第9話 抱き枕

「……」zzz

「これは、どういう状況だ。」

「んぅ…」


寒い、タオルが落ちちゃったのかな…


「起きろ、このままでは風邪を引くぞ。」


ベットが硬い、確かに私の好みは硬めだけど流石に硬すぎる。


「イタ!」


急に額に衝撃を感じ目が覚めた、目の前には左手でデコピンをした体勢のリサさんが立っている。


「うぅ、痛かったですよ!

急に何するんですか?!」

「起きなかったからな。それに今はもう昼の時間、生活リズムが崩れて体調が悪くなるぞ。」

「そうだったんですね、ありがとうございます!」


チョロすぎる聖女の在り方に少し戦慄していたら気づいた。


「あれ?左腕は折れてたのでは?」

「あぁ、昨日は魔力が切れていたから治せなかっただけで、あれぐらいの傷なら自分ですぐに治せる。」

「もしかして、リサさんも聖女だったりしますか?」

「違う。」


勉強をしていた間に教会所属のヒーラーを何人も見てきましたが、リサさんがしていた怪我を治すので疲労困憊になっていました。

確か、魔力切れだって言ってました。


「魔力沢山あるんですか?」

「昔鑑定した時は人並みより少し多いB+だったな。」


常人がD、才能ある人がCだから、リサさんのB+はかなり多い部類に入る。

聖女の私はSらしいけど、魔法は使い放題で実質無限だから関係ない。これが元からなのかは、聖女になる前に測った事なかったから真実はわからないけど。


「多いですね!」

「聖女である貴方から言われると嫌味にしか聞こえないな。」

「あぅ、ごめんなさい…」

「クク、気にするな。

それに私よりも魔法面では強い聖女を奴隷に出来てるのは気分がいいんだ。」


私がリサさんの奴隷って事すっかり忘れてた。

というか昨日より遥かに心の距離が近くなってる気がするのは、抱き枕になってたのが良かったのかもしれない。


「リサさんが優しかったので奴隷だってこと忘れてました!」

「奴隷に堕ちた事、理解させてやろうか?」

「痛いのは嫌です…」

「そうだな、まずーー」


少し怖がる私を無視し、何故か嬉々として私を奴隷としてどう扱うかを話し始めた。


服は布切れ、食事は床で、鎖は基本外さず、重りはもっと重い。

私が考える奴隷のイメージ、そのまんまだった。


「後は、ヤバイ貴族に貸し与えたりとかな。」


それだけは想像すらしたくない…


「最後のは冗談だ。

そんな青い顔で心配しなくてもいい、そんな事があれば私が嫉妬で狂ってしまうよ。」

「……」カタカタ

「震えているのか、可愛いな…」


リサさんドS!

心の距離が近付いた事で素を見せてくれたのか、理由はわからないけど演技でもしてるのか…


「昼は何か食べたい物はあるか?」

「えっと…」


不思議な事にあまりお腹空いてないんだよね。


「簡単なので大丈夫ですよ?

リサさんは病み上がりですし、寝起きなのであまり沢山は食べれなさそうなので。」

「ではサンドイッチにしよう、昨日作ったパンがあるんだ。」


魔法で掃除しながらキッチンへ歩いていった。

私は髪の毛を整えよう、今日は結構ぐちゃぐちゃでかなり跳ねてる。


「何してる、髪なら後でやってやるから先に食べるぞ。」

「え、早いですね?!」

「パンと具材を切るだけだからな、すぐに済むさ。」


整える時間なかった。

テーブルには既に紅茶とサンドイッチが並べられていた。


「食べるといい。」


食べやすい大きさに切ってくれていたおかげもあり、私もリサさんもすぐに食べ終わり、果物を摘みながらゆっくり紅茶を飲む。


「そういえば昨日はどうしてあんな怪我を?」

「……」


リサさんは目を瞑って暫く考えたあと、私の目を見ながら話し始めた。


「とある魔道具を取りに行った代償だ。」

「魔道具をですか?」

「この世界でもトップクラスに強い戦闘用魔道具だ。」


そんなに強力な魔道具を何に使うんだろう?


「同クラスの魔道具で欲しいのがあと4つあるが、今は取りに行けない場所にあるから暫くの間は暇だな。」

「では、しっかりと休息を取りましょう!」

「そうだな、それもいいかもしれない。」


おっと?

てっきりそんな時間は無いと断られると思ってたんだけど、意外と肯定されたな。


「今日は久々によく眠れたおかげか、とても調子がいいんだ。

これだけ調子に差が出るのなら、もっと休息を取るべきなのかもしれない。」

「それが良いですよ!その第1歩として私と同じだけ睡眠をとりましょう!」

「ふむ…」


何故そこで私の顔を見ながら悩むの?


「?」

「…ちょうど良い抱き枕を探していたんだ。」

「…?

いい枕は見つかりました?」

「あぁ、見つかったよ。」


これ、もしかしなくても抱き枕って私の事なのでは?

私から目を逸らさないし。


「見せて貰えませんか?!

私抱き枕を自作するぐらい好きなんですよね。安心するのか寝やすいんですよね。」

「いいぞ。」


リサさんが懐から取り出したのは鏡。さっきの予想は的中していたようです。


「これは鏡ですよね?」

「そうだ。そして私の抱き枕でもある。」

「その抱き枕が、私って事ですか?」

「あぁ、今日から頼むぞ。」


そんな当たり前の様に言われても…

拒否権は私には無いからいいよって言うしかないけど。


「わかりました!

今晩からよろしくお願いしますね。」

「…もっと教育するべきなのかもしれないな。」


どれだけ言われてもこの口調は治りません。

文句を言うなら聖女を作った神か、固定してる世界に言ってください。


「だが楽しみにしている。

さて、サクラを見に行くか。」

「はい!」


私はこの生活が心地良い。

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