


【起きろ】


ーーーーー


「あえ?」

「起きたか、私の抱き枕の癖に逃げようとするとは思わなかったぞ。」


夢から覚め、もやが掛かっていた頭がスーッと冴えていく。


リサさんと凄い近距離で見つめ合っていた。


「何故逃げようとした?」

「逃げ?私は逃げようとはしていませんよ。」

「…そうか。」


私は気づかなかった、質問してきたリサさんがとても冷たい目をしていたことを。

私の首元に両手を当て、


「え、あの、グッ…」

「少し優しくしすぎたか、しっかりと立場を理解させる必要がある。」


ギリギリ息が出来る程度まで絞められてる。


「苦し…」

「そうか、苦しくしているから当たり前だな。」


苦しいのがある程度経つと冷静になれる。

逃げようとした、多分夢であの扉に向かったのが逃げに入るんだと思う。

そう考えるとあの夢も私自身の物じゃなく第三者、神か世界に見せられた物なんだろう。


「……」

「これから、いや今日が最後かもしれんが毎日行う予定だ。」

「は、あぁ…」


首から手が放され、私は一気に酸素を取り込む。


「な、なんで…」

「よく頑張ったな。」


抱きしめられ頭を撫でられる。


苦しかったのが消えて、喜びの感情が湧き出てくる。


私は知っている。

苦しみを与えた後に褒めたりして喜びを与えるのは良くある洗脳方法、詳しくはわからないけど相手が正しいと思い込むのと同時に依存心が生まれるらしい。


「やめ、て…」

「今日は終わりだと言っただろう?」


でも、それを知っていたとして抵抗できるかは別なのだ。


「震えてるぞ、寒いのか?」


怖いんですよ。


「本当に可愛らしいな。

まだ朝日が昇るのは先だ、もう少し寝ると良い。」


恐怖の原因に抱き締められながらは寝れる気がしない。それに聖女も流石に首を絞められて友好的にはなれないみたいで、何も言わない。


「寝れないなら締め落としてやろうか?」

「あ、だ、大丈夫です。

自分で寝ます…」


此処で過ごして感じていた、楽しく浮かれていた気分はすっかり無くなってしまった。

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