第8話 傷だらけ

この家に軟禁されてから3日が経った。

毎日庭の桜を見る、普通なら桜を見めるのに飽きてもおかしくないけど、私は時間の感覚を忘れるほど桜を見つめ続ける毎日。


リサさんが私をどう思っているのかについて、この家で過ごしていてわかった。


リサさんは私を何故か大切に思ってて、私に出来るだけ魔法を使わせないようにしたり、料理する為に包丁を持ったら取り上げるなど、かなり過保護。


そんなリサさんは毎晩何処かに出かけて行き、休んでる所を見た事がない。

という訳で、


「寒いです…」


私はリビングでリサさんが帰ってくるのを待っています。

いつもなら部屋で休めと命令されるのだけど、従順な私に油断していたのか、今日は命令が無く家の中なら自由に動けた。


今はリサさんが出掛けてから4時間くらい、時計がある訳じゃないから感覚だけど多分合ってる。

聖女は役割を果たすまでは実質不老不死だから眠らなくても過ごせるけど、朝までオールは流石に疲れると思う。


「遅いなぁ…」


朝、昼に休んでなかったし、夜出掛けても日付変わる頃には帰ってくると思って待ち伏せしてた。

ちょっと後悔し始めてるけど、此処まで起きてたし最後までやり遂げる。


ホー ホー 


「……」


ここ動物生息してたのか。

花畑でも虫すら見なかったし、居ないのかと思ってた。


ガチャ!


荒々しく扉が開けられた音がした。


「おかえ、り…」

「何故起きている…」

「そんな事を言ってる場合では無いですよ!

どうして、そんな怪我を!」


帰って来たリサさんは身体中から血を流していた。

綺麗だった鎧は壊れ、右腕は折れているのか力無くぶら下がり、血の匂いに混じって焦げた匂いもする。


「貴方には、関係ない…」

「えっと、タオル…

じゃなくて、魔力!私が魔力使う許可をください!」


私が聖女になって強化された回復魔法ならすぐに治せるはず。


「ダメだ…」

「何故ですか?!」

「【ヒール】…私でも使えるからだ。」


使えると言っても血が止まっただけで、骨は折れたまんまだし、傷は残っている。


「ですが…」

「部屋に、うっ!」

「リサさん!!」


私に命令しようとしたリサさんは体力の限界を迎えて気絶し、私に倒れかかってきた。


魔法を使えない今の私ではリサさんの傷を治す事はできない、今私に出来る事は腕を固定したり傷口を洗う事だけ。

2階にあるベットを使いたかったけど、怪我人を無闇に動かすのは危険だって聞くし、私の力じゃ2階には上げられない。


「よし、やろう!」


リビングに掛け布団を敷いて、お風呂場にあるタオルとバケツを持ってくる。


「繋ぎのところが溶けてる…」


鎧を脱がす事に苦労しつつも、血を拭いて包帯の代わりにタオルを巻く。丁度いい感じの木の板を腕に当てタオルで巻き固定する。


「リサさん…」


私出来るのはこれぐらい、後は目覚めるのを待つだけ。


「あれ?」


視線がとある部屋に向かって引っ張られる。

久しぶりに行動を強制された、リサさんと過ごしてる間は口調と心だけで行動は強制され無かったのに何故今になって…


視線の方向にある部屋はリサさんの部屋。


「…イラ……」

「!」


ほぼ無意識で部屋に歩いていた私を止めたのは、リサの苦しそうな声だった。


「エイラ…なんで…」


目は開いてない、意識もない。

この言葉は寝言に近いのだろう。


「だめ、逃げよう…お願い…

私と…共に……」


リサさんの手を握る。

魘されるリサさんは迷子になった子供に見えて、放っておけなかった。


「大丈夫、一緒に居ますよ。」

「ほんとう…?」


起きてはいない、だけどリサさんには伝わっている気がした。


「本当ですよ。」

「ずっといっしょ、ずっと…」


幼い少女が甘えるかのように私へと近づこうとしてくる。そんな動き方したら傷が開いちゃう、比較的に傷が浅い左側に添い寝する。


「おやすみなさい。」


腕と足で軽く捕まっちゃったし、此処で寝るしかない。


「「……」」zzz



ーーーーー


「聖女様はまだ見つからんのか?!」


教会の会議室で激昂する1人の男、教皇は普段の優しい笑顔や温厚な性格は消え去り、大きな声で怒鳴りつけている。


「報告によりますと、聖女様を誘拐した盗賊団は何者かに壊滅させられ拠点に聖女様の姿はなかったとの事です。」


そんな教皇に怯むことなく会議を進める教会の幹部達、それは慣れなどでは無く皆がほぼ教皇と同じ状態だからだ。


「壊滅させた者の特定は?」

「詳しくは不明。

ですが僅かに生き残っていた者が我ら聖騎士の格好を見て、辞めてくれ!と叫んだので我々と似たような騎士である可能性が高いです。」


報告しているのは聖騎士長、現教皇が就任した時に指名されたベテランだ。


「聖騎士であると?」

「全身が隠れる騎士が犯人だったのかもしれませんが、その可能性も捨てきれません。」


調査の報告が行われ、探索方針、聖女を売った国への対応、などを話し合い会議は進行していった。

会議が終わる頃には朝日が登っていた。


「我々は絶対に聖女様を取り返さなければならない。

皆の者、全力を尽くせ!」


教皇の締めで会議は終了。

会議参加者は自らの持ち場へと戻る、教皇も神の像へ祈りを始めた。それは聖女が誘拐されて以降声が聞こえない神に人類全体の許しを乞うためであった。

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