第7話 庭園

かなり長い間お風呂に入っていた。

もう少し入って居たいとゴネたんだけど、強い口調で注意されて上がらせられた。


「喉は乾いていないか?」

「大丈夫ですよ。」

「ならいいが少しは飲んでおけ、レモン水でいいか?」

「はい!ありがとうございます。」


やっぱり優しい。


「昼食までは庭に行くぞ。

その後は自由時間だ。」


あの綺麗で懐かしい花が沢山ある庭に連れて行ってもらえるらしい、でも自由時間って何すればいいのだろうか。


「あのぉ、私は何をしていれば…」

「自由だ。」

「いや、えっと…」

「やりたい事を思い出すと良い。

自分が何をやりたかったのか、今まで何をして過ごして居たのかを。」


私が何をやりたかったか…


私今まで何をして過ごしてたっけ?


両親と過ごした家の事は覚えてる、前世の記憶も覚えてる、でも忘れてる。

聖女にされる直前にやってたことを思い出して、みよ…


「ぉーーー」


確かあの日は、約束で街に行って…

あれ?誰との約束だっけ?


「おい!大丈夫か?!」

「リサ、さん…」

「手を握るといい、少しなら安心できる。」


リサさんの片手を両手で抱くように握りしめる。


「私、約束して…」

「約束?」

「誰かと、何かを約束したのは間違いなくて…」


魔法かはわからないけど、抱いてる手から温かい光が入ってきた。

だんだん不安で支配されていた気持ちが収まっていく。


「無理して思い出さなくていい、私がきっと思い出させてあげる。」

「忘れてるのに、原因が…?」

「あぁ、神を自称するクソ野郎の仕業だよ。」


元とはいえ教皇直属の聖騎士が神をクソ野郎って言っていいのか?

そう考えたらなんだか少し面白くて、気分がだいぶ良くなった。


「落ち着いたか?」

「はい、ありがとうございます。」


やっぱり聖女になってから感情の起伏が激しくなったと感じる。

昂っても直ぐに落ち着き、些細なことでまた昂る。


「今日はもう休んでもいいぞ、眠れないなら命令で眠らせることも出来るが。」

「い、いえ大丈夫ですよ?!」


さりげなく怖い事言ってきます。


というか、奴隷に対する命令ってそんな事も出来るんですね。簡単な命令しか出来ないかと思ってた、動くなとか、取ってこいとか。

もしかしたら気絶とかも出来ないのかもしれない…


「本当か?

別に庭に行くのは明日でも大丈夫だし、無理して外に出る事はない。」

「お庭って綺麗な花が沢山咲いてた所ですよね?私見たいです!大丈夫なので連れてって欲しいです。」


薔薇以外にもあるのか見てみたい、桜とかあったらいいな。

あー、でも今は秋だし桜は咲いてないかな…


「…花が好きなのだな。」

「好きというよりは懐かしさ、でしょうか?」

「ふふ、そうだったな。」


私の手を取り、優しくエスコートして外に連れ出してくれた。


「すごい…」


思わず口に出してしまう。

沢山の素敵な花が咲き、見渡す限りの花畑。


前の世界で何度か見た事のある花だけでなく、こちらの世界の花も共に咲いていた。


薔薇、チューリップ、ひまわり、パンジー、どうやら此処は季節関係なく咲いているみたい。

ひまわりは夏、パンジーは寒さに強く冬のイメージが強い。


「こっちだ。」

「はい!」


リサさんは私の速度に合わせて歩いてくれる。

私が花が気になって止まっても待ってくれて、私のペースで歩かせてくれる。


30分ぐらい歩いた時かな、


「あ…」


大きな桜の木が見えた。


「あそこで少し休もうか。」


私は桜から目が離せない。

懐かしさ、故郷に帰ってきたような、不思議な感覚…


「座るといい、満足するまでサクラを眺めようか。」

「……」

「いい子だ…」


頭を撫でなれるのに反応出来ないほど、私は桜を見つめ続けた。

本当に綺麗…


「聖女、そろそろ戻るぞ。」

「へ?」

「もう昼の時間だ、私は行かねばならない所があるから少し急ぐぞ。」


どれだけ見つめ続けてたのだろう。

私はリサさんに顔を合わせながら言われるまで時間の感覚もなかった。


「桜綺麗でした、本当にありがとうございます。」

「別に構わない、私のやらねばいけない事の時間稼ぎにもなる。」

「時間稼ぎ?なんのですか?」

「この件について私に質問することを禁ずる。これは命令。」

「わかりました!」


リサさんはあの桜をどうやって作ったんでしょうか?

季節関係なく綺麗な状態で保持されてるのか、魔法で見せられてる幻なのか。


「今日の昼は何が食べたい?」

「お昼ですか?」


もうリサさんが転生者だってわかってるし、前の世界の料理だったら何でもいいかな。


「私は果物だけでも構いませんよ。」


在り方に妨害された…

いい加減にしてほしい、今の状況は実質短い休暇なんだから自由にさせてほしかった。


「ヤキソバ、ナポリタンだったらどっちがいい?」

「!」

「ふふ、何だそのマヌケな顔は。」


私の果物だけを当たり前のようにスルーされて、自分でもわかるぐらいポカンとしちゃったよ!

めっちゃ恥ずかしい…


「さぁどっちだ?」

「う、迷います…」

「家に帰るまでに決めるといい。」


究極の選択。

オムライスでトマト系は食べたし、ソースの焼きそばにするべきか…


「ちなみにだが、ナポリタンを選ぶとオニオンスープ、ヤキソバを選べばワカメスープだ。」


まさかスープまで付いてくるとは…!


「えっと、えっと…」

「焦らなくていい、ゆっくり考えるんだ。」


両方食べたいって言ったら叶えてくれるかな?


迷いに迷った結果、家に着くまでに決める事はできず。

リサさんは焼きそばセット、私はナポリタンセットで半分ずつ食べた。手間をかけさせてしまった申し訳なさで少し食べずらかった…

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